ダンカイル率いる鬼族の軍勢を撃破した勇者一行は、森の先にある鬼族の本拠地に差し掛かろうとしていた。
「もうすぐ鬼族の王がいる城が見えますよ」
「お城なんてあるんだ!」
ライオネルの案内に楽し気な声を上げるコレット。敵の本拠地に乗り込もうという時に呑気なものだが、それが彼女の良いところだとケントは思っていた。
「城って言ってもエルドベアの議事堂やキャニスターの王城みたいなものを想像するとがっかりするぜ」
以前からフォックスバローで活動しているカストルは、ニヤリと笑った。
「あれが鬼族の城だな!」
目の良いジャレッドがいち早く城を発見した。
「確かに、お城っていうにはちょっと小さいですね。砦と呼ぶべきでしょうか」
そう言いつつも、ケントが想像していたよりはずっと立派な建物だったので内心驚きながら観察する。
鬱蒼とした森の中に突然現れる直径約三キロメートルの開けた空間。そこには直径一キロメートル程の台地を囲むように幅約一キロメートルの輪状の湖が広がっている。台地の上にある城への道は、一本だけある幅十メートルほどの石橋だけだ。一目で攻めづらい城だと分かる。
「どうやって城まで行くの? まさかバカ正直に橋を渡って行ったりしないよね?」
コレットの発言はもっともなのだが、では舟でも使って渡るかと考えたら、橋を渡るよりも危険なのは言うまでもない。
「危険と分かっとってもいくしかないんよー」
マキアが小さな妖精の頭を撫でながら
「まあ矢の雨が飛んでくるのは分かっているし、逆に対策もしやすいさ」
肩をすくめて、だが自信満々な笑みを浮かべるカストル。彼は本当に百戦錬磨の強者なのだと、合流して以後ケントは感心しきりである。
そんな彼の様子を、不安そうに見つめるアイリス。そして彼女の様子にアベルが気付いた。
(何か心配事があるようじゃな?)
だが理由が分からないので、下手に質問して悪い状況を招くよりはと様子見をする事にしたのだった。
◇◆◇
「おのれ勇者どもめ、ダンカイルを倒すとは」
鬼族の王は地図を見ながら怒りに震えていた。
「落ち着け、ゴードン。混沌の申し子たるお主は如何なる時も
鬼族の王ゴードンをたしなめたのは、目深にフードを被ったローブ姿の人物だった。顔は隠れて見えないが、声から年配の女性である事がうかがえる。
「すまない、使者どの。一刻も早く万物の母たる混沌の主をこの地にお呼びしたいがために焦ってしまった」
謝罪する彼を手で制し、地図の城門付近を指差す。
「ククク、まだお主にも勝機はある。奴等は魔法で矢を防ぎながら橋を渡ってくるだろう」
ローブの女性に勇者達の動向を教わり、次なる策を考えるゴードン。彼女は音もなくその場を離れると、何処かへ消えてしまった。
「奴等は弓を警戒している……ならば、あれを使うか」
だが、思案するゴードンがそれに気付く事はなかった。しばらくして、策をまとめた彼は部下を呼び指示を出す。
「よしお前達、第二倉庫の資材を準備しろ」
部下達が準備のために立ち去ると、彼は策が成功する様子を想像して一人笑うのだった。
「目にものを見せてやるぞ、勇者よ!」
――――――
鬼族の王 ゴードン
才能値 40000