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鬼族の罠

 一本橋を進むケント達は、矢を防ぐ障壁をコレットが、魔法を防ぐ障壁をアイリスが張り、慎重に進んでいく。橋に突入しても城の方に動きはなく、ケント達は敵が攻めて来ているというのに沈黙を続ける鬼族に不気味さを感じ始めていた。


「変ですね。これまでの鬼族の行動から考えれば、我々の姿を認めたらすぐに迎え撃ちに出てくるはずです」


「矢で狙い撃ちにするにしてもここまで引き付ける必要は無い。やっぱり何か企んでるな」


 ライオネルとカストルの会話を聞きながら、若いメンバーはそうなのかと感心していた。ケントは単純にまだ弓矢の射程距離に入っていないからだと思っていたのだが、二人の様子からするとそうではないらしい。


「私達が逃げられない位置までおびき寄せて、橋を壊すとか?」


 コレットが予想する。確かに船もない湖の真ん中に落とされたら大変だ。魔法があるので溺れ死ぬ事はないが、そこを上から攻撃されたらひとたまりもない。


「いいセンつくね~、橋を壊すって事はないだろうが俺達が逃げられない位置、つまり中央部で何らかの攻撃をしてくる可能性が高いぞ」


「それで、防ぎようのない攻撃をしてきたらどうするんじゃ?」


「相手の攻撃次第だけどね、本当にどうしようもない場合はイチかバチか湖に飛び込むしかない。左右に別れたら不味いから、飛び込む時は全員右手に飛び込もうか」


 カストルが方針をまとめていく。ベテラン勇者の統率力に圧倒されっぱなしのケントであった。


 橋の中央部に到達すると、予想した通り城の方に動きがあった。城門が開き、姿を現したのは横幅が橋と同じぐらいの巨大な台車だ。その上には前面に凶悪な棘が無数に突き出した鉄板が乗っている。さながらそれは迫る壁であった。


「見るからに凶悪な罠だな。この城の地形からして、設計段階から考えられていたんだろう」


 後ろを振り返ると、いつの間に用意したのか、同じ台車が岸の方から迫って来ていた。


「あんな伏兵が潜んでいたなんて、気付きませんでした。先程の兵といい、どうやって私の目を欺いているのか気になります」


 アイリスが疑問を口にするが、今は悠長に考えている場合ではない。台車は大勢の鬼族が押しているらしくかなりの速度で迫って来ていた。


「魔法で壊せないかな? 新しい魔法を覚えたのよネ」


 コレットが危機感のない口調で言い、魔法を使う。


『サンダーストーム』


 猛烈な雷の嵐がケント達を中心に広がり、前後の壁を打ち据えた。


「ぎゃあっ!」


 壁の向こうから鬼族の悲鳴が聞こえ、台車の動きが止まる。だが上手くいったかと思った次の瞬間、台車はまた動き出した。ただでさえ死ぬまで戦いを止めない鬼族だが、どうやら壁の向こうで人員交代をしているようだ。


「しょうがない、見切りをつけるのは早い方がいい。全員右手に飛び降りろ!」


 早くも決断したカストルに促され、湖に向けて飛び降りる一行。事前の話し合いが無ければ尻込みする者が出ていただろう。


「このまま着水すると思ったら大間違いだぜ?」


 全員飛び込んだ事を確認したカストルが、素早く術を発動させる。


「我願うは汝の助力。盟約に従い、出でよリントヴルム!」


 簡潔な呪文を素早く唱え、ケント達が落ちる先に巨大な翼竜を召喚した。上手くその背に全員が降りると、カストルは驚いた表情の一同に笑顔を向けた後で翼竜の後頭部に顔を向け指示を出す。


「このままあの城まで飛べ!」


 勇者達を乗せ城に向かって飛んで行く翼竜へ鬼族は矢を射かけるが、アイリスが障壁を張って防いだ。矢を防ぐ障壁はコレットの担当だったが、先程強力な魔法を使ったので代わりに張ったのだ。


 こうしてケント達は大して消耗する事無く鬼族の城へと到達するのであった。


「なんで最初から呼ばなかったのかって? そりゃ切り札は無駄づかいしちゃいかんでしょ」


 余裕の態度で語るカストルに、ケントは内心とても敵わないと思っていた。

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