リントヴルムは鬼族の城に到着すると、中庭にケント達を降ろした。
「さて、どこかに隠れてるなんて事はないだろうが鬼族の王を探すか」
カストルがそう言い、歩き出そうとするとアイリスが声を上げ止めた。
「お待ちください。その必要はなさそうです」
全員が彼女に注目し、その指差す方を見た。すると、城の中庭から正面にある大きな扉がまさに開こうとしているところだった。
「今度こそ、私の目にはっきりと映っております。あの威圧感は間違いなく鬼族の王に違いありません。相当な手練れのようです、ご注意を」
アイリスの言葉に頷き武器を構える一行。扉が開ききろうとする直前、マキアが口を開いた。
「今回はウチが先陣を切るよ」
彼女は手助けが間に合わず蛮族の仲間に多くの被害が出た事を悔やんでいた。そしてその元凶である鬼族の王ゴードンを自分の手で倒したいと思っていたのだ。
「小娘が生意気な口を聞きおって。我は混沌の申し子、
マキアの言葉が耳に届いたらしく、扉を開いて現れたゴードンは怒りの形相で怒鳴り声をあげた。
まさに戦闘が始まらんとするその時、軽い調子で声を上げたのは勇者カストルだった。
「ああ、それそれ。その混沌の申し子って一体何なんだ?」
地を蹴り敵に襲い掛かろうとしていたマキアとゴードンの二人は調子を崩され、その場でよろける。
王は体勢を立て直した後ゴホンと咳払いをして、気を取り直したように説明を始めた。
「……よかろう、教えてやる。混沌の申し子とは万物の母たる混沌の主の寵愛を受けし者だ。この世に生きる全ての者は混沌の主から戦う力を授かっているが、その中でも特別な才能を授かる者がいる。それが彼女の寵愛によるものなのだ」
カストルは更に質問を重ねた。
「なるほど。それであんたはどうやって自分がその混沌の申し子だと知ったんだ?」
「それはな、ある日混沌の主の使者がやって来て告げたのだ。我こそが混沌の主に愛されし者だと。特別な使命を持ってこの世に生を受けたのだと!」
ゴードンは話しながら気分が高揚していくようで、次第に顔が紅潮していく。だがそこに冷や水を浴びせるような言葉をぶつけるカストル。
「ああうん、それ騙されてるよ」
話を聞いていたケントも、カストルと同じ考えだった。
あからさまに胡散臭い。混沌の申し子の話は本当だろうが、その使者は間違いなく偽者に違いないと思っていた。思わず仲間達を見回すと、全員の目がカストルの発言に同意であると語っていた。
「その使者って奴が黒幕ネ!」
そうコレットが言うと、ゴードンの顔は見る見るうちに真っ赤に染まる。もちろん先程の紅潮とは違う理由だ。
「貴様等、我を愚弄する気か!」
彼が手にした金棒を振り上げ、地面を強く打ち付けるとケント達の足元が激しく揺れた。同時に土の中から無数の岩塊が突き出して彼等を襲う。
「騙されてようが、お前はウチが倒す!」
岩塊を回避し、すぐに駆け出して大剣でゴードンに斬りかかるマキア。ケントもすぐその後を追うが、カストルは後ろに退いて距離を取った。
「お手並み拝見と行こうか」