マキアが振るう大剣がゴードンを頭上から襲う。
「ガキが!」
一声吠え、ゴードンがその巨体に似合わぬ素早さで斬撃を
吹き飛ぶマキアだが、既にアイリスの張った障壁が彼女の身を守った。すぐ後に続いたケントは斬りかかる前に魔法を放つ。
『シャイン!』
眩しい光に目を瞑るゴードン。そこにケントが斬りかかるが、鬼族の王は目を閉じたまま的確にケントを殴りつけた。
「こいつ、強いヨ!?」
コレットがとても意外そうに言った。
「当たり前だ、混沌の申し子たる我に
ライオネルやジャレッドも剣を構えたまま距離を取り、攻撃が止んだと見るや笑いながらコレットの言葉に答える。
「ふーむ、鬼族の王が強いのは当たり前じゃが……ここは出し惜しみ無しでいくぞ、すまんなマキア!」
アベルはこれまでのやり取りから敵の強さが鍛練によるものではなく生まれつきのものだと見た。杖を掲げて空狐に呼びかける。
「頼む、クウコ!」
「マキア、私達は退くぞ」
ライオネルが再びゴードンに向かおうとしていたマキアを制して後ろに下がる。
「ぶー! ウチがやるって言ったのに」
不満を口にするが、戦力にならなくなるので渋々下がる。それを見届けた空狐が技を発動した。
『
中庭を異質な空気が包む。ジャレッドが先陣を切り、ゴードンに斬りかかった。
「ぐぅっ? 何をした!」
駆け寄るゴブリンを迎え撃とうと棍棒を振り上げた時、彼は自分の身体に変化が起きているのを理解した。脳内でイメージした自分の動きと、実際の動きに大幅な差異を認めたのだ。
反撃が間に合わず、あえなく袈裟掛けに斬りつけられる鬼族の王。その様子を、カストルは冷たい目で見つめていた。
「あいつは才能値通りの強さか……混沌の主の寵愛、ねぇ?」
顎に手を当て、考え事をするベテラン勇者。その眼前では既に戦闘が終わりを迎えようとしていた。
生まれつき類まれなる強さをもつ鬼族の王は、当然格上の相手との戦闘経験がほとんどない。よって空狐の能力で完全に無力化したのだ。
「ほい、魔法いくヨー」
遊びのように気安い口調でコレットが攻撃を宣言し、魔法を放った。
『ソニックファイア』
「からの……」
『チェインファイア!』
炎魔法のコンボで鬼族の巨体が焼き尽くされていく。絶叫を上げ炭化していく王の姿を見て、ケント達は追撃の必要なしと判断した。
「アアアア! 我は……混……沌の……も……ご」
その場に膝をつき、崩れ落ちて絶命するゴードン。強大な力を持つ鬼族の王は、巣穴の主に力を封じられあっけなく最期を迎えるのだった。
「もうー、クウコ使うの早すぎ! お兄ちゃんの馬鹿!」
「簡単に吹き飛ばされた奴が何を言うとる!」
マキアが文句を言い、アベルが反論する。微笑ましい兄妹喧嘩を見ながら、今回全然役に立たなかったなと思うケントだったが、その耳にカストルの何かを確信した言葉が届いた。
「なるほどね。やっぱり思った通りだ」
一体何が? と質問しようとした時、アイリスの顔が青ざめているのが視界に入った。
「アイリス?」
彼女に顔を向け、名を呼ぶと怯えた様子で口を開いた。
「ケント様……カストル様は、私達を」
「混沌の主は我々に力を与えているという、巣穴の主の言葉は理解した」
アイリスの言葉を遮るように、強くはっきりとした口調で話しだすカストル。
「その主の言葉を聞けるのは、高い才能値を持ちながら戦う力を持たなかった者だけ。普通に才能値通りの強さを持つ者は声を聞く事が出来ない。そして鬼族の王が語る混沌の申し子とは、特別な使命を与えられた者だそうだ。……もうわかるな?」
そう言って、ケント、アイリス、アベルを順番に見つめていくカストル。ケントにも彼の言わんとする事がはっきりと分かった。
「混沌の申し子とは、お前達『出来損ない』の事だ」
双剣を構える。
「その中でも史上最高の才能値を持つケント。お前こそが奴の言っていた、混沌の主の寵愛を受けた存在である事は間違いない!」
そうだとしても、それが悪であるとは限らないのではと、反論が頭に浮かぶが口が動かない。カストルが向ける尋常ならざる殺気が、ケントを完全に委縮させていた。
「俺達人間にとって才能値で与えられた力は神から授かったものであり、その
ケントだけではない、その場にいる全員がカストルの気迫に圧され動けなくなっていた。
カストルが、地を蹴った。