「ああ、そりゃもちろんさ!」
ギルベルトの問いにジョッシュが答えた。その発言を皮切りに次々と同意の声が村人達から上がる。
「モルガーナもか?」
笑みを浮かべたままギルベルトが目の前の少女に尋ねる。
「うん、私もみんなの夢を応援したい!」
必死な顔で訴えるモルガーナの肩に手を乗せ、頷く黒騎士。
「よしわかった! 俺も協力するぜ。なあ?」
そう言いながらトーマスに顔を向ける。
「わかりました。エルバードから人を出しましょう。この人数では国家を再興するのは困難でしょうから」
トーマスの言葉に、村人達はまたざわめいた。
「国を作るのに人は必須だ。そしてこの人数ではとても足りない。外から人を受け入れる事は絶対条件だぞ。せっせとガキをこさえて国民を増やそうなんて短絡的な考えを起こすなよ? 気が長すぎるし結局血が濃くなりすぎて自滅するからな」
ここはあえて厳しく言う。夢を現実にするためには考え方から現実的にしなくてはならないのだ。
村の大人達も、口には出さずにいたがこの事は初めから理解していた。なので、村人達はすぐに静かになって受け入れの意思を示した。
「納得してくれれば人の問題はトーマスが何とかしてくれるから心配いらない。だがその前に解決しなくちゃならん事がある。モンスターだ。奴等が闊歩している状況では安心して家も建てられないだろ? だから、それを俺達が何とかするんだ。戦える奴はどれだけいる?」
ギルベルトの言葉に、イジュンが嬉しそうな声を上げた。
「オレたちの出番っすね! モンスターをバンバン倒していくっすよ!」
だがそれを手で制するギルベルト。
「いや、ただ倒していくだけじゃ意味がない。モンスターを全滅させる事は出来ないしな。そこで、これの出番だ」
懐から、アガートラームに貰ったメモを取り出した。
「あのドラゴンから貰ったやつっすね。鎧を作って貰うんすか?」
ドラゴンと聞いて、モルガーナが反応する。アガートラームの事だとすぐにわかったのだ。
「鎧って?」
「ああ、お前の保護者が材料を持ってくれば俺のこの鎧と同じようなものを作ってくれるとさ。この黒い鎧を着てモンスターを退治して回り、黒い鎧を着た人間は恐ろしいと奴等に覚えさせるんだ」
ギルベルト達もいつまでもここにいるわけにはいかない。黒い鎧を着た防衛団を結成してモンスターを威圧し近寄らせないようにするのだ。
その計画を聞いた時、イジュンとモルガーナの若い二人は大はしゃぎだった。
「まずは材料を集めないとな。モルガーナが知っているとアガートラームから聞いてるぞ」
早速村人も協力して鎧の材料を集める事になった。
◇◆◇
その頃、エルドベアのある部屋にて。
「ビアスよ、新しい服の着心地はどうかな?」
ビアスと呼ばれた青年は、笑顔で返事をした。
「とても良いです、ザッハークさん。ちょっと着心地が良すぎて逆に落ち着かないかな」
目にかかる茶色い髪をかきあげ、白い歯を見せて屈託のない笑顔を見せる彼は完全に目の前の議員を信頼している様子だった。
「まさか私が再びこの町に帰ってこれるなんて思っていませんでした」
ビアスもかつて追放された身だ。漁師として生活していたところにザッハークが自ら出向いていた。
「ギルベルト殿がホロウスタッドでモルガーナと合流したと聞く。数日ここでゆっくりしてからお主も向かうといい。トーマス殿が人を集めるそうだからな、彼等と共に馬車で行けば問題ない」
黒い鎧に身を包んだ英雄の話は聞かされている。是非とも会ってみたいとビアスは思っていた。
ビアスを寝室に案内させ、部屋に一人残ったザッハークに声がかけられる。
「いい調子だね♪ これで、あと一人……クックック」
虚空から発せられた声に動じる事もなく、暗い笑みを浮かべる中年議員だった。