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第二十話 こんなに綺麗なティン玉、見たこと無いですっ

 空に聳える白亜の城、ティン王国王城。その深奥、中庭に面した執務室に二つの人影が有った。

 人影は、白いタキシードとドレス(それぞれ夏期バージョン)をまとった、見目麗しい男女だった。この二人に出会えば、視線を奪われれても致し方なし、宣なるかな。

 しかし、人々の視線が真っ先に向かう先は、二人の衣装でもなければ顔でもない。絶対に「頭」だ。

 男女の頭には、それぞれ「人の腕」と錯覚するほど巨大な角が生えていた。そのような人間は、この世界(惑星マサクーン)には男女一人ずつしかいなかった。


 男性の名は「デッカ・ティン」。女性の名は「リザベル・ティムル」。


 二人は今、デッカの執務室にいた。それぞれ、大きな執務机の前に椅子を置いて、互いに向かい合って座っていた。

 中庭から射す真夏の陽光が、二人のデカいティンを黒鉄の如く、或いは炎のように輝かせていた。


 暦は「八月」に突入したばかり。

 八月。地球の日本であれば、一年の内で最も暑い月になるだろう。

 それは兎も角として、八月の「八」という字はカタカナの「ハ」に似ている。

 八月八日ならば、「ハ」が二つ並んで「ハハ」となる。その言葉を聞いて、「母」を想起する地球人は、恐らく一億二千万人ほどいる。


 八月八日は、惑星マサクーンに於ける「母の日」。


 母の日。地球では馴染みの祝日だ。「何故、地球の祝日があるのか」というと、マサクーンの造物主が「元地球人」だからだ。彼(あるいは彼女)の思い入れがある記憶や出来事は、そのままマサクーンにも組み込まれていた。


 尤も、地球(日本)の母の日は「五月」に行うのが通例だ。

 ところが、マサクーンの造物主(恐らく元日本人)は「語呂で分かり易いから」と、この日に設定していた。彼(或いは彼女)が落語家であったなら、座布団を全部没収されているだろう。


 しかし、日にちの違いはあれど、内容は同じ。惑星マサクーンに於いても、母の日は「母を敬い、贈り物をする」という習慣が有った。


 デッカも、リザベルも、母の日には、それぞれの母に贈り物をしていた。その事実に加えて、今年からはリザベルが王都に住むようになっている。それらの事実を鑑みて、デッカはリザベルに声を掛けた。


「今年は、お互いに同じものを贈るのはどうだろう?」

「良いですわね。是非、ええ、是非」


 デッカの提案に、リザベルは即応で、全力で同意した。


 かくして、二人は執務室に籠って、あれやこれやと相談していた。その最中、デッカのティンに天啓が下りた。


「『ティン玉(ティン・タマ)』のネックレスというのは――」


 ティン玉。それはピタラ石を材料にして造られた王国特産の宝石だった。その製造方法は存外に簡単で、「ピタラ石を丸めて圧縮する」というもの。圧縮率が高いほど輝きを増す。


 因みに、「ティン玉」という名称は、圧縮する際に「ティン力(ティン・ポウ)」を使うことに由来している。


 デッカとリザベルのティン力を用いれば、それは見事なティン玉ができるだろう。確実に「世界最高」の称号が付く。その至宝を得た母達は、増々美しさを増すだろう。その可能性を、デッカも、そしてリザベルも直感していた。


「どうだろうか?」

「とても素敵ですわ。『お義母上様(おははうえさま)』も、『お母様(おかあさま)』も喜びます」


 デッカの提案に、リザベルは即応で同意した。


 因みに、リザベルの言う「お義母上様」とは、デッカの母「マルコ・ティン」のこと。他方、「お母様」はリザベルの母「エリザ・ティムル」である。

 マルコの呼称が「お義母上様」などと、少々ややこしくなっている。その理由はデッカが使用している呼称、「母上」に由来していた。


 つまり、ややこしい呼称は、リザベルの「義母に気に入られる為の作戦」なのだ。健気な。

 尤も、「そのような気遣い」は、実はデッカもしていた。


 母親達の呼称に関して、「ややこしいこと」は、もう一つ有った。

 それは、リザベルとエリザの愛称は、それぞれ同じ「リザ」。なんでやねん。

 その為、デッカはエリザのことを「エリザ様」、或いは「リザ母上」と呼んでいた。


 それぞれ、ややこしい呼称の母である。しかし、二人にとって、どちらも大事な愛して止まない存在なのだ。


 愛する母達が、首からティン玉のネックレスをぶら下げて、大喜びする。

 二人が、首からティンタマのネックレスをぶら下げて、飛んだり跳ねたりする。


 母達が喜ぶ様子を想像するだけで、デッカとリザベルの胸はポカポカと湯気を立てて温まった。


「じゃあ、早速――」

「はい、やってみましょう」


 デッカとリザベルは、二人の母に対する想いを込めて、丁寧に、全力でティン玉を握り合うのだった。


 最強のティン力を持つ二人が、全力で握ったティン玉。その輝きは、現存する如何なる宝石にも勝った。

 しかし、如何せん二人はティン玉造りの素人だった。均一の大きさにすることは、中々難しかった。

 母達二人分のネックレスができる頃には、その十倍以上の不良品(不揃いの玉)が誕生していた。


「デッカ様、これ、如何致しましょう?」

「うむむ」


 全体としては不揃いの不良品。しかし、一つひとつは世界最高峰の宝石。捨てるには、余りに勿体ない。

 二人は考え抜いた末、「ブレスレットにして、これまでかかわってきた人達に贈る」ということで落ち着いた。

 以下、ティン玉を貰った人のコメントを抜粋。


「凄いですっ。こんなに綺麗なティン玉、見たこと無いですっ」

「このような綺麗なティン玉を賜り感謝致します(無表情)」

「まさか、これがティン玉っ!? 凄い、こんなに綺麗なティン玉が有るとはっ」

「「「てぃてぃてぃてぃティン玉っ!?」」」

「これはこれはお見事なティン玉でございますな」

「ワンダホーなティン玉でございますなあ」

「ティン玉、カーッカッカッカッ」

(((『ティン玉』というのか。お前達も面白いものを造るものだ)))


 一体、誰が何を言ったのやら? それぞれ分かった人は、宜しければコメント欄に書いて頂けると嬉しく思います。

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