幕間:ミサキ
「シャワーを浴びて来ていいー?」
「ああ。早くしてくれよ」
鼻息の荒い中年男性の腕から逃れたミサキは、素早く指先を男性の眉間に当てた。
「
「なにを…………うっ」
キングサイズのベッドに腰掛けた男性は、虚ろな目をしながら口を半開きにして呆ける。
口の端からヨダレが垂れてくるが、ミサキは嫌な顔をしつつも尋問を始めた。
「ええっとー。あなたはグラスターウェア社の機動甲冑開発部門の社員さんでいいんだよねー?」
「……ああ。そうだ」
「良かったー。えっとね、教えて欲しいんだけど。ホワイトチャリオットの製造工場ってどこにあるのー?」
「……それは、言えない規則になっている」
「はあ……やっぱり無理かー」
ミサキの【精神魔法】の腕前は悪くはないが、突出したものではない。
企業の守秘義務には口外不能となるよう予め【精神魔法】がかけられているが、それを打ち破るほどの力は持っていなかった。
ここは企業間闘争の最前線、【精神魔法】による尋問対策は万全なのが当たり前である。
だが抜け穴は何にでもあるもの。
ミサキは【淫夢】のスキルを使い、男を眠らせた。
夢の中では、ミサキが男の欲望に応えていることだろう。
一体どんなことをさせられているのか気にはなるが、見ない方が精神衛生上、よろしいことは経験済みだ。
「研修では散々だったもんなー……」
ミサキはサキュバスの血を引いている。
といっても親世代ですらなく、遠い先祖の話だ。
いわゆる先祖返りという奴で、ミサキにはサキュバスの幾つかのスキルが使えた。
好むと好まざるとにかかわらず。
ミサキが【淫夢】を緩めると、男の目が半分ほど開く。
今の男は夢と
「うう……ん……」
「ホワイトチャリオットの製造工場の場所、教えてくれたら何でも言うこと聞いちゃうよー?」
「ふひ、ミサキちゃん……おじさんの……」
「あーまだまだ。お預けだよー。工場の場所を教えてくれたら、ねー?」
「んん……ああ、工場? ……小学校にひとつ、ある」
「オッケー。ありがとう、もういいよ」
ミサキは【淫夢】を最大にして男を昏倒させた。
同時に【忘却】を使い、ミサキのことを忘れさせる。
「ふぅー……気持ち悪かった……」
げんなりしながら、ミサキはバッグから携帯端末を取り出した。
「あ、オーガイちゃん? 小学校にある工場はひとつだけだったよー」
「そうでしたか。現場でも他には見つからなかったので、裏が取れて良かったです」
「そうだねー。あ、あとクロさんがそろそろそっちに帰るって連絡もらったー」
「クロさんのことは知りません」
「うん。じゃあチェビルくんにも伝えておいてねー」
通信を切った。
ミサキはバッグを手に忘れ物がないかを確認すると、足早にラブホテルを出たのだった。