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10.ミサキのお仕事

 幕間:ミサキ


「シャワーを浴びて来ていいー?」


「ああ。早くしてくれよ」


 鼻息の荒い中年男性の腕から逃れたミサキは、素早く指先を男性の眉間に当てた。


〈精神誘導〉マインドリード


「なにを…………うっ」


 キングサイズのベッドに腰掛けた男性は、虚ろな目をしながら口を半開きにして呆ける。

 口の端からヨダレが垂れてくるが、ミサキは嫌な顔をしつつも尋問を始めた。


「ええっとー。あなたはグラスターウェア社の機動甲冑開発部門の社員さんでいいんだよねー?」


「……ああ。そうだ」


「良かったー。えっとね、教えて欲しいんだけど。ホワイトチャリオットの製造工場ってどこにあるのー?」


「……それは、言えない規則になっている」


「はあ……やっぱり無理かー」


 ミサキの【精神魔法】の腕前は悪くはないが、突出したものではない。

 企業の守秘義務には口外不能となるよう予め【精神魔法】がかけられているが、それを打ち破るほどの力は持っていなかった。

 ここは企業間闘争の最前線、【精神魔法】による尋問対策は万全なのが当たり前である。


 だが抜け穴は何にでもあるもの。


 ミサキは【淫夢】のスキルを使い、男を眠らせた。

 夢の中では、ミサキが男の欲望に応えていることだろう。

 一体どんなことをさせられているのか気にはなるが、見ない方が精神衛生上、よろしいことは経験済みだ。


「研修では散々だったもんなー……」


 ミサキはサキュバスの血を引いている。

 といっても親世代ですらなく、遠い先祖の話だ。

 いわゆる先祖返りという奴で、ミサキにはサキュバスの幾つかのスキルが使えた。

 好むと好まざるとにかかわらず。


 ミサキが【淫夢】を緩めると、男の目が半分ほど開く。

 今の男は夢とうつつの区別がつかない状態だ。


「うう……ん……」


「ホワイトチャリオットの製造工場の場所、教えてくれたら何でも言うこと聞いちゃうよー?」


「ふひ、ミサキちゃん……おじさんの……」


「あーまだまだ。お預けだよー。工場の場所を教えてくれたら、ねー?」


「んん……ああ、工場? ……小学校にひとつ、ある」


「オッケー。ありがとう、もういいよ」


 ミサキは【淫夢】を最大にして男を昏倒させた。

 同時に【忘却】を使い、ミサキのことを忘れさせる。


「ふぅー……気持ち悪かった……」


 げんなりしながら、ミサキはバッグから携帯端末を取り出した。


「あ、オーガイちゃん? 小学校にある工場はひとつだけだったよー」


「そうでしたか。現場でも他には見つからなかったので、裏が取れて良かったです」


「そうだねー。あ、あとクロさんがそろそろそっちに帰るって連絡もらったー」


「クロさんのことは知りません」


「うん。じゃあチェビルくんにも伝えておいてねー」


 通信を切った。

 ミサキはバッグを手に忘れ物がないかを確認すると、足早にラブホテルを出たのだった。

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