「待テ」
いつの間にか、大隊長の背後にボスが立って言った。
「ど、どうされた?」
ドワーフの指揮官は緊張したが、相手の返答は予想外のものだった。
「ビッグフット達モ馬鹿ダッタ。オマエ達トノヤリ取リニ集中シテ、警戒怠ッタ」
大隊長は一瞬意味がわからなかったが、先ほど
「か、か、囲まれてる。ビッグフットと我々がさらに!」
バキバキバキ!
樹木をへし折りながら、巨大な槍が左右から襲った。
大隊長とボスは装備していた大金槌と棍棒でおのおのを受け止め、押されるも背中合わせとなって耐える。
「逃げな!」ドワーフ側が指示した。「キャメロットに緊急で救援を要請するんだ!!」
「い、いえ我々は援軍として!」
「数が多すぎる。全滅するよ!」
迷う分隊長に大隊長は重ね、すぐに実感させられた。周りの巨大樹木は次々とへし折られ、巨人にとって代わられていくのだ。
オーガをそのまま数十メートルサイズにしたような連中が、自分たちに相応しいサイズの武器防具を纏っている。
「む、無理だ」魔術師が弱音を吐く。「こちらの混乱をついて
ドワーフ大隊もビッグフットも、それぞれ千近くはいるが足しても数倍上をいかれる。訴えはもっともだった。
「情けない長身族だね、さっきまでの勢いはどうしたんだい。あんたが侮ったビッグフットはもう戦ってるよ!」
大隊長は叱責する。
実際、隊長やボスを護るような円陣を組んでドワーフ兵もビッグフットもすでにギガスたちと交戦していた。不意打ちで早くも仲間が踏み潰されていたというのに。
奇しくも、ドワーフとビッグフットの動きは似ていた。猛烈な速度で樹木を駆け昇り、枝から枝へと跳び移り、蔓をロープのように利用して宙を舞う。
体格で圧倒的に上回るギガスと、ほぼ互角の白兵戦を演じている。
とはいえ互角ということは、単純に数での敗北が明白だった。
「退路を拓くよ」諦めなぞ欠片もせずに、大隊長は宣言した。「生き延びるために最善を尽くすんだ!!」
彼女とボスは、自分が止めた巨大槍の穂先を脇に弾き、上に跳び乗って駆け上がる。持ち主のギガスが反応するより早く、彼らの手元で跳躍、頭部に一撃食らわして沈めた。
「我々も負けてはいられん、この窮状をキャメロットに伝えるぞ!」
分隊長が号令を発し、隊員たちも鬨の声を上げる。
人族にはドワーフやビッグフットほどの身軽さはないが、平地では彼らに勝る戦いを始めた。
魔術師も勇気を振り絞る。
「
彼らがいるのは、アヴァロン側からすでに数キロは森に踏み込んだ地点。適切な処置といえた。
他方、ギガスをさらに一体ずつ倒した大隊長とボスは、跳躍して元の位置に戻り、再び互いの背中を預けながら言葉を交わす。
「あんたらも魔精国とは敵対してるようだね、共闘を要請したいんだけど」
「同意スル」
「心強い。ビッグフットの全戦力と組めば勝てそう?」
「気配デワカル……無理ダナ。ヤレルコト、ヤルダケ」
「誰が毛深いって!? ……じゃなかった。ならば、僅かでも生き延びる数を増やすとするか」
「理解シタ」
「わたしの名はキャロラインだ。よろしく頼む」
「俺ハ〝サスカッチ〟。チナミニ
ドワーフはビッグフットの気遣いを察し、少し笑ったあとで共に敵へと向かっていった。
一方、繰り広げられる多種族の戦いを眼下へ置いて、魔術師の放った救難信号魔法たる小さな光弾は真っ直ぐ空へと昇っていく。邪魔な巨人の腕や木の枝はすり抜ける、攻撃力はない光だ。数十メートルのギガスを超え、数百メートルの木々をも超え、空に至る。
充分に高度をとったら、キャメロットの見張り塔からも視聴可能な花火のように派手な光と音で炸裂し、事前に決めた色と響きで現状を教えることができるのだ。
が。
それが成されようとしたとき。
ピシュン!
境界の森、魔精国の方向数十キロ。その上空にいくつも漂っていた円盤状の発光体、
それは信号弾魔法に命中、共に掻き消えたのだった。当然、見張り塔から視認することも不可能に終わる。
光線を放ったUFO内部では、何者かがこの成果を喜んでいた。
「おっと、余計な真似はさせない。シューシューシュー」