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空飛ぶ円盤をどうにかして!

 もっとも、勝利の余韻は僅かしか与えられなかった。


 ポヨポヨポヨポヨポヨ。


 突然、どこか間の抜けたトラヨシの認識からすれば古臭い電子音が轟きだしたのである。


「こ、後方の足止め部隊がやられた!」

 上官の負傷に唖然としていた巨人の誰かがそれ以外の何事かに狼狽え、怯えは彼ら全員に伝播する。


「どうしたってんだ。まだ援軍でも来るのかよ!」

 尋常でない敵兵たちの様相に人類側も再度構え、ブランカインも警戒を叫んだ。


 次の瞬間。


 ポヨポヨポヨポヨ!


 魔精皇国の方角、夕刻迫る境界の森上空を埋め尽くす飛行物体の群れが凄まじい速度で飛んできたのだった。

 平べったい円形の、輝く金属じみた物体。


 【空飛ぶ円盤フライング・ソーサー】である。


「UFO!?」

 トラヨシは愕然とする。


 一つ一つが十数メートルで巨人たちより小さいそれらであったが、ヴクブカキシュですら届かない高度で天を覆い尽くすほど。

 しかもとんでもない速さで、来たと認識した時には戦場を通り越し、アヴァロン国側の地平に消える。


 すれ違う刹那に、 ビービー、ピュンピュン! なる、しょぼい効果音で円盤中央から無数のレーザー光線を雨のように降らせてもいた。


 どどどどどどどど〜ん!


 数瞬遅れて、巨人たちの身体には光が通り過ぎた部位に穴が空き、地面の着弾地点は爆発する。

 まるで絨毯爆撃。人類があれだけ苦労していた数千の巨人軍が、阿鼻叫喚の悲鳴を伴ってあっという間に倒れていく。無論、そばで戦っていた人間たちも巻き添えだ。


 ポヨポヨポヨポヨ、ビービー、ピュンピュン! 


 今度はアヴァロンの果てからUFOの群れが引き返し、再び魔精国の果てへと消える。


 当然、伴っていたレーザー光線が、今度はキャメロットに集中して降らされていた。


 どどどどどどどど!


 瞬く間に高台が折れ、城は崩壊、沈みゆく足場でエレノアが絶叫する。

「くっ、爆弾の封印は解除したけど起爆させる余裕はない! できる限り付近の人類を安全な場所に転移するわ! わたしのそばに――〝集団転移魔法ホワイトホール〟!!」


 どっかーん!


 だが寸前の大爆発が、トラヨシとブランカインとマリアベルとニーナと他とのちょうど間辺りでも炸裂。両者は引き離され、一帯は爆炎に呑まれた。


 ……ポヨポヨポヨポヨ。


 土台ごと盛大に崩れ去ったキャメロット。もはや巨人と逃げ遅れた人類の遺体ばかりが転がる火の海に、三度UFOの軍団が戻って来る。

 今回は、慣性の法則も無視して猛スピードを出しながらも真上でピタリと静止した。


 眼下に、城塞都市と高台の瓦礫に半分埋もれたヴクブカキシュが倒れている。煙を上げる顔面はもはや大きく抉られて凹んでいるが、両手でそこを覆い、未だ息はあるらしかった。


 ビービー、ピシュンピシュン、ドドドドッ!!


 全ての円盤がレーザーの集中砲火を食らわすが、爆炎が去ると巨魔兵長の身体にはなおも傷一つない。


 円盤の一つが真下へスポットライトのような光を放ち、内部を何者かの影がゆっくりと降下しながらしゃべる。


「シュー。こんな高台一つ奪って空飛ぶ我らに攻撃が届くとでも勘違いしたのか。作戦は愚かだが、オリハルコンの思想的遺伝子ミームは伊達でないな」


 地に降り立つと光が消え、そいつの正体が露わとなった。

 身長3メートル超えで、全体的にトランプのスペードマークじみたシルエット。赤い顔に大きな二つの青い目があり、オレンジの光を放っていた。襞のある緑色のスカートみたいな服装で、極端に細い枯れ枝のような手を持つ怪物。僅かばかり宙に浮いている。


「……やっと生身で戦うか、腰抜けめ」ヴクブカキシュが罵る。「あの異様な飛行艇さえなければ、貴様のような魔精の出来損ないなぞ敵ではないのだ!」


 声を頼りに巨人は蹴りを放ったが、滑るように怪物は避ける。

「シュー。数少ない目撃例という思想的遺伝子を素早さと隠れる上手さに変換したのだ、愚鈍な攻撃なぞ当たらんわ。魔精という原始人と一緒にされるのも屈辱だ」

 滑らかに巨体の上を移動し、顔付近まで到達するとそいつは名乗る。


都市伝説フォークロア、百物語49番。【フラッドウッズ・モンスター】と呼べ。シュー」


 1950年代アメリカ、ウェストヴァージニアのフラットウッズでUFOと共に目撃されたという怪物を称する。


「そんな細腕で、我が顔から手をどけられるとでも勘違いしているのか?」


 片手は離し、ぼろぼろになった顔の辛うじて残った片目だけもう一方の手の隙間から露出して、ヴクブカキシュはフラッドウッズ・モンスターを睨む。


「シューシューシュー」怪物は笑ったようだった。「手を動かす必要なぞない。円盤の監視装置で拝見していたが、人間どもがいいヒントをくれたから直接葬りに来たのだ。シュー!」


 最後の声と共に、ソイツは目の下、口がありそうな位置から煙を吐く。白い霧に頭部を包まれ、巨人はもがいた。


「目撃談にあり実際被害をもたらしたという、フラッドウッズ・モンスターの発する毒ガスだ。液体を防げなかった貴様には気体も有効であろう。シューシューシュー」


「ぐっ、うぬぬぬ……」

 しばらく呻き声を上げていた巨人だが、やがてそれは笑声へと変質する。

「……ぐ、ぐふふふふ。ふはははは!」


 人間のように、フラッドウッズ・モンスターは首を傾げた。


「ここまで近付いたからには、避けきれまい!」

 顔から離していた片手を、ヴクブカキシュは目前に戻す。

 そこには、光る魔力の球体が握られていた。崩れた土台の瓦礫内を探っていたのだ。

「自爆装置、見つけたぞ!!」


「シュー! おのれ、デカブツが!!」

 フラッドウッズ・モンスターは球体の危険を察知。慌てて離れようとしたが、


「魔精皇国に栄光あれ!!」

 ヴクブカキシュは光玉こうぎょくを握り潰し、自爆魔法は破裂。フラッドウッズ・モンスターは幽星となって消え去った。

 キャメロットはもちろん、一体化した高台、付近の森や川や草原をも巻き込む直径十数キロの範囲も爆発で消し飛び、そそり立った火柱は上空に集まっていた空飛ぶ円盤をも焼き尽くした。


 後にはキノコ雲が上がり、さらに後には魔精皇国とアヴァロン国に跨る巨大なクレーターが残された。

 その中央にはもはや、頭部だけは失うも爆発にさえ耐えたヴクブカキシュの首から下の遺体のみが横たわっているのだった。


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