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依頼3 ロズウェル事件の調査

ケネス・アーノルド事件をどうにかして!

 闇夜の境界の森上空を、未確認飛行物体が一つ飛んでいた。

 円盤ではないくの字型で、全長10メートルほど。その尖った部分を進行方向にして、似た形状のステルス戦闘機のように飛行している。


「都市伝召喚【ケネス・アーノルド事件のUFO】」内部でトラヨシは言った。「空飛ぶ円盤と遭遇したお蔭で、関連する都市伝説として呼び出せてよかったよ」


 空飛ぶ円盤による爆撃の中、エレノアによる集団空間転移魔法の範囲を外れてしまった彼がとっさに行使した脱出手段だった。

 そばにいたブランカンインとマリアベルとニーナを収納することに成功したが、


「巨人たちはあいつらと戦ってたわけか。現状を確認したいとこだが、とにかく狭いな」


 戦士が苦情を述べる。

 船体の中心に埋め込まれるようにある球状のコックピットは確かに狭かった。トラヨシはマリアベルを抱っこし、ブランカインはニーナと抱き合ってやっと収まっている。


「の、乗る組み合わせ変える?」

 申し訳なさを覚えて高校生が訊いてみたが、

「あたいらは付き合ってるから心配すんな、教義では禁じられてるがこんな体位でもよくヤッてるぜ」

「そこまで聞かれてないだろうが!」

 センシティブな返答をする破戒尼僧へ、注意する戦士だった。


「わたちはこのままがいいです!」

「そ、そう」

 ギュッとしがみつくマリアベルに、トラヨシは応じるしかない。


「……とりあえず」変な空気を払拭するように、戦士は話を戻す。「みんなも助かってりゃいいな。おれはこんなのが飛んでるのが不思議で、墜落しないか心配だが」

「わたちたちの知る飛行艇は、プロペラや魔法や空気で飛ぶ船でしゅからね」

「というか操縦できてるのかよこれ、舵すら見当たらねぇぜ」

 どころかコックピットはただの球状の空間で何も無い。

 相次いで懸念する女性陣にも、高校生は感覚的に理解できることを返答した。

「なぜか頭の中で念じるだけで飛べてるよ。ケネス・アーノルド事件のUFOは内部構造の描写がないからかもね」

「ちょっとは不安を払拭するためにそのケネス何たらってのを教えてくれないか」

 ブランカインに請われて、トラヨシは教授しだした。

「1947年6月24日に実業家のケネス・アーノルドが自家用機で仕事してるときUFOに遭遇した事件だよ」


 彼は三日月型の飛行物体を遠方に目撃し、その飛び方に関して〝ソーサーを水切りの要領で水面に投げて弾ませたよう〟と説明した。ところがマスコミはこれを〝飛行物体自体が皿のような形をしていた〟と誤報、空飛ぶ円盤フライング・ソーサーという言葉が一躍有名になった。


「面白いのはここからで、このあと本当にUFOには円盤型との遭遇談が多く報告されるようになったんだ」

「……おまえの仮説に合うわけか」

 〝どんな超自然現象にも変化し人に認識される何かがある〟、おそらく何かは〝幽星〟と同一であろうと唱える説との合致をブランカインが憶えていたので、嬉しそうにトラヨシは認めた。

「一例だね。幽星が、人の思念に反応して円盤型にも変化したって感じかな」

「すると、こいつがケネス・アーノルドって奴が目撃した本来の形のUFOなわけだな。で今のところ、どこを飛んでるんだ。森の上なのはわかるがまだ境界の森か?」


 爆発で吹き飛ばされてから、忽然と現れたケネス・アーノルド事件のUFOに包まれ、いつの間にか飛んでいたのだ。

 方向を確認している暇はなかったが、機体の内部から望む壁は半透明で外が窺え、眼下には巨大植物の海が息づいていた。境界の森は正式名称が〝境界の大森林〟という三つの国に跨るアストラル最大の森林地帯であるし、未だこの上空というのはありうる。


「高天原に行くって気持ちがあったから、念じるだけで飛べる以上そっちに向かってるのかも」

「待て」ニーナが深刻そうに口を挟んだ。「キャメロットから真っ直ぐ向かってるなら魔精国上空を通るぜ」

「そ、そうか。だとしたらヤバいかな?」

 今さら危惧するトラヨシに、半透明の天井越しに星座を観察してマリアベルはとどめをさす。

天馬騎士ペガサスナイト座の位置からは間違いなさそうでしゅ、魔精国上空かと。いつ襲われてもおかしくないでしゅよ!」


「――おのれ都市伝説!」

 遅かった。突然眼下の森から目前に飛び上がった怪物に、慌ててUFOは止まる。

 トラヨシの心情を即座に反映し面白いほどびたりと空中に静止。慣性などの衝撃すらないのはありがたかったが、状況は全くよくない。

 行く手を阻んだのは、翼開長が数十メートルほどのドラゴンだったからだ。

「単機で魔精国の空を我が物顔で飛ぶとは、侮りおって!」


 そいつが人語で怒りを吐く。

 前身真っ黒、腕と分離した翼は四枚、額に第三の目、角が頭と羽根先に生え、身体中に棘のような鱗を纏った獰猛な顔立ちの巨大竜だ。


「ジ、巨躯混沌竜ジャイガンティック・ケイオスドラゴンだ!!」

 ブランカインが戦慄し、トラヨシも響きだけで悟る。

「なにその名前だけでヤバそうなカードゲームで激レアみたいなの」


 ニーナとマリアベルも口々に怯えた。

「将精みたいな幹部を除く一般魔精では、空で最強の種だぜ!」

「別名〝魔空まくうの俯瞰者〟でしゅ!」


「アヴァロン方角での火柱」

 互いにそうとう大声を出していたはずが、UFO内のものは見えず聞こえもしていないのか竜は一方的にしゃべる。

「ウブクガキシュ将軍の作戦が成功したと認識したが残機がいたとはな。どう料理してやろうか」


「打って出るか」ブランカインが案を出す。「こいつとは戦ったことがないが、空飛ぶ千手巨人ヘカトンケイルくらいの実力だって聞く。この飛行艇を足場に使えば総出で一体くらいならどうにかなりそうだが」


「待て」

 言ってるそばからもう一体のジャイガンティックケイオスドラゴンが森から浮上、同種を制止して横に並ぶと口を挟む。

「将軍たちが引きつけた空飛ぶ円盤とは形状が違う。百物語とかいう幹部格かもしれんぞ。捕らえて利用できんか?」

 さらに続々と、森から同類が出現。計10体となってUFOを包囲する。


「……やっぱなしで」

 奥に引っ込むブランカだった。

「やべえぜ」ニーナは別の危惧も発する。「奴らと敵対してる都市伝説と勘違いされてそうだ」


 外見はケネスアーノルド事件のUFOで内部の声も届いてないとすれば、当然の判断かもしれない。

地球外生命体仮説ETHに近いUFOなんだ、スピーカー機能くらいあるはず!」

 焦ったトラヨシは、これまで通り念じることでそれを発動させることに成功。とっさに訴える。


「待ってくれ! おれたちはキャメロットの冒険者で人間だ。こいつはただの乗り物だよ!!」


 船外の声はよく聞き取れたので、自分の言い分が外界にもたらされて木霊したのも自覚できたが


『……どっちも敵だわ!!』

 僅かの沈黙を挟み、十竜から当然のツッコみをくらう。

 間髪を入れずに大口を開いたまま、いっせいに青い炎を吐いてきた。


「逃げろ!」

 ブランカインが警告した刹那。


 爆発が去ってまた爆発。

 ジャイガンティック・ケイオスドラゴンたちの業火は、大森林に息づく数百メートルの木々をいくつも焼いて超え、天まで届く極太の火柱をそそり立たたせる。さっきまでケネスアーノルド事件のUFOがあった空さえ、当たり前のように呑み込んでいた。







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