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テレパシーをどうにかして!

「――さ、さすがUFO」戦士の指示でとっさに念じたトラヨシは、危機を脱して感嘆していた。「こんだけ速度出しても重力掛からないとは」


 静止状態からいきなり最高速。竜の間を縫い、彼らは森の東側への逃走を成功させていた。


「とんでもないスピードなのは同意だが、油断しない方がいいぞ。時速何キロくらい出てるんだ?」

 感心しながらも問うブランカインに、なぜ地球の単位が通じるのかというツッコみは置いてトラヨシは即答する。

「だぶんほぼ2000キロ、マッハ1.5くらいだよ。魔精とはいえ生物なんだろうし、さすがに音速は出せないだろ!」

 ケネス・アーノルドが体験談で、山と山の間を通過する飛行物体から推測した速さが反映されているのだろう。限界まで加速した結果がそれだと、直感的に脳裏で理解できていた。


「じゃあまずいでしゅよ!」ところが、膝の上でマリアベルは警告する。「ジャイガンティック・ケイオスドラゴンは音速を超えて飛べましゅ!」


「は?」


 衝撃の発言を耳にした瞬間。衝撃自体がUFOの脇を掠めて暗闇に消える。

 後方を確認すると、本当に竜たちが食い下がってきていた。


 翼を畳み、真っ直ぐ後ろに伸ばした手足からは口から吐いた青炎せいえんを魔法としてアフターバーナーのように背後へ放っている。角や全身の鱗も伏せ、全体のシルエットを三角形のようにして空気抵抗を減らし、まさに戦闘機染みた格好で音速を超えていた。


「嘘だろ異世界、都市伝説以外も充分化け物じゃん!」

 焦る間もなく、竜たちは青い火球を口々に吐いてくる。それらに至ってはさっき衝撃をもたらしたものと同様、UFOをも追い越していく。

 後方確認しながら避けるので精いっぱいだ。


「トラヨシは前に集中して運転頼むぜ!」ニーナが恋人の膝上で後ろを向いた。「念話テレパシーで視覚を繋ぐ!!」

 口は悪くとも、さすがは回復補助魔法特化の尼僧系職業だった。ちょうどバッグミラーのように半透明なニーナの目線情報が重なったので、異世界人は前方に向き直る。


 猛スピードでの飛行で、すでに境界の森を出ていた。眼下には土と石と砂と僅かな草花からなる荒れ地が広がっているらしいと、月明かりが教えてくれる。

「魔精国中央のゲヘナ大荒野だな」ブランカインが教える。「あと半分以上、さすがに人類側領土までは追って来ないだろうが逃げ切れそうか?」

「無理!」

 火球に機体の端を削がれ、即答する。


 アヴァロンから一時間以上は飛んだ感覚があった。音速以上にはなってからは間もないとはいえ、横断は相応に掛かりそうだ。ニーナの助力を得ても無数の火球を避け切れていない、いつかは直撃する。


「こっちから攻撃とかはできねぇか!?」

「……武装はあるみたいだ」尼僧に請われ、一度きりのそれが可能とわかる。「とりあえず全部喰らえ!!」

 どこにも収納するスペースなぞないのに、意思に呼応してUFOは後部から空対空ミサイルを出現させる。旧ソ連製のものだった。

 冷戦中の事件当時、UFOが宇宙船という説は一般的でなかった。ケネスも対立していたソビエト連邦の兵器を疑ったからか。


 ちょうど10発のミサイルはそれぞれが別々の竜に直撃。

 爆炎をすぐさま突っ切って無傷の魔精たちが出てくる。

「爆発はなかなかでしゅが!」マリアベルが残念がる。「愚者火炎イグニス・ファトゥスくらいでしゅね、全属性に耐性がある彼らにはほぼ効きません!!」



「とんだ化け物だな、違うUFOにしときゃよかったよ!」

 トラヨシは後悔するも、あの一瞬で脱出するには空飛ぶ円盤との遭遇から関連するなるべく確実なものを召喚するしかなかった。別のにし直すことも可能だが、一度に一つしか呼べない以上、いったん現在の機体を消すことになる。

 この高速逃亡中に乗り換えなぞできそうにない。


「……こいつは」一方、渦中にありながらもブランカインは俯瞰する景色に圧倒されていた。「おれらを都市伝説の幹部格と疑った連中がしつこいわけだ。そこらじゅうで火の手が上がってる」

「ゲヘナ周りには大規模な街がいくつかあるはずでしゅからね」マリアベルも同じ光景に感想を洩らす。「皇都こうと上空付近はさらに通過が困難かもと懸念しましたが、それどころではなさそうでしゅ」


 発言は、ゲヘナを囲ういくつかの火事とは別に荒野の至る所でぶつかり合う軍隊を指してのものだった。

 戦争の真っただ中といった具合で、おそらく都市伝説軍と魔精軍の衝突。ざっと合計数千万人ほどによる決戦が展開されている模様だ。


「おれは観察する余裕ないんだけど」

「あたいもだよ!」

 前後の目となっているトラヨシとニーナからは、せいぜい視界の端でちらつく赤や黒から推測するしかない。


「下からどちらかの勢力がこちらに加勢する余裕はなさそうでしゅ、なら――」

 これ以上敵に増えられたら困る状況ではありがたい推理と同時、天啓を得たらしくマリアベルは頼んだ。

「脳裏で念じるだけで飛べるんでしゅよね! だとしたらナナさん、テレパシーでわたちが操縦を代われませんか?」


「車も運転したことなくても操作は簡単だけど、マリアベルは十歳ぐらいじゃないのかな。んなことできたとして大丈夫なのか、だいたいなんで代わる必要が――」


「レディに対して失礼でしゅよ!」トラヨシに懸念され、頬を膨らませて当人は怒る。「まさしく十歳でしゅが、わたちは幼形成熟ネオテニー族。寿命が人族ヒュームの半分の代わりに、精神の成長は十倍でしゅ!!」


 知らなかったので驚くと同時に、ならその口調とぷく顔は百歳の心持ちでやってんのかと変なショックを受けるトラヨシだった。

 とはいえ言われてみれば、彼女は賢い言動も多かった。打開策があるのかもしれない。


「どうなんでしゅか、ナナさん?」

「映像を伝えられるんだ、脳裏で操作できるんならできるぜ。互いに抵抗がなきゃな!」

 ニーナはそう明答した。

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