表でまとまればあとは楽だった。シンプルなテレパシーの構造に従い、脳裏で役割分担を確認できるのだから。
かくしてトラヨシは前方でニーナは後方の視界情報、マリアベルは双方を参考に操縦へとおのおの移る。運転を譲る際に若干機体がぐらつくも、即座に飛行はさっきより安定した。
「えーと、おれはどうすればいいかな」
一人手持ち無沙汰なブランカインに、恋人は助言する。
「できるだけ魔精国を観察しとけ。無事に出れたら役立つかもしれねぇぜ!」
直後、マリアベルは急激に南へ方向転換した。これまでUFOは東に直進していたのに。
まもなく、機体を追うジャイガンティック・ケイオスドラゴンたちは言葉を交わす。
「動きが変わった。このままだと〝
「ああ、だが奴とてリスクは同じ。チキンレースならぬドラゴンレースだな」
「百物語か人と組んだそいつか。どちらにせよ滅ぼしておくべき敵だ」
まもなく先頭の竜が指示する。
「不可避な距離になったらおまえたたちは離脱しろ。我は奴の退路を断ち、直進させて玉砕する」
「単独では無理だ、我々も付き添う」
それが、残る九体の答えだった。
「射撃が変わった?」
トラヨシは悟る。
彼の操縦時は二、三発が機体の端を砕いていた火球。マリアベルに代わってからは一発も当たらないそれが、そもそも命中しないところを通り過ぎるようになった。
「自棄になったのかな」
「いえ、こちらの意図に気付きましたね」マリアベルは分析する。「わたちたちに進路を変更させないつもりでしゅ」
その通り。
火球は機体を螺旋で囲うような配置で、何度も放たれる形になっていた。もはや命中はしないが、進む方向を変えれば被弾しそうな状況。撃たれる頻度も増している。
「奴らの火球は体力も魔力も使うぜ、自爆覚悟ってことか」ニーナも分析する。「頻度的にゲヘナを出る前に力尽きるはず、お蔭であたいにもマリベルの作戦が伝わったよ」
トラヨシは見通せなかったが、それどころじゃないものに意識を逸らされる。
「な、なんだあの巨大竜巻!?」
進む先に、煌めく雲状の渦が現れてきたからだ。
上も下も太さの変わらない入道雲染みていたが、規模は桁違い。天と地を繋ぐ巨大なうねりである。
「幽星奈落か、なるほどな」
「なにそれ?」
ブランカインも悟る中でのトラヨシの問いに、暇な戦士は回答した。
「死んで幽星になった魔精はこっちの方に飛んでいってたろう。最終的にあそこに辿り着いて、どこかに転生するといわれる。アストラルの中心で、全ての幽星の源泉らしい。ただ濃度が強くて、万物を分解しちまう。幽星で構成される要素が多いものほど耐性があって深く入れるが、中心まで到達できたのは魔精皇サタナ・イルだけとされている。百年前にそこで何かに遭遇したのがきっかけで、奴は人類に戦争を仕掛けたらしい」
この世の根源に触れるような内容だったが、だとしたら目先の脅威はなによりも
「待って、全ては幽星から創られたって聞いた気が。ならこっちも危ないんじゃ?」
危惧するトラヨシに、ブランカは追い討ちする。
「外出身のおまえはわからんが。人類は物理的な要素が強い、ほぼ幽星でできてる魔精より先に分解されるだろうな」
「ならどうして、そこに突っ込んでってるの!?」
焦燥する彼だが、直後テレパシーでマリアベルによる意図が流れ込んできて落ち着きを取り戻していった。
そうこうしてるうちに、幽星奈落は目前に迫る。
背後から撃たれてUFOを追い越す火球は、一足先に奈落へ衝突し煙となって蒸発するのが視認できる。
雲一面が前方を満たし、衝突する間際。
かくんと、UFOは真東へ直角に進路を変える。
「なにぃ!?」
慣性の法則を完全に無視した相手に、後続先頭の竜は驚愕する。
注視していればUFOのそれを可能とする動作は以前からあったろうが、彼らは遭遇して間もない。知っていたとしたら、そもこのチキンレースには勝算がないので参加もしなかったろう。
かくして、UFOは幽星奈落にぶつからず回避。音速をも超えて追っていた竜たちは手足や口からの炎を進行方向に移してブレーキとするも止まれるわけもなく、進路を急激にも変えれず避け切れない。
そのまま奈落に衝突して煙となり、呑み込まれるのだった。