「……今日何度目の危機だよ」
楕円形の搭乗スペースで曲線の壁に寄りかかり、ブランカインは嘆く。
「とりあえずは助かったんだ」胸元で円を描き、葉巻を口から落としてニーナは神に感謝した。「どうやったのかはさっぱりだが」
「大陸東の海、あの海岸線からして高天原との間に横たわるジパング海に出たようでしゅね。ワープしたんでしゅか?」
その上空で静止しているUFO内で、足下に透ける砂浜や崖、そこから東へ広がる海を望んでマリアベルは推測した。アストラルでも日の出の方角なため、魔精国とは違い一帯はもう朝焼けだ。
「い、移動したんだよ」
トラヨシは教える。
「ブランカに言われてとっさに音速で動いちゃったけど、このUFOは止まった時間で君たちを回収できたからね。地球外生命体の宇宙船って仮説で考えるなら、UFOは光速を超えるくらいでなきゃ話にならないし、そんくらいの速度が出せたんだ。アストラルが地球くらいの大きさなら元からワープする必要もなかったな。光速は秒速30万キロ、1秒で地球を7周半できるから」
みんな目を丸くしていた。
「そ、そりゃとんでもなく速そうだな。けど」どうにか言葉を紡いだブランカだが、疑問も挟む。「なんでここで止まってんだ?」
「高天原の位置知らないし、とりあえず大陸の端まで移動するように念じたんだけど」
「ならあとは簡単だぜ」
尼僧は空間収納から地図を抜き出して、トラヨシに披露した。
「まっすぐ東へ直進すれば、高天原の浜辺。
地図には地名が書いてあったが、どういうわけか地球の言語だった。高天原が日本神話の地名だったり元から地球に通じるところがあったが、改めて不思議で口にしてしまう。
「路頭上流?」
まさに高天原の地名は漢字や平仮名やカタカナで書かれているのだ。アヴァロンを探してみたらその近辺は英語で書かれていたので、神話の伝わる場所に対応する言語が使われているらしい。地球でも読めなかった地域の文字までなぜか解読できるのは、そもそも現地の人々と日本語で会話できている異世界人としてのご都合主義的な能力故だろうか。
「路頭上流っていうのは」
考えてるうちに、マリアベルはさっきの独白へ丁寧な説明をくれた。
「〝路頭に迷う〟などと表現するじゃないでしゅか」
慣用句まで通じるんだからつくづく都合がいい。
「つまり道端の行き着く果てである、川でいうところの上流。行き止まりの海に至ることから名付けられた浜だそうでしゅ。高天原で最も西に位置する地点でもありましゅからね」
「な、なるほど」とりあえず受け入れて、トラヨシは決めた。「じゃあ、そこまで移動するように念じてみるよ」
ボン!
「「「「え?」」」」
翼辺りが爆発した。
移動は始めたが、高度も下がっていく。早くはあるが、光速なんて到底出ていない。
「こ、今度はどうした! 雷でも当たってたか!?」
焦る一行の中でブランカインが問い、トラヨシはどうにか答える。
「ロズウェル事件のUFOだから、やっぱ落ちる運命なのかも!」
「なんだそりゃ!? 乗り換えられねぇのか!」
ニーナに提案されて、試してみる。
「そうだね、都市伝召喚!」
『〝ロズウェル事件のUFO〟の影響により、都市伝召喚が故障しています』
「んなとこにまで故障が及ぶなよ!!」
無機質なオハバリの声にツッコむも無意味、黒煙を引きながら無情にもUFOは落ちていく。
「陸地は望めてきてるぞ、なんとか路頭上流にまで着けばいいが」
ブランカインの言う通り、水平線の奥にうっすらと大地が現れてきていた。やはり結構なスピードは出ていたらしい。
みるみる島国は近づくが。
「こ、この落ち方だと、間に合わないでしゅね」
賢いマリアベルが絶望をもたらす。
「くそっ」機体を殴って、トラヨシは悔しがる。「せっかくいろいろ切り抜けたのに。ロズウェル事件のUFOのせいで路頭上流に辿り着けないのかよ!」
そこで気づく。
「ん? ロズウェル事件、路頭上流」
で言った。
「路頭上流って、〝ろずうえる〟っても読めない? だとしたら着くかも」
「「なんだよそれ!?」」
戦士と尼僧はそろってツッコみ、魔女は悲観していた。
「無理でしゅ! 落下角度からしてもとてもそこまでは!」
ロズウェル事件のUFOは、間違いなく岸から遠い海にいったん落ちた。
が、かつてケネス・アーノルドがUFOの飛び方について述べたように、