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国会議事堂開かずの間をどうにかして!

「変わった建物だな」

 木造の内部は日本の寺や神社にありそうな構造だったが、七階から八階への階段を前にしてトラヨシは口にした。

 板張りの床から真っ直ぐ八階に延びる階段だけが、途中から異様に幅を狭めて曲がり、螺旋階段へと変化していたからだ。


『異常依頼によれば、漢字というおまえの国の言語が使用されている都市伝説の影響だが。案外、頭が悪いのか?』

 先導する折り紙人形は問い、日本人は狼狽えながらも教える。

「し、失礼ですね。漢字は中国伝来だし日本以外でも使いますよ」


『では教授しておこう』人形は階段上を進みつつ語りだす。『この先の八階は都市伝説と構造が入れ替わっておる。【国会議事堂開かずの間】だそうだ』

「ああ、なるほど。それこそ日本の中枢だからこんなとこから見ただけじゃわからないよ」

『ほう。依頼によれば、そこで会議をして議題をまとめることで報酬として元に戻るそうでな。国の中枢を乗っ取られたままなのも困る故、いい機会なので今回使わせてもらっておる』


「こ、こんなとこにも出現しちゃうのが、都市伝説の怖さでしゅね」

 二種類の階段が融合する部分を登りながらようやく落ち着いてきたマリアベルが危惧すると、もはや折り紙越しでなく上階から相手は答えた。


「まったくだ。もう国中に上位結界を張ったので、同様のことはないだろうがな」


 来客の二人は何か引っ掛かったが、八階に着いたので考察は乱されることになった。


〝国会議事堂開かずの間〟は、九階まで渦巻く螺旋階段を中心に据えた、四角い部屋だった。

 板張りの床に石壁。天井には明らかに電気の照明が円形に配置され、壁には四角い窓が並んで陽光を取り入れている。

 外見からすると天津社寺の八階はもっと広く、窓は外界に通じていないはずだが。なるほど異空間らしく、外の景色は真っ白で光源の由来は判然としない。


「では最後の人員もそろったことだし、都市伝説対策の会議をまとめようかの。議長は引き続き、この青龍姫巫女が務めさせていただく」


 声は、八階への降り口の反対側から聞こえてきた。

 振り返ると螺旋を挟んで向こうに円卓があり、十ほどの席が奥側から半分埋まっている。


 案内の人形は鶴へと折り直されて最深部の席へと飛び、そこに座していた姫巫女本人の前で手元に落ちた。


「空いている席に座ってほしい」

 と、巫女と姫を足したような装束の彼女は手前側の四つの空席を腕で示す。


「そ、そうだな」

 トラヨシは入ったことのない国会議事堂な中身に圧倒されて立ち尽くしていたが、踏み出そうとする。も、マリアベルは違った。


 彼女は円卓の端に視線を突き刺していた。


「ずいぶん遅かったじゃあないか、二人しかいないしね」

 その先にいる老婆がしわがれた声音を発する。


 背丈はマリアベルと同程度しかない。金銀財宝に彩られたドレスを纏い、王冠を被ってマントを羽織っている。一見それだけの老婆だが、額に第三の目があった。


「自然種の都市伝説がもたらした病に犯されたんだって? なにが痙攣したんだったかねえ。キッヒッヒ」


 式神の通信が聞こえていたのか、明らかに認知していての意地悪そうな笑みを浮かべる。


「ナニが痙攣したんだよ、糞婆くそばばあ!」

 マリアベルが、突如これまでからは信じがたい怒声を発した。

 そのまま駆け出し、老婆へと突進していく。


「ちょ、ちょっとぉ?! いきなり喧嘩しないでよ!」

 円卓にいたエレノアが焦り、トラヨシは立ち尽くすことしかできずにいた。


「聖人よ!」部屋中央を縦に貫く螺旋階段を迂回し、魔女は詠唱。「帆柱の先端に神の青き炎を踊らせ、我が船旅の道程を照らし、横たわる嵐を退けよ!!」

 青い電熱を杖先に宿し、余った床板を数歩駆けてあとは飛び掛かる。

「〝聖檣頭電光セントエルモ〟!!」


 絶叫と共に球電を投げつけた。

 老婆は、飛来したそいつを片手で止める。

 直径1メートルほどはあったが、幽星に分解され蒸発して縮んだそれは、手の平に収まるや握り潰された。

 煌めく霧の向こうからはマリアベルが杖を振りかぶって殴りかかるも、


「弱いのう」

 老婆は三匹の蛇が絡みつく意匠の杖で受け、弾き返す。

 離れた床板に仰向けで転ばされたところへ、年寄りは跳躍。杖先に緑のオーラを纏って振り下ろした。

「蔓延れ、〝ヴォイニッチ手稿しゅこう〟」


「ま、マリアベル!」

 仲間の危機に、やっとトラヨシが動きだせたとき


「待て」

 二人の間に入った男が、先に止めていた。

「双方とも魔法を収めてもらおうか。闘技場ではないんだぞ、異国の中心でする振る舞いではなかろう」

 二振りの大剣で一本ずつ杖を受け止めていたのは、顔まで覆う全身鎧。

 キャメロット護衛軍の騎士団長、ラインハルト将軍だった。


「魔法には封印を施させてもろうた」静観していた姫巫女が、厳しい語調で付加する。「改めて、な」


「キヒヒ」杖を引っ込めるも、老婆は高天原の支配階級を嘲笑う。「わしが解いておったのも察することができなんだ小娘めが。未だ対抗できるつもりかのう」


「式神通信に魔力を注いでいた隙をついたのだろうが、もう必要はなくなった故今度はそうはいかん。勝手な真似をすれば先手を打って対処させていただく」


「キヒヒ。人間から先に襲わせることで優位な立場で進めたかったが、お見通しか。よかろう」

 諦めたのか、杖をつきながら年寄りは元の席に戻っていく。


「に、人間って、じゃあ?」

 仲間に手を貸して起こしながら不思議を抱くトラヨシを、マリアベルは遮る。

「わたちは納得しませんよ、勇者様のかたき!」


「静粛にしてもらおう」

 青龍姫巫女が叱責した。

「そちなら落ち着いて静聴できると評価しておったが、幼系成熟体の精神成長速度というのはそんな程度なのか」


「ぐっ……」妖精魔女の少女は、唇を噛んで堪えたようだった。「い、いいでしょう。まず、事情を聞きましゅ」

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