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15話 初めてのデート2

案内されたのは街の高台にある公園だった。

子供が遊ぶ用というかんじではなく、まさに大人がデートを楽しむ。そういうイメージがある場所に見えた。


キリアン様達の護衛が上手く人払いをしたのだろう。

ある一角には人が誰もいなかった。


ベンチに座ることをキリアン様に勧められる。

そしてキリアン様は綺麗なハンカチをベンチにしいて、私はその上に座った。


そういうマナーだという事は知っていた。


キリアン様は私の隣に座った。

それから私を一度見て、顔ごと視線をそらして、何かを言いにくそうにしていた。


私は私が買い物を楽しめないことと、キリアン様がこんな態度を取ること、その二つに関連性のある事柄が何も思い浮かばなかった。


何か話があるとしても、私が余命を隠していたことについてかDOLLのことだとばかり思っていた。

けれどそれはどちらも買い物を楽しめないこととは関係無いように思えた。


キリアン様がそらしていた顔をこちらに向けた。


それから一言「すまなかった」と言った。


私は何について謝られているのかよく分からなかった。

それから一つだけ思い当たったことがあった。


「あの時DOLLを作ったのは私の意思ですので、謝っていただく必要はありません」


緊急事態だった。

命を懸けて戦う騎士や魔法使いもこんな気持ちなのだろうか。そのために寿命がどうなるかなんてそういう時はきっと考えない。


私がそう返すと、キリアン様は少し驚いた顔をしたのち、「それについては感謝しているし、勿論申し訳なく、というか不甲斐なく思うがそれではなく」と言った。


それ以外で謝られる心当たりが何も無かった。


「あなたの夫人としての予算が着服されていた」


苦悩に満ちた表情でキリアン様がそう言った。

それからぽつぽつと謝罪を交えつつ彼は話してくれた。


私が契約妻として使える金額はもっと多かったらしい。

それこそ、きちんとした寝間着や出かけるための服、それからこういった日の買い物で悩むなんてことをしなくていい程度割り振られていたらしい。


それに食事や風呂等のしたく、それから身の回りのこまごまとしたもの、色々なものが着服されたり、最初から用意されてなかったりしていた。


キリアン様は私が倒れた際、それに気が付いて、必要な処置をし、本来の伯爵夫人にふさわしい生活に変えてくださった。


けれど、そのことについて今日まで話すことができず、私は今までと同じ予算の中でやりくりするつもりだと気が付いて今この話をしたそうだ。


今日の“デート”はお詫びもかねてのことだったらしい。


「契約婚を申し込んだのはこちらだというのに本当に申し訳ない」


契約の内容には私の三年の生活も含まれていた。

だからキリアン様は申し訳ないと思い、私の生活を改善して今謝ってくれている。


誠実な対応なのだろう。

そう思ったけれど、とても楽しみにしていたデートへの憧れは少しだけ崩れてしまった。


キリアン様はデートだと思っていなかったのかもしれない。

だけど心が少しだけモヤモヤした。


理由はよくわからない。


「……お詫びでしたら、大丈夫です」


卑屈な私は上手く言葉が紡げずそう言った。


「え?」


キリアン様は聞き返した。


「お詫びがして欲しいなんて私は頼んでないです。

今日がお詫びという事であれば、私は一人でも大丈夫です」


声を張り上げろと言われそうなくらい、もごもごとした小さな声になってしまった。

もっとはっきりと言えたらよかったのかもしれない。


けれど、横に座ったキリアン様には一応ちゃんと伝わったらしく「違う。一緒に出掛けて色々な話をしてみたかったんだ。私が」と言われた。


「思えば婚約者だった時代からなんの話もしてこなかった。

だから私はあなたの好きな物すらしらない」


そう言われてキリアン様を見た。

キリアン様は少しだけ赤い顔をしていた。

なんだからそれを見て私も気恥ずかしくなる。

私もキリアン様のことは何も知らない。

ご両親を亡くしたこと位しか。


「今日は、デートなのだとヘレンさんに言われました」


小さな声で私は言った。


「デート……」


繰り返すようにキリアン様は言った。

やっぱり違っていたのだろう。

そう思ったのに「……そうだな、デートだな」ともごもごとキリアン様は言った。

キリアン様は耳まで真っ赤になっていた。


今日はやっぱり、初めてのデートの日という事で正しいらしい。

契約結婚でデートというのかはよくわからないけれど、キリアン様が言ったのだからそれでいい。


それから、正式な夫人としての予算を聞いて、その金額が思ったよりも沢山なことに驚いて、それから二人でデートの続きをすることにした。


おみやげのお菓子を買って、その後、キリアン様がよく行く万年筆の店を見に行くことに予定を変更した。


私もキリアン様の好きな物について知ってみたいと思ったのだ。

そう提案したら、キリアン様は少し悩んでから行きつけの万年筆のお店に行こうかと言ってくださった。

他にも色々好きな物はあるようだけれど、今日は丁度万年筆のお店が近くにあるらしい。


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