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16話 初めてのデート3

デートの続きはまず焼菓子のお店に行った。


「好きな菓子は?」


と聞かれたけれど何も思い浮かばなかった。

そのとおり答えると、キリアン様は「色々食べて気に入ったものを見つければいい」と言った。


それから並んだ焼き菓子を見て、赤くキラキラとしたものが乗っているクッキーを見つけた。

つやつやとした赤いジャムが他より少し濃い目のクッキーの中央に乗せられている。


「そちらシナモンが入っていて、とても人気のお品になっております」


それをおみやげにしようか少し悩む。


「キリアン様。このあたりの特産は?」


私が隣にいるキリアン様に聞く。


「そういうものがあれば、魔法使いにこだわったりはしないな」


そう答えられてなるほど、と思う。

この町の名物も多分無いのかもしれない。


こういう時、名物以外でどういう基準で贈り物を選ぶのかはよく分からなかった。

けれどキリアン様に聞くもの何か違う気がした。

それ以外の事なら聞いてもいいとはおもうけれど、贈り物はそれではキリアン様からのものになってしまいそうで嫌だった。


それに何となくだけれど、ヘレンさんも家庭教師の先生もそういう事で怒らない気がした。

私が作ったDOLLのアクセサリーが気に入らないとか使っているレースが気に食わないとかでやり直しを命じられることがあった。そういう貴族とは少し違う気がする。

実際ちゃんと話した事はないけれど、びっしりと慇懃無礼に書かれた指示書を渡されたりむしり取るみたいにいらない装飾を引きちぎったりしてあった。

そういうことをする人々とあの人たちは違う気がする、という勘が働くだけだ。


最初に目を引いたジャムのクッキーをおみやげに包んでもらうことにした。

キリアン様もいくつか焼き菓子を購入していた。


もしかしてこの店はキリアン様もよく利用するのかもしれない。

長く続いていそうな手入れの行き届いた店内を私は好きだと思った。


綺麗に焼き菓子が並べられているのもかわいらしくてわくわくした。


今日はいい思い出を沢山もらえたと思った。


* * *


焼き菓子の店を出るとキリアン様は「ちょっと早いけれどランチにしようか」と言った。

レストランの予約を取ってあるらしい。


私はレストランという場所にも行ったことは無いので少しだけ不安に想いながら了承した。


案内されたのは落ち着く雰囲気の店で、キリアン様の顔を見るとウェイターはすぐに個室に案内した。

行きつけの店に連れてきてもらえて、何故だか分からないけれど少しだけ嬉しい気持ちになった。


貴族はこういう時女性はメニューを見ないか、情報が制限されている女性向けのメニューを受け取る。

これは家庭教師から教わったことだ。


この店もキリアン様にだけメニューを渡していた。

食べ物の好みもよく分からないのでお任せすることにした。


キリアン様がメニューを確認している最中、私は窓の方を見た。

このレストランには屋敷についた精霊がいるようだった。



屋敷につく精霊は珍しい。

新しい場所ではまず見ず、古くて精霊たちにとって居心地のいい場所にしかいない。

私も話しかけられるまで屋敷についているとは気が付かなかった。


【いらっしゃいませー】

【ようこそおこしー】


ふふふ、と笑う様に精霊たちが出迎えてくれた。

そういう子たちは、神殿とかそういう場所にしかいないと思っていたので少し驚いた。

笑顔を浮かべると【おいしのがいっぱい出てくるから、楽しんでー】と言われた。


キリアン様はウェイターに注文を済ませると、「窓に何か見えるかい?」と聞いた。

私は本当のことを言おうか少し悩んでキリアン様に預けているDOLLのことを思い出した。


私は今見えているものの話をすることにした。



「このレストラン、精霊が住んでいるです」


キリアン様は少し驚いた顔をした、それから「住んでいる?」と聞いた。


「私もほとんど見たことは無いのですが、時々屋敷住みの精霊がいるんですよ」

「普通の精霊はとどまったりしないのかい?」

「ある程度同じ場所にいる場合もありますが基本はかってきままという感じです。

勿論水辺に水の精霊が多い様なことはあるのですが」


私が説明すると「へえ」と言ってキリアン様は返事をした。

疑っている様な感じではなかった。


「精霊王なんて伝説があるんだからもっと、人間的な組織だったなにかがあるものだとおもってたよ」


キリアン様がそう言ったところでウェイターがアンティパストの皿を私とキリアン様の前に並べ、私には果実水、キリアン様には炭酸水をグラスに注いだ。


一礼してウェイターが出ていく。


キリアン様が食べ始めたのを見て私も食べ始めようかと思った。

けれど、その前に今していた話の続きはしておきたかった。


「精霊王ってなんですか?」

「なんでも精霊たちを束ねる王のことで各地で伝承があるらしい」


聞いたことの無い話だった。

それに――


家庭教師をつけてもらって、統治という事について少しだけ習った。

だから分かることもある。


「精霊たちの生活は、そのなんというか王侯がいてそれが統括して自治を行っているというものと明らかに異なる様に感じます」


誰かを尊敬するとか、逆に人間よりも自分たちが高位の存在であるとか。

そういう概念自体が存在しているのかも怪しい。

子供が沢山いて、そこに大人が一人いたところで国が作れるかというと怪しい。


「御伽噺にあるだろう。精霊に『処刑してやるー』って襲い掛かられた話とか」


キリアン様に言われるがピンとこない。


「誰かを裁くという様な概念はなさそうですね」


そう、思いついたことを言った。

それから近くにいた精霊に「ねえ、あなた達に王様っているの?」と聞いた。


【なにそれー】


と精霊は答えた。


それから【僕らが知ってるのは僕らのお母さんの女神さまのことだけだよ】と付け加えた。


私が、あらぬ方向を向いて声をかけたことにキリアン様も気が付いて「精霊はなんて?」と聞いた。


「それがお母さんの女神様がいると……」


私も訳の分からないことを言っているという自覚はあった。

精霊のお母さんの話は御伽噺にすら出てこない。


けれど、キリアン様は馬鹿にもせず。


「そうなんだね」


と言って一瞬何かを考えた後、「女神か……」と呟いた。

それから、笑みを浮かべて「ここの料理は絶品なんだ。是非あなたも食べてみてください」と言って話を替えた。


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