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22話 パーティーの始まり

* * *


パーティー当日、私の髪の毛は綺麗に結い上げられ、そして造花のドレスを着せてもらった。


用意されたドレスはスミレの布花がデコルテラインと、それからふわりと広がったスカートに流れるラインを作るようにスミレの花があしらわれていた。

スミレは薄い紫の様な色をしていて私に似合うのか不安だったけれど着付けの手伝いをしてくれるヘレンさんが「奥様のこげ茶色の髪の毛にとても合うお色ですね」と言われてそういうものなのかもしれないと思い直す。


可愛すぎるかもしれないと思ったドレスは、モチーフがスミレなためだろうか、とても清楚な雰囲気で上品だ。

造花の間にはキラキラとしたビーズが縫い付けてある。

ガラスで作られたものではなく、細かく砕いた宝石の様な石が使われている。


ドゴール家の鉱山から出た石だと聞かされた。

鉱山の復興のパーティにふさわしい物になってるそうだ。


私はその上品なたたずまいに少し興奮して思わず「わあ!!」と声をあげてしまった。

ヘレンさんもそれ以外の今日のお手伝いをしてくれる使用人たちもほほえましい物を見る目でみえていた。


私のサイズで作られたドレスは、当たり前だけれど私にピッタリのサイズだった。

流れるようなラインが美しい。


「こちらが旦那様よりです」


アクセサリーケースを開けると深い紫色のアメジストのネックレスと耳飾りが入っていた。


これが伯爵家で代々受け継がれている物なのだろう。


ヘレンさんが「大奥様もこうやってパーティになるとつけていたんですよ」と言った。

つけてもらったネックレスをそっと撫でる。


鏡の私は初めてパーティ用の化粧をされて、自分でも別の人みたいだ。


「奥様にとって今日が楽しい思い出でありますように」



そうヘレンさんが言って送り出してくれた。



キリアン様が部屋まで迎えに来てくれていた。

彼の髪の毛も丁寧に撫でつけられていて、少しいつもと雰囲気が違ってドキドキとする。


彼はDOLLを持っていた。


「DOLLを皆に紹介しても」

「勿論構いません」


DOLLが主役という事だ。断る理由が思い浮かばなかった。

初めてのデートのすぐ後に、DOLLのためのサイズのあった新しい衣装を作っておいてよかった。

前のサイズが合っていない物よりもずっといい。

あの時買ったリボンも使った衣装はとてもDOLLに似合っていると思った。


キリアン様は配下にDOLLを預けると私をエスコートするために手を差し出した。

キリアン様をきちんと見る。

胸元に私のドレスと同じ色のチーフを入れていた。


お揃いだと気が付いた。


「君を祝うパーティだ。気楽にいこう」


キリアン様は私に向かって笑った。

少し不安が和らいだ気がした。


* * *


伯爵家の建物は昔の城を改装して使われている。

城のホールはさすがという作りで天井も高く、装飾品も美しい。

磨かれた床は淡い色をした石材でなんという石かはよく分からないけれど綺麗だ。


元々の使用人以外にも今日のために手伝いに来てくれた人々もおり、てきぱきと働いている。

パーティや祭りの時や冬支度の時だけ臨時で雇い入れている人々がいるそうだ。


それ以外に騎士の礼装を着た人たちがぴしりと並んでいる。

今回の事故で実際の救護活動や復旧にあたったのはこの人達なのだ。


「彼らの慰労は--?」


私が聞くと「勿論別の機会を設けてあるよ。今日は貴族としての体裁を整えている部分もあるからね」とキリアン様は答えた。


私は頷く。

勉強をしたおかげで少しだけ分かる。

貴族として鉱山を運営して商売をしている。

だから貴族として復興を祝わねばならない。

そして忠臣を褒め、そして伯爵家はこれからも安泰だと思わせなければならない。


そういう建前が貴族にはとても大切だ。

だから、この場所は今日綺麗に花で飾り付けられ、私も夫人として彼の横に立たねばならない。



次々に招待客がやって来る。

王都のパーティに出たことは無いので上手く比較はできないが、多分大きな違いは平民の商人が複数いること。


商談の場にしたいのだろう。


それからキリアン様の遠戚の方たちが沢山招かれている。

家門の結束を誓う目的なのだろう。


私はキリアン様と並び笑顔を浮かべて招待客を招き入れる。


皆そろったところでキリアン様は挨拶の言葉を述べ始めた。

それはこういう場に慣れている感じがして、私との差をとても感じた。

彼は、若くして伯爵となった。

慣れているのは、そうせねばならなかったからだろうというのが分かる。


少なくとも、私をいじめていた弟はこんな風に話すことはできない。

貴族だからできることではないことくらい私にだって分かる。



堂々と話すキリアン様を見て、本当ならば彼の横に立つ人は彼の助けになる人でならなければならないのだと思った。

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