数時間後――。
オレは早速、案内人と二人、ジャングルを進んでいた。
途中拾ったいい感じの棒で、生い茂る草を掻き分け掻き分け進む。
久我は集落で寝ている。
酒を飲んでダウンするとしばらく起きないからな、あいつは。
まぁ神の使い的に思われていたみたいだから、危害を加えられることもなかろ。
目的地はもちろん、一年前に邪悪な黒い影が降ってきたとかいう場所。
着地の衝撃で付近は壊滅したらしく、以来良からぬものが大量に棲みついているらしい。
この状況で魔王と無関係って線はまずないだろう?
それにしてもいい景色だ。
いやいや、ジャングルの話じゃない。オレのすぐ前を進む案内人の、ぷりっぷりのお尻だよ。
なんと長老さんは、例の黒ギャルちゃんを案内人としてつけてくれたのだ。
ほら、上はチューブトップで下はミニスカだろ? 歩くたびにスカートの中が見えそうで見えなくて、あぁもぅ、ドキドキイライラする!!
「ココダ!」
さすが若いだけあって、歩きながらの会話でそこはかとなく
うむ、しゃべりがカタコトで大変よろしい!
ガラガラっ。
「うおっとぉ! 危ねぇ危ねぇ。あやうく落ちるとこだった」
足元の土がボロボロ崩れて斜面を転がり落ちていく。
なんと、これだけ生えている木々がいきなりなくなり、そこに崖が出現していた。
気づかずもう半歩踏み出していたら、崖を転がり落ちていたところだ。
下を覗き込んだオレは
そこには、見事なくらい真円の湖があった。
クレーターに水が溜まったのだろう。
こうして崖の
クレーターの直径だって、下手したら一キロあるかもしれない。
「ここにくれば何か分かるかと
何者かにいきなり足をつかまれたオレは、問答無用で崖に引っ張り込まれた。
「テヲ!」
黒ギャルちゃんが崖を落ちつつあるオレに向かって手を差し出す。
オレも持っていた枝を宙に放りつつ、とっさに手を伸ばした。
キャッチ!
だが、か弱いギャルに体勢を崩したオレの体重を支えきれるわけもなく、オレはギャルもろとも斜面に放り出された。
だが、投げ出されたからといって、素直に下まで転がり落ちるオレじゃない。
「どっせぇぇぇぇいい!!!!」
落ちつつも華麗にジャンプしたオレは、空中で身体をひねって
いい感じの木の皮でもありゃあ、それをスノーボードのようにして滑り落ちるのになぁ……。
そう思った瞬間、履いていた革靴の靴底がいきなり広がった。
左右の靴が一瞬で変形合体する。
「なんじゃこりゃぁぁぁああああ!?」
からくりはスーツのときと同じ、こうなったらいいな、で変形しやがった。
どう見てもスノーボードだ。
色々と疑問が湧くが、とりあえず後回しにする。
足から斜面に着地したオレは、黒ギャルちゃんを両手で抱えたまま坂を滑り降りた。
下手なりにスノーボードの経験があって良かったぜ。
「くぉぉぉっぉぉぉおおお! 止まれぇぇぇぇええ!!」
ズザザザザザッザザザザザザア!!
崖は縁こそ角度がキツいものの、段々と緩やかになっていく。
そのおかげもあって、上手いことエッジを効かせられたオレは、湖面ぎりぎりの位置でやっと止まることができた。
黒ギャルちゃんを地面に下ろすと同時に、靴が元の状態に戻る。
スーツもそうだが、この靴もそこら辺に売っていそうな、ごくごく普通の革靴だ。
こんなものに変形ギミックつけるだなんて、どういう頭の構造していやがるんだ?
「スキ!!」
いきなり黒ギャルちゃんがオレにキスをしてきた。
しかも濃厚なやつだ。おほぅ!
見ると、瞳にハートマークが浮かんでいる。
あの危機的状況回避からの華麗なスノボテクニックで、すっかりオレに惚れちまったようだ。ぬはは。
ねっとりとキスを返そうと思ったオレだったが、直後、強烈に感じた嫌な気配に思わず黒ギャルちゃんから離れ、周囲を探った。
黒ギャルちゃんがキョトンとした顔をしている。
いやいや、嫌な気配は黒ギャルちゃんじゃない。別の……。
油断なく辺りを見回すと、地面から黒い
黒靄が見る間に人の姿に変化する。
しかも一体じゃない。靄はそこら中に湧き出ると、すぐさま人間形態に変化した。
さすがの黒ギャルちゃんも事態を悟ったようで、緊張した面持ちになっている。
身長はオレの腰サイズくらいで子供並み。全身が闇そのもののように真っ黒で、野球ボール大に光る穴が、目の位置に開いている。
「
そう。それは魔族のまとう強化骨格・暗黒体にそっくりな形状をしていた。
だが、あのときは鎧のような印象を受けたが、こいつらの場合はそのまま肌のような感じで、妙な生き物っぽさがある。
ならば似てはいるものの別物で、新たにシャドウとでも呼ぶべきか?
それにしても手が異様に長い。
何だこれ。まさか手首から先が剣になっているのか!?
シャドウは二十体か三十体か、結構な数現れると、両手の剣を振り回しつつ、一斉にオレに向かってきた。
「逃げろ、黒ギャルちゃん!!」
オレの指示を受けた黒ギャルちゃんが、血相を変えて走り出す。
黒ギャルちゃんの逃げる時間を稼がなくては!
「よぉし、食らえ!!」
オレは身体を回転させると、飛びかかってきたシャドウどもに向かって、左の後ろ回し蹴りを放った。
ガガガっ!!!
「ギャヒィィィ!!」
蹴りは見事ヒットして、十匹ほどのシャドウをまとめて吹っ飛ばした。
どうだ! 魔王討伐の間、万が一剣がない状態でも戦えるようにと、体術もしっかり鍛えていたんだよ!
だが、シャドウたちは、オレの見ている前でのそのそと起き上がった。
嘘だろ。プロレスラーが一撃で気絶するレベルの蹴りだぞ?
とそこで、オレはシャドウの妙な変化に気がついた。
吹っ飛ばしたシャドウたちがぼんやりと緑色に光っている。
ほんの数秒で光が収まると、シャドウは再び襲ってきた。
「何だと!?」
勢いが変わっていない。どころか、むしろ増している。あれだけキツめに吹っ飛ばしたのにまるでダメージを負っていないじゃないか! そんな馬鹿な!!
オレは向かってくるシャドウをかかと落としでつぶし、ひじ打ちで粉々にし、飛び蹴りで吹っ飛ばした。
地面に倒れたシャドウたちがまたも緑色の光をまといつつ立ち上がる。
オレの背筋が凍る。
これは回復の光だ。こいつら、無限に回復し続けるのか? 反則だ、それは!!
それでもめげずに、シャドウの攻撃を避けつつこちらの攻撃を当てていたが、やがてオレの動きが鈍ってくる。
そりゃそうだ。聖剣の加護もない今のオレが、そんなに長時間戦い続けられるものじゃない。
あっという間に斬りつけられ、オレの身体のあちこちから血が噴き出した。
「いってぇぇぇええええ! くっそぉぉぉぉおお!」
どれだけ痛めつけようと完全回復するような、不公平スキルつきのシャドウどもを相手し続けるなんて無理だ。何とかして武器を手に入れないとなぶり殺しにされるぞ!
たまらずオレも逃げ出した。
黒ギャルちゃんは無事逃げられただろうか。
そんなことを考えながらも、オレは武器になるものを必死に探しつつ湖岸を走って逃げた。
何か落ちていないか? 武器になりそうなものはないか!?
後ろを振り返る。シャドウの数が増えている。四十、いや、五十体はいる。
息が切れる。このままではいずれシャドウたちに追いつかれ、今度こそ殺される。
絶望感がオレの心を占め始めたそのとき、女性の叫び声が響いた。