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第7話 黒ギャルと聖剣

「コレヲツカエ!!」

『お使いなさい』


 声がダブって聞こえた。

 前方に黒ギャルちゃんの姿が見える。逃げろと言ったのに!!


 それにしてもさっきの声はなんだ? カタコトなのは黒ギャルちゃんだとして、もう一人は誰だ? ここには黒ギャルちゃんしかいないぞ!?

 湖岸で立ち止まった黒ギャルちゃんが、オレに向かって何かを投げた。


 ジャンプ! キャッチ!!


 オレの顔が、知らず歓喜の色に染まる。

 剣だ! 漆黒のさやに入っている。

 着地と同時に、オレは鞘から剣を抜いた。


「な!?」


 一瞬、身体に衝撃が走る。

 ユーザー登録された!?

 オレは信じられない思いで手の中を見た。


「軽い! しかも、力が湧いてくる。分かるぞ。お前がオレの新しい相棒なんだな?」


 シルバーファングより若干細身で、そのぶん少し長めだ。

 柄頭つかがしらほどこされた精緻せいち意匠いしょうに、宝珠ほうじゅっぽい水晶がついている。

 妙に意味ありげに見えるも何だかさっぱり分からない。

 何のギミックだ? こりゃ。

 ともあれ、詳細を調べるのは後だ。


 オレは迫るシャドウを前にグルングルンと剣を振り回し、間合いや斬撃のタイミングを急いで身体に馴染ませた。


「よし。いくぞ、相棒!!」


 武器を得たオレは、逃げから一転、シャドウに向かって剣を構えた。


「だりゃぁぁぁぁああああああ!!」

 ザシャァァァァァアアアアアアアア!!


 気合一閃、オレは飛びかかってきたシャドウに向かって、剣を横薙よこなぎに振るった。

 シャドウたちの身体が空中でまとめて分断される。


「ギギャァァァァァアアアアア!!」


 問答無用とでも言わんばかりに、斬られたシャドウの身体が空気に溶けて消えた。

 一瞬だ。回復のいとまさえ与えない。


「いける! いけるぞ!!」


 オレは次々とシャドウに斬りつけながら、その結果に目を見張った。

 斬って殺害どころか、泡のように消滅している。

 雑魚だからかもしれないけど、この剣、浄化能力が高すぎないか?

 さっきまであれだけ苦戦してたってのに――。


 ところがだ。

 これだけ味方が消滅しているにも関わらず、シャドウにはそれで逃げるとかいう感覚がからきしないようで、意にも介さず襲ってくる。あくまで物量作戦で押し切るつもりか?


 だがそのうち、多少は考えるヤツがいたのか、シャドウが何体か密集すると見る間に融合し、巨大体に変化した。

 見た目は変わらない。大きさが子供サイズから身長三メートルサイズに変化しただけだ。だが、威圧感は出ている。


「でやぁぁぁあああ!」

 ガキャァァァアンン!


 シャドウが手剣をオレの斬撃に合わせる。

 うぉっと、剣が止められた! 剣の部分のもやを密にして硬さを増したのか。なるほど。だが身体はそこまで厚くなってはいないだろ!


 大シャドウの大剣を紙一重で避けつつ懐に潜りこんだオレは、腹の辺りに聖剣を突き通すと、力いっぱい横に薙いだ。


「はぁぁぁぁあああっ!!」

 ズバァっ!!


 多少抵抗感はあったものの、大シャドウの身体は綺麗に上下に分断され、そのまま黒靄を撒き散らしつつ霧散した。


 そうやって時代劇の殿さま気分を味わいつつ、襲いかかる敵を斬って捨て、斬って捨てすること三分。ようやっと全てのシャドウを片づけたオレは、足を止め、荒い息を吐いた。


 思わず剣を杖に、片膝をつく。

 さすがに息が続かねぇ。まだまだ若いつもりなんだがなぁ……。


 ふと気配を感じ横を見ると、そこに黒ギャルちゃんが立っていた。

 おぉおぉ、すっかり忘れていた。無事だったようで何よりだぜ。

 立ち上がって剣をズボンのベルトに挿したオレは、ギャルに尋ねた。


「なぁ、黒ギャルちゃん。この剣、どこで手に入れたんだ?」

「ジメンニササッテタ」

「地面に刺さってたぁ? 剣が? どういうこと……むがが!!」


 黒ギャルちゃんはいきなりオレに抱きつくと、唇を強引に奪った。

 舌が差し込まれる。


「うがっ!?」

「ン! ンンンンンン……」


 更なる敵がいるかもしれない。油断は禁物だ!

 そう思って慌てて黒ギャルちゃんを引き離そうとするも、黒ギャルちゃんの目には完全にハートが浮かんでいる。


 黒ギャルちゃんってば盛大にさかっていやがる。絶体絶命の危機から救ってくれたオレを好きになっちまったってか? いやいや、敵がまだ出てくるかもしれないし、そもそも下は地面だぞ?  


 待ちきれないのか、黒ギャルちゃんは獣のようにオレを地面に組み伏せると、着ていた獣皮のチューブトップブラをポイっと投げ捨てた。


 ぶるん!


 現れたたわわのまぁ見事なこと!

 しかも、褐色の肌をしているくせに胸の部分だけ日焼けが薄くて、綺麗に日焼け痕のコントラストができている。

 こんなの見せられて、我慢できるかぁ!!


 獣のようにオレの唇をペロペロ舐める黒ギャルちゃんを逆に押し倒したオレは、攻守交代とばかりに、歓喜の声を上げる黒ギャルちゃんに覆い被さったのであった……。


 ◇◆◇◆◇ 


「おい、藤ヶ谷……」

 コンコン。


 こめかみの辺りに軽い打撃を受ける。

 ん? なんだ?

 気がつくと、枕元に久我が立っていた。

 おいおい、まさか靴で蹴って起こしたのか? 乱暴なやつめ。


 久我が呆れ顔でオレを見ている。

 にしてもずいぶん明るいな。まるで屋外で寝転がっているみたいだ。


「おはよう、久我。早いな……」

「早くないよ。そろそろ昼になる。色々言いたいことはあるが、とりあえず服を着ろ」

「服?」


 起き上がろうとするも左腕が動かない。何か乗っているような……。


「黒ギャルちゃん?」

「フニィィィィィ」


 オレの腕の中で、すっぽんぽんの黒ギャルちゃんが伸びをする。

 どうやら一戦……じゃないな、三戦か。頑張っちゃったオレは、黒ギャルちゃんを腕枕しつつ寝てしまったらしい。


 久我とは五歳の頃からの付き合いだから今更裸を見られたくらいで恥ずかしくもないが、黒ギャルちゃんまでもが、恥ずかしい素ぶり一つ見せることなく久我の前で平気で服を身につけている。

 時代かぁ……。


 オレは、腕や足の可動域や怪我の有無を確認しながら服を身につけた。

 身体に異常はない。

 シャドウにしこたま斬りつけられたはずだが、傷跡も残っていない。痛みもない。

 通常の人間なら、縫うような傷だったのにだ。


 弱体化のせいで治癒速度が若干遅くはなったものの、スキル自体がなくなったわけではないらしい。


「あれ? スーツに穴が開いていないぞ。どうなっているんだ?」


 驚くべきことに、穴が開いててしかるべきのスーツまでもが修復されていた。

 刺されたり斬られたりした場所はどこだったか。手足をバタバタ動かしながら探してみるも、穴はどこにも見つからなかった。


「何を踊っているんだ? 藤ヶ谷」

「踊ってねぇよ! 穴が……まぁいいや。んで? 次はどこへ行くべきかな」

「あれじゃないか?」

「あれ?」


 オレは、久我が指差す方向を見た。

 湖の中央。そこには、いつの間にやら小さな建物が浮かんでいたのであった。

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