私は今、一緒に帰宅する春人を校門で待っている。春人は、職員室でちょっとした用事があるようだ。
眞白の方はというと、沙耶と一緒に自転車で帰宅しているらしい。私は学校が終わると一番に帰宅していたから、沙耶が自転車通学だってことさえ知らなかった。
そういえば、私は眞白の生まれ変わりだとリュエルに告白した日、こんなLINEを送っていたことを思い出した。
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もう少し大人しくしておいた方がいいと思うよ。
特に私は大人しいキャラで通っていたから。
あと、藤崎さんとかは呼び捨てにしない方がいいと思う。
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どうして? 私の感触としては全然悪くないと思ってるんだけど。
あと、人によって名前の呼び方を変えるのもおかしくない?
少なくとも、私はそう思うんだけど。
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リュエルは公園で言った通り、LINEの中でもちゃんと眞白を演じていた。
そんな事より、私はこんなLINEを送ったことが、今になって恥ずかしくなっている。全然上手くいっていなかった私の生き方を、リュエルに押し付けようとしたのだから。
「ごめんな悠真、おまたせ!」
用事が終わった春人が声をかけてきた。
「全然。じゃ、帰ろうか」
春人と二人並んで、駅へと向かう。相変わらず、女子生徒たちの視線が熱い。特に、一年生たちは隠すこと無く好意の眼差しを向けてきた。
「見られてんなぁ悠真……お前が転校してくるまでは、俺がそのポジションだったのにさあ。ま、まあ、そのポジションってのは言い過ぎだけどさ……ホント、どこか一つくらい、俺にも勝たせてくれよ」
春人は半ば本気ムードでそう言った。
「何言ってんだよ。春人は見た目も性格も、めちゃくちゃ良いじゃんか。誰にだって優しくて明るいし。憧れの男子像だと思ってるよ、俺は」
最近、悠真の身体だと、恥ずかしいセリフでもすんなりと言えるようになってきた。その内、これが板についてくるのかもしれない。
「まあ、悠真がそう言ってくれるんなら、素直に喜んでおくけどさ。——ところでさ、悠真って彼女いないのか? 前の学校でも、当然モテてただろ?」
いつかはこんな質問が来るとは思っていた。今回の質問も含め、あらかじめ聞かれそうな質問は、ある程度の回答を用意しておいた。
「いないいない。前の学校で付き合っていたのは一人だけだな。その子とは、自然消滅しちゃったって感じ。——それより、春人は?」
「俺も誰とも付き合ってないよ。高校に入ってからは、告白をしたこともなけりゃ、されたこともない。バレンタインデーの時だけは、結構人気あるんだけどな。やっぱ俺って、恋愛対象じゃないのかなぁ……」
は、春人が恋愛対象じゃない!? そ、そんな事あるわけないじゃない……
「きっと、高嶺の花って思われてるだけだよ。もしくは、既に彼女持ちと思われてるか。——っていうか、好きまでいかなくても、気になる子なんかもいないわけ? 例えば彩奈とか」
彩奈は一見キツめに見えるが、とても可愛い顔をしている。それに気づいたのは、悠真になってからだ。
「彩奈なあ……ノリも良いし見た目もいいけど、俺の好みじゃないなあ……ってか、あいつ彼氏いるじゃんか。——それより、今俺の中で熱いのは眞白かなあ」
まっ、眞白!? もっ、元私ってこと!?
「なんて顔してんだよ、悠真。もしかして、お前も眞白のこと気になってんのか?」
「い、いや、俺はまだ気になる子なんていないよ、越してきたばかりだし……そういや、眞白って最近感じが変わったんだよな? 変わってから気になってきたってこと?」
私が言うと、春人は「フフッ」と笑った。
「いや、前からかなあ。あいつさ、掃除当番とかめっちゃ真面目なのよ。だーれも一所懸命やってる奴なんていないのにさ。俺、そういう子に弱いんだよ、きっと」
「で、でも、ちょっと暗い感じだったんだろ? 眞白って」
「うーん……確かに、それはそうだったけど……でもさ、結構可愛いと思うんだよ、眞白って」
は、春人が私を可愛いと言った……
掃除を頑張っていたことも知ってくれていた……
せめて、リュエルに出会う前にこのことを知っていたら……私の人生、少しは変わっていたのかもしれない。