「結構遅い時間になっちゃったな。みんな帰りは大丈夫?」
思いのほか話が盛り上がってしまい、時計は9時を回っていた。
「私は駅チカだから大丈夫。明日香は春人と同じ方向でしょ? 送ってもらったら?」
「何言ってんの彩奈。まだ、9時過ぎじゃん。一人で全然平気だよ」
「いやいや、俺送ってくよ。——それより、眞白の家は遠いよな。自転車で帰るんだろ?」
眞白が一人だけ自転車で家まで来ていた。ここからだと、40分は掛かるだろう。
「眞白は俺が送ってくよ。最近、自転車買ったとこだから」
「いっ、いいよ。往復したらめちゃくちゃ時間かかるじゃん」
「気にするなって。じゃ、とりあえずエントランスまで降りようか」
私たちはエレベーターでマンションを降り、週明けの校外学習で会おうと約束をして別れた。
***
「なんか、眞白と二人きりになるの久しぶりだな」
「ハハハ、ホント。私もバイト始めたりとか、前より忙しくなったからね」
二人でゆっくりと自転車を漕ぎながら眞白の家へと向かう。眞白の自転車のキコキコという音が夜空に響く。
「あれからどう? お母さんはどんな感じ?」
「私が元気になったからって、また新しいパート見つけてきたよ。フフフ、本当に行動が早いんだから。——あ、あとね。今度来てくれる時は、お土産とか気にしないでねって。また来て欲しそうだったよ、お母さん」
「そっか……今度は手ぶらで行くようにするよ。とにかく良かった、元気そうで。も、もしかしてだけどさ、お母さん俺のこと彼氏だとか思ってない?」
「どうだろうねえ……一応、私は全力で彼氏じゃないって言っておいたけど、お母さんはどう思ってるかな」
「ハハハ、そうなんだ。——そういやさ、春人と映画観に行くらしいじゃん」
「そうなの。沙耶から借りた漫画が面白くって、それを春人に話したの。そしたら、春人もその漫画が大好きらしくって。いまその漫画の映画やってるから、一緒に観に行こうかって、盛り上がっちゃって。——もしかして、悠真ヤキモチ焼いてたりするの?」
眞白はニヤニヤと笑ってそう言った。
「うーん……ヤキモチっていうか、二人がどんどん仲良くなって嫉妬なのかな……こんなこと、眞白にしか言えないんだけど、正直に言えばそんな感じなんだ」
あまりにも真っ直ぐに答えてしまったからか、眞白は驚いた顔をした。
「それはきっと、悠真が眞白だった時に、春人のことを好きだったからじゃない? どう? 当たってる?」
「そうだね……でも、好きだったっていうよりは、憧れだったっていう方が近いかな。——ああ、そうか。そんな憧れだった人が、今の眞白と仲が良いから嫉妬しちゃってるのかもしれないな」
「ハハハ、なるほどね。——もしかして、今も春人と一緒だとドキドキしたりするの?」
「いや……不思議とそれはないな。——眞白は?」
「逆に私は、少しあったりするかも。私が好きになっちゃったのか、もしかして眞白の体の記憶が残ってるのか……私たちあと半年もすれば、今と全然変わっちゃってるのかもしれないね。フフフ、これからどうなるんだろう、私たち」
眞白は夜空を見上げて、そう言った。