ぼんやりと目を覚ますと、白い天井が見えた。右側には点滴パックが吊り下げられており、そこからの管が私の右腕に刺さっている。
どうやら私は、病院の個室にいるようだ。ゆっくりと上半身を起こした時、病室の扉がスーッと開いた。
「ま、眞白!」
「お、お母さん……?」
「大丈夫!? 身体はなんともない? 気を失ってただけだから、点滴は念の為ってお医者さんは言ってたけど」
「う、うん、身体は平気。で、でも、私どうしてここに……?」
そう言うと、母は両手で顔を覆い「ううう……」と泣き声を漏らした。
「もし憶えてないんなら、思い出さなくていい。本当に……本当に辛かったんだね」
こんなに泣きじゃくる母を、私は初めて見る。そういえば、病室に入ってきたときから、泣き腫らしたような目をしていた。
ゆ……ゆうま……東雲悠真……
ああ……少しずつ記憶が戻って来る……
そういえば、私の身体はいつの間にか眞白に戻っている。
東雲悠真……あれは全て、夢だったのだろうか……
「お母さん……ゆ、悠真は……?」
母は、泣きながら何度も首を横に振った。
自宅のアパートへ戻り、一人でテレビを観ている。母は泣きつかれたのか、すぐに眠ってしまった。どこのニュース番組も、母校が起こした事件一色だ。悠真の写真がテレビに出た瞬間、私はテレビを消した。
今日のお昼まで、私だった人……
今、悠真は……いやリュエルは、渋い声のオジサンの所に行っているのだろうか。それとも違う場所にいるのだろうか。
そういえばリュエルは、もう体を入れ替えることは出来ないと言っていた。そんな嘘をついていた理由はなんだろうか。
私が眞白に戻りたいと、甘えさせないためだろうか。
それとも、私と私の生活を気に入ってくれていたからだろうか。
***
翌日、事件のせいで高校は休校となった。
私は再び昨日の病院に足を運んでいる。制服のポケットに入りっぱなしになっていた、スマートフォンを取りに来たのだ。ちなみに、血まみれになっていた制服は病院で処分してくれたらしい。
前の眞白だった時には、考えられないくらいのメッセージがスマホに届いていた。その殆どが、「大丈夫?」というメッセージ。私は今、スマホが戻ってきたことと、大丈夫だということを返信している。そして、返信をしている内にまた一件のメッセージが届いた。最初に返信をした明日香からだ。
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無事で良かった。少しだけ話できる?
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「もしもし、明日香?」
「眞白……大丈夫そうで良かった。来てないとは思うんだけど、彩奈から連絡ってないよね?」
「う、うん……彩奈からメッセージは来てない。——なにかあったの?」
「眞白は救急車に運ばれたから知らないと思うけど、彩奈、自分のせいだ、自分のせいだって、ずっと泣き続けてて……そこから、私にも連絡が来てないの……」
悠真を刺したのは、彩奈の元彼の須藤広樹だ。広樹と別れたタイミングが悠真が転校してきた日だったこともあり、悠真は逆恨みされたのだろう。
「そうなんだ……もし、私に連絡が来たら明日香にも連絡する。彩奈に会うことがあったら、彩奈のせいじゃないって伝えてあげて」
明日香は涙声で「ありがとう」と言って、電話を切った。