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3.偽りの伝説、信じがたい現実

あっさりと商人の頭を潰し、肩を落としてうな垂れたゼン。


明らかに殺してしまったことに対して落ち込んでいるのではなく、金がもらえなかったことに対して落ち込んでいる様を見て、護衛をしていた冒険者パーティの面々の顔を歪ませた。


舌打ちをしながら立ち上がり、商人を蹴飛ばし、地面に転がして唾を吐く。


「言っただろーによぉ……」

「ただ働きでしたね、ゼン」

「だいたいこういう時に『たすけてぇ~』っていう奴は適当なこと言うんだよ。ま、体は鈍ってなかったのを確認できただけでいいわ……それに、こいつもなかなかのクソ野郎みてぇだし、いなくなってよかっただろ。」


そういって荷馬車の布を破る。

中にあったのは木箱に詰められた乾燥させてある独特のにおいを放つ草。俗に言う『麻薬』と呼ばれるもののようだった。カモフラージュの為に一緒に乗せていた多少の金品をいくつか懐に入れ、


「まぁだこんな『嗜好品』の取引なんかやってんのか……んなことしてる奴の依頼なんか通してるようじゃギルドも堕ちたもんだな。黒ブタ、これ持ってさっさとギルド行くぞ。」

「証拠を出せばいくらか貰えそうですねゼン。」

「ギ、ギルドへ行くのですか!!」


鎧の男戦士がゼンを呼び止めて提案をする。


「も、もしよろしければ我々と一緒にギルドまで行きませんか?ここ数十年で地理も変わっていて、ギルドの本部も移動しています、我々なら案内ができます!」

「どうしますかゼン?」


女戦士と弓使いは男戦士の発言に驚き、考え直すように訴えているが聞かず、男戦士はゼンに頭を下げている。


「依頼の失敗の理由を俺にしたいんだろ?そんな媚びなくてもいい。むしろそれくらいの強かさがある方が俺は好みだ。いいぞ、案内しろ。」

「あ、ありがとうございます!お前達!行くぞ!!」

「……信じられない。」

「言葉に気を付けた方がよろしいですよ。彼女の声を戻したいのなら、大人しく従っていなさい。」


ゼンの指示がない限り、クロエは自分の力を使うことはしない。それを分かっていて、慈悲をかけるように女戦士に声をかける。少し悩んだようだが、弓使いのすがるような目を見て、仕方なく男戦士の後をついてゼンについて行く。


男戦士は、ゼンの持つ『プラチナランク』の称号に興味があるらしく、ユラユラ揺れるギルドのタグを見ながら媚びた態度で話をする。


「まさかこのような場所で伝説となっているゼン様にお会いできるとは……光栄でございます。」


60年前、異世界にきた現代の人間の過半数がやるだろうことをゼンはひと通り行っている。


この世界自体も魔法があり、魔物と呼ばれる存在があり……冒険者と呼ばれる者たちをギルドが管理して平穏を守っているテンプレート的な世界だった。それでも、普通に一般人として過ごす意味はないゼンは、おのれの力を試し、世界を理解する為に動きやすいようにと、冒険者としてギルドに登録した。

最初こそ、素直に依頼をこなして一般の冒険者らしくしていたが、その力はこの世界には大きすぎるもので、ランクの上昇速度が異常だと、すぐに噂になった。ギルドもゼンの存在を無視することは出来ず、高難易度である依頼をしたり、協力し、信頼を築いていった。


と、思っていたのはギルド側だけ。


途中で『飽きた』ゼン。しばらく生活するのには十分な金を手にしたのと、ルールに従うことに飽きたゼンは、最後の依頼『魔竜討伐』を受け、場を滅茶苦茶にして、姿を消した。当然ひとりでこなすことのできる依頼ではあったのだが、当時の上級ランクの冒険者たちも参加を切望したせいで、魔竜共々全滅という結果になった。


世に流れた噂は『白金のゼンが世界を守った』。尊い犠牲によって、世界の平和が保たれ、守られた……都合よく、ギルド側が流した噂で、シナリオである。その後冒険者を志す者たちにとって、希望になるように。


「へぇ……?」

「遺体の回収は不可能だったと……生きておられたとは……」


『面白い事を聞いた』と、不敵に微笑むゼン。


「魔物の出現頻度がまた増えてきたので、それを察してギルドへ?」

「いや?金が無くなった。」

「は、ははは、なるほど。金が無いと。こ、こまりますものね。」


今まで前を向いていたゼンが突然目を合わせて返事をしたことに、少したじろぐ男戦士。しかも、そのまま視線を男戦士の頭の先から足の先までゆっくり動かしたからだ。


「お前、それ無い方がいいんじゃないか?」

「へ?それ?」


パキャンっと音を出して男戦士の鎧が弾け、道にゴロンゴロンと転がっていく。


「きゃ?!な、な……なんで?!」


後ろを歩いていた女戦士が、突然パンイチになった男戦士の姿に顔を赤らめる。


「あとこっちもいらねぇな」

「え……うわぁぁぁ!?」


ファッサァ……と男戦士の髪が風に舞ってすべて消えていった。


「ゼ、ゼン様?!」

「はっはっはっは!!似合ってるぞ~」


ケラケラと笑いながらゼンは鼻歌を歌いながら歩く。


体型に似合わない大きな鎧を着ていた男戦士。もちろんガタイはよく、少し過剰ではあるが整った筋肉が付いている。頭髪をなくし、パンイチにさせられた理由をクロエが解説する。


「今日は機嫌が良いみたいですね。ゼンは彼に最適解を与えたのです。街についたらズボンくらいは買った方がよさそうですけれど。」

「は、はぁ?」

「あなたたちも、彼の夜伽の相手をしてらっしゃるのならわかるでしょう?あの肉体を隠す必要がないということ。」

「な……!恥ずかしげもなくなんてこというのよこの女……」


前方に狂人、後方に痴女という状況、会話なぞ弾むわけもなく、ただ静かに街への道を進む。


気付けば夕刻、空はオレンジ色に染まり、徐々に夜が訪れようとしていた。


「あ、あの、ゼン様。」

「あ?」

「街まではまだかかりますが、このまま進むのですか?」

「止まる理由は?」

「女性もいますし、疲れもあると思います……魔除けの香もあるので休む準備をと……」


男戦士の言葉に、後ろにいる女戦士と弓使いを見る。戦闘の後、少しも休むことなく歩き続けており、疲れている顔をしていいるのは見て取れた。


「どっちか……両方でもいいが、俺の相手してくれるのか?」


舌なめずりをしながら彼女たちの体をじっくり見るゼン。その意味に気付いた男戦士は彼女たちを守るため、進むことを選んだ。少しずつ、男戦士が憧れていた伝説の男がどんな人間であるのか、理解し始めていた。


「余計なことを言いました……進みましょう」

「なんだ?寒ぃからあっためてもらいたかったんじゃねぇの?クックックッ!」


パンパンと男戦士の頭を叩いて笑うゼンに、さすがに怒りをあらわにする女戦士。


「ちょっと!そんな風にしたのはあんたじゃない!下品なこと言わないで!!」

「おいおい、下品なんてひどいこと言うなよ、俺は素直なだけだぜ?」


そういうと、クロエのリードを引き、体を自分の腕の中に引き込む。胸をわし掴みにし、下腹部に手を這わせ、クロエの口に指を入れ舐めさせる。


「こういう事はストレートにしてやる方が喜ばれるんだぜ?」


クロエは抵抗せず従い、ゼンの腕の中でしばらく遊ばれ、飽きて簡単に地面へ転がされた。


「おいハゲ丸、最後まで俺を案内する気があるんなら、黙って歩け。」


鋭い目つきで男戦士を振り返り様に睨み、再び歩き出す。


今目の前にいるゼンという存在が、『白金のゼン』と呼ばれた伝説の人物なのか?と。伝説を信じ、冒険者を志した男戦士の心が曇っていく。

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