うひゃー。参った。ついに我が家にも雨漏りが。
賃貸マンション、最上階だからと高をくくっていたが甘かった。まさかこういう水害もあるとは。
幸い僕は所有物が少ない。急いで部屋の物を片付け、バケツやらビニールシートを置いた。
大家に連絡しようとしたとき気付いた。さっきから雨漏りしている天井の一部が黒くなっている。まるで雨じゃなくて墨汁が漏れているように。マジか。これは何だ?おそらくホコリか何かが溶けたものだと思うが、それにしたって、黒すぎる。
天井の雨漏りの範囲、それに加えて墨汁の範囲も徐々に広くなる。早く連絡をせねばならない。
それは突然だった。墨汁の水たまりの水が、数本の線に分かれ、まるで蜘蛛の巣のように一斉に四方へ飛散した―いや、「飛散」という言い方は違う、ガラスに水滴を垂らすと線を描きながら落ちていくが、それと同じように墨汁の黒い線が天井を走りだしたのだ。
黒い線は天井を駆け抜ける。ある所はきめ細やかに、ある所は全く走らず、そしてその範囲は天井全体に及ぶ。雨の音が強くなる。そして、しばらくして黒い線が動くのを止める。天井に描かれたもの。
あー、これはピカソのゲルニカだー。
ゲルニカ。作者パブロ・ピカソによる、戦争の悲惨さを訴える政治的な壁画として有名。
よし、とりあえず、いいものは見られたので大家へ連絡。速く直してもらおう。住宅保険入っているから、こちらからの持ち出しせずとも修繕はできるだろうと思う。
ただ、もしも、何らかの認識違いでこちらも費用の支払いが請求された場合、僕は、今、天井に描かれている絵の目的と真っ向から対立することになる。
【雨漏り】