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青龍8

最悪なことをしてしまった。妻に手をあげてしまった。


誓って言うが、妻に手を上げるなど常習的にはしていない。

結婚生活で初めてのことだ。昨日、妻と口論になり、その延長でついカッとなった。

気付いたら、妻の頬を張っていた。


頭を抱える。押し寄せる昨日の後悔、後悔、そして後悔――。

私はなんてことをしてしまったんだ。


張ってしまった手の、じんとしたしびれ。

妻の一瞬、何が起こったのか分からない表情。

超えてはいけないラインを超えてしまった私。


そして後方に駆けるやいなや、リングロープの反動を利用し、私に強烈なラリアットをお見舞いする妻。

リングに沈む私。

沈む私を逃すまいと、すかさず妻の逆四の字固めが決まる。私、絶叫。レフリーのカウント。


しかしまだ終わるには早い。8カウントのところで返し、命からがらリングトップへよじ登る私。

そこからハイフライボンバーラリアットで妻を仕留めにかかる。ここで決める。

しかし、なんと間一髪の所でひらりと身を翻し、そのまま勢いよくリングトップへと駆け上る妻、まずい、行くぞー!と叫ぶ妻のパフォーマンスが会場のボルテージを最高潮まで押し上げる。


そのまま私に繰り出されるムーンサルトプレス。もろに決まる。すごい痛い。

マジの呼吸困難になりながらマットに沈む私。再度の妻の逆四の字。レフリーのカウントが10までいっても、私は何もできなかった。


どんなに理由があろうと人を殴ったり、叩いたりしてはいけない。これは当然のことだ。

最初に手を出した私が悪いのは自明。


明日、妻にちゃんと謝ろう。そう決めた。


【ドメスティックバイオレンス】

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