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第7話 異世界クッキング①

  全員が別の部屋に移動して、その部屋の魔法陣を踏むとトッティーモエランディール公爵家の屋敷の玄関に現れた。尚大人数すぎて3回に分けられ、ナチュラルにエドワード王とチャラ宰相も着いてきている。


 イザークは魔法陣が初めてだからとハイドロイドと手を繋いで貰った。

 ハイドロイドが移動はだいたい魔法だと言っていたが、初の体感魔法はあっけなく済んだ。

 フェアリーキャットのシトラも堂々としたものだ。


 メイドや従僕服の人達が慌てて迎えにきたが、そこに国王がいることで一斉に頭を下げて渋滞が起きる。イザークはその中に執事服のベイツを見つけて少し嬉しくなった。


「礼儀は良い、勝手にきたのだ」

「ということだから〜、キッチンにご案内するからね〜」

 とはいえ、たくさん水分を摂ればトイレに行きたくなるのは当然と言える。

 キッチンへ歩く道すがら、ひそひそとハイドロイドに相談するとすぐにトイレに連れてきて貰えた。


「使い方はわかるかな、魔道トイレだけどかなり異世界の日本に寄せてあるんだ」


 ドアをあけたそこは、見慣れた水洗トイレ二台。トイレの中が広いのは体の大きい鬼神族の為だろう。


「ふ、フランスは異世界にも負けてる……!公衆トイレは便座も盗まれトイレットペーパーなんて存在しないし、パリ市内すらトイレは有料か店で購入した人間だけ借りれるコイン制でそれでもここまで綺麗じゃないのにっ!」

「日本ではどこでもこれなのだろう?」

「えぇ、まあ和式トイレもありますけど、駅のトイレでも家庭のトイレでも基本的に水洗トイレです」


 イザークの姉たちはフランスに帰りたがっていたが、トイレ事情は異世界にも負けていた。勿論イザークとて大型連休や長期休みはフランスに連れて行かれていたが、やはり利便性と清潔さは日本の勝ちだった。


 トイレを称えるのは後にして――専門機関の一部がイザークの叫びをやはりメモをしていたが――シトラはさすがにドアの外に待ってもらい、イザークは目的を果たせた。


「うちのシェフも一人見学に混ぜて構わないかい?」

「いいですよ。そんな、期待を応えられるか怪しいですけど……」

 キッチンは地下で、イザークの想像を越えて広かった。

 成人が十一人いるのに、全然狭く感じない。

 赤髪の男性が増えていたが、それが公爵家のシェフなのだろう。


 レストランの厨房を覗いたことはないが、業務用大型冷蔵庫らしきものがいくつもあり、作業台テーブルには所狭しと食材が並べてある。


(とりあえず、1番得意な料理を出すべきだよな。俺はベイツさんが買ってきてくれたやつを食べればいいし、ご馳走様を振る舞うってことで)


 わくわくの視線独り占めにしてる状態で、茶色のおかずを出すのは気が引けた。

 一つはキッシュにすることにした。パイシートはないだろうから、その間に何皿か作れるだろう。

許可を得て冷蔵庫を開ける――キッチンのものは好きにして良いと言われた――たくさんの塊肉。


 魚介、野菜とどれも見慣れた形だがサイズがバグってるものがぎっしりだ。

耐熱皿を出してもらう。薄力粉と強力粉を探していると、赤髪のシェフがすぐに出してくれた。


「材料はダリルに出してもらいなさい」

 赤髪の男が、こくりと頷く。

「じゃあダリルさん、バターをお願いします。無塩バターってありますか?」

「有塩も無塩もありますよ。パイですか?」

「はい。クラッカーを潰して下地にしても良かったんですけど、形が崩れやすいので」


 攪拌もやってくれると言うので、お願いした。いつもならフードプロセッサーに頼っているところだ。

 その間に鍋に湯を沸かして、イザークはトマトの湯むきを始める。こちらはパスタ用だ。


 イザークが湯むきを終えてトマトソースを作り終える間に、ダリルは冷水を注ぎ、そぼろ状にした生地を更に攪拌してひとまとめにしたものを綺麗な布巾に包んで冷蔵庫に。


(あっそうか、ラップがないんだな。っていうか使う材料を先に言っとかないともたもたする……段取り悪いな俺)


「玉ねぎ、ほうれん草、ブロッコリー、ミニトマト、キノコ、ベーコン。卵、牛乳、生クリーム、溶けるチーズ、パン粉、オリーブオイル、じゃがいも、はちみつ、マヨネーズ、粒マスタード、醤油。にんにく、魚介をそれぞれ台に出してください」


 和食の伝道師がいるから大丈夫だと思ったが、ダリルがすんなり醤油を出してくれたので安心した。瓶に入っているが、香りは間違いない。


 マヨネーズも瓶で出てきたので、やはりプラスチックは現代科学の代物のようだ。

じゃがいもは皮をむいて芽をとり、蒸かし――魔道レンジなる万能レンジがあったのでそっちで蒸かしてもらう。


 魔道オーブンで余熱を入れて、玉ねぎを繊維と反対側に薄くスライスする。

「使徒様、繊維に沿って切らないのですか?」

エルフの女性から質問が飛ぶ。


「玉ねぎは調理の仕方によって苺並の糖度が出るんです……あっこの世界の玉ねぎもそうなのか分からないですけど……向こうではシャキシャキ感より甘さを出したいときは繊維に逆らって切ってます」

おー!とどよめきと共に、メモが走り出す。


(手書きで不便そうだな。スマホみたいなの作れたら便利になりそう)


 生まれた時からスマホがある世代のイザークとしては、手書きが不便に見える。こちらは何でも魔道なんとかで便利だが、スマホに関してはイザークが初めて持ち込んだものだから仕方ない。

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