「あっダリルさん、昆布ありますか?大きな筒状の便で良いので、表面拭き取って昆布と水を入れたいんです」
「昆布を水出汁にするということですか?昆布に切れ目は入れますか?」
ハイドロイドがサーブ役となって、各お皿に魚介トマトパスタを分けてくれているので、ポテトに供えるレタスを洗うダリルに頼む。
「あぁ、湯豆腐とかだったら旨みをだすために切れ目いれますけど、水出しは一晩付けるので必要ないんです。明日の朝ごはんのお味噌に使う予定で。一晩過ぎるとエグ味がでるので、切れ目入れるとよくないんですよ」
「なるほど、分かりました。やってみます」
七人家族で暮らしていた為に、少し増やして10人前を目安にして作ったがいつもの癖で味見を忘れてしまった。今更ながら不安になりつつ、明日のメニューを確認する。
シトラには平たいお皿に食べ物を盛った。猫じゃなくて妖精だから、ニンニクや玉ねぎが入ってようと平気だと言われてもなかなか慣れない。
「素晴らしいです、使徒様!魔素が少ないのに魚介の旨みがたっぷりで、トマトの甘みと酸味が口の中に広がります!」
「このハニーマスタードポテトは使徒様のご考案ですか?!はちみつにマスタードに少量の醤油でアクセントがありながら無限に食べられます……!」
「これ、王族メニューにならない?」
「あっはー陛下、それはどうでしょう」
「口の中が幸せ〜!ハイド、おかわりないんだよね〜?」
「ないです父上、私の分を少しお分けしますので耐えてください」
「さすがに息子の分ぶんどれないよ〜!減らすときは陛下のお皿から……」
「みゃみゃー!」
テーブルには、イザークの分がきちんと分けられている。
ダリルは早速昆布だしを作っていたので、ベイツからフエギス料理を預かっていないか聞くと、すぐに冷蔵庫から出してくれた。
魔道レンジの使い方は、一回みてだいたい分かっている、異世界転移者の指導があったのだろう、日本のものとよく似ている。それでフエギス料理を温めている間に、自分の分をダリルに勧めてみた。
「良かったら食べてください、僕は最初に買ってもらったものを食べるので」
「いえしかし」
「せっかく手伝ってくださったんですから」
音を立てていた魔道オーブンが止まる。
キッシュもすぐさまダリルに切り分けられ、厨房がかしましい。
「ダリル、いいよ〜、イザーク君がそう言ってくれてるんだし、シェフとしても味は盗みたいだろう」
「……では失礼します」
オットーメルナスの許可を得て、ダリルは洗い場近くに移動して食べ始めた。
さすがに国王の座る同じテーブルでは食べられないのだろう。
表情筋は硬いままだが、サラダを含んだ口と目が笑った。
イザークも温め直したご飯を食べ始めたが、気づけばテーブルは無言になっている。
「し、使徒様……!」
ようやく、ドワーフが声を上げた。その手がキッシュの食べ掛けを握って震えている。
「なんという美味!!具だくさんでも中身が溢れず、味の奥深いことと言ったら!」
「こんなの魔素の高い料理でも味わったことがありまさんわ!この玉ねぎの甘み!」
「これを魔素の濃い材料で作ったらもはや意識が飛ぶのでは?」
「耐熱皿は、日本のものと同じでしたか?分量がきっちりと!」
おにぎりを食べ終えたイザークは――ちなみに梅干し味とおかかだった――キンキラ光るたくさんの眼差しに貫かれた。
「いえ、お皿は実家で作っていたサイズと似ていたので、あとは目分量で増やしました」
ほぅっと人数分のため息が漏れる。エドワード王は皿にタルトの欠片でも残ってないかと空の皿にフォークを入れている。
シトラは皿を綺麗に舐めて、そんな魔王陛下には軽蔑の視線を送っていた。
「んみゃっ、みゃー」
「あっはー、陛下。フェアリーキャットに意地汚いってバカにされてますよ、流石ですねー!」