逃亡は、あっけなく失敗した。
エリアスはレオナードの腕に抱えられ、まるで獲物を捕らえた猛獣のように部屋へと連れ戻される。
歩くことすら許されず、強い腕に封じ込められたまま、東の宮殿の寝室へ。
「っ、降ろしてください!」
エリアスは必死に暴れたが、レオナードは微動だにしない。
まるで "おとなしくしろ" とでも言いたげな静かな表情のまま、扉を開けた。
「離せ!俺は……!」
言い終わる前に、視界が反転する。
──次の瞬間、エリアスの体は柔らかな寝台へと投げ出された。
「……っ!」
咄嗟に体を支えようとするが、すぐにレオナードの影が覆いかぶさる。
腕を伸ばし逃れようとしたが、その手首を容易く掴まれ、ベッドへと押し付けられる。
「ふざけないでくださいっ……レオ様……!」
必死に抗うエリアスに、レオナードは冷たく言った。
「ふざけているのは、お前の方だろう?」
黄金の瞳が、暗く深く輝く。
「この状況で、逃げられると思っていたのか?」
その言葉に、エリアスは思わず喉を詰まらせた。
分かっていた。逃げられないことも、捕まることも。
それでも──試さずにはいられなかった。
「……俺には、選ぶ権利もないんですか」
睨みつけるように問いかけると、レオナードは眉をひそめた。
「選ぶ権利なら、与えたはずだ」
「どこに!?俺はあなたの側近として働きたかったのに、それすら取り上げられて……!」
エリアスの叫びに、レオナードの手が喉元に触れる。
指先がそっとなぞるように撫で、そして軽く、ぎゅっと押し込めた。
「"王弟妃"であること以上に、何が必要だ?」
その声は、低く、静かで、それでいて恐ろしいほどの熱を秘めていた。
「……っ」
エリアスは言葉を失った。
それは "お前の全てはすでに私のものだ" という、絶対的な宣告だった。
「お前は私の妃だ。王弟妃であることが、お前のすべてだ」
レオナードは、まるでエリアスがどう思おうと関係ないと言わんばかりに言い放つ。
「……それが、俺のすべて?」
エリアスは、笑いそうになった。
それは絶望と怒りが入り混じった、自嘲の笑み。
「なら、俺は"王弟妃"であることに納得できないといったら?」
試すように問いかける。
もし、レオナードが本当にエリアスの意思を尊重しないのなら──。
だが、その瞬間。
レオナードの手が、エリアスの顎を掴み上げた。
「わからせるまでだ」
「……!」
レオナードの瞳が冷たく光る。
鋭い金色の瞳が、エリアスの全てを射抜くように見下ろしていた。
「私から逃げるなど、しなければよかったと……後悔させるしかあるまい」
静かに囁かれたその言葉に、エリアスの体が震える。
(……っ、どうして……)
抗いようのない、強い力。
ゆっくりと、顎にあった手が動いた。
※
「……っぁ……」
くぐもった甘い声が響く。
エリアスは必死に息を殺しながら、レオナードを見上げる。
睨むだけの覇気は既になく、瞳には涙が浮かんでいた。
「どうした、エリアス……随分と苦しそうだ」
レオナードに耳元の間近でそう落されると、肌を震わせて、頭の上で拘束された両手をぎゅっと握る。
エリアスは今、寝台の上で身体の自由を奪われたまま、緩やかに、けれど確りと熱を管理されていた。
衣服は腕に少し残るのみで、下半身は生まれたままの姿だ。
それを人前にさらすのだって本来恥ずかしい。
──そんなものではない。
レオナードの手によって雄芯ははちきれんばかりに姿をかえさせられ、とろりと先っぽから蜜を垂らしている。
それがいくつも溢れてはエリアスの下腹を汚していた。
そして密やかに立ち上がる根元には進取する素材で作られたリングが嵌められていた。
それが、エリアスが達するのをずっと邪魔をし、生殺しの状態が続いている。
「……っれ、おさま……っ」
苦し気な声が落ちるのを見て、レオナードの指先がエリアスの亀頭をそっと撫でた。
ぬるついた皮膚を擦ってから、指で弾く。
「ひっ、ぃ……!やぁっ……!」
悲鳴と一緒に腰がぐ、とせり上がる。
そうすると指先に過敏な場所がまた当たって、エリアスを余計に苦しめた。
熱で頭がぐるぐるとし、思考が痺れるようだ。
それとは反対にレオナードは冷静そのもので、愉し気な色を浮かべながら、エリアスを眺めていた。
「エリアス……強請ってみろ」
「……っ」
弾いた指を根元に滑らせて、リングの嵌っている部分を擦る。
そんな些細な振動でさえ、エリアスの熱を上げていくには十分で。
けれど、未だに理性がほんの少し残る頭がエリアスに視線を逸らさせた。
小さな反抗に、レオナードはくっと喉で笑う。
「強情な妃だ……仕方ない」
指がまた動き、柔らかな陰嚢を撫でながら落ちていき、肉の窄まりに向かっていく。
「んっ……やめっ……」
エリアスは思わず身を捩ろうとしたが、上体を戻したレオナードの片手が腰を強く掴んで拘束を加える。
レオナードの指先が辿り着いたそこも雄蜜で湿っており、入口を指先が叩くと、期待をするようにヒクつく。
「止める割には……入れて欲しそうだ」
呟きが終わるよりも早く指が中へと入りこむ。
「あっ……」
エリアスの目が見開かれた。
いやだ、と示すように首を振ったがレオナードの指が止まることはない。
そのままぐにぐにと肉を掻き分けて進み、目的の場所を見つけると止まった。
「ここ、押したらどうなるだろうな?」
「やっ……れおさまっ、れおさま……!」
起こせない身を起こしながら、自身の下半身をエリアスは見る。
みっともないほどに、欲望に素直な自分のものは、頭の中とは逆に刺激を欲しがるように揺れていた。
レオナードもそれに気付いているのだろう。
熱を持つ個所に、息を吹きかける。
「ぁう……っ」
「此処は欲しそうだな」
語尾と共に、指で中側の肉を強く押し上げた。
「ひんっ……!」
凄まじい刺激がエリアスの脳天を突き抜ける。
だが、最後の快楽までは得られず、腹の下でぐずついたままだ。
エリアスは堪らずぼろぼろと涙を零した。
「も、や……れおさま……っ」
「わかるだろう?エリアス……」
もう一度同じ場所を押し上げてから指を引き抜く。
再度訪れたどうしようもない熱にエリアスは唇を噛んだ。
はあ、はあ、と荒くなる息を吐き出し、レオナードを見つめる。
(も、だめだ……)
思考はどろりと溶けた。
もう一度息を吸うと唇を開く。
「い、かせてくださ……ぃ、れおさま……ぁ……」
甘く甘く強請る声音が漏れた。
「可愛らしいお強請りだな……エリアス。仕方がない」
エリアスを苛んでいた指が、根元のリングに向かい、指先に小さな魔力が込められると……。
──パチン
小さな破裂音と一緒に、一か所が弾け、リングが寝台の端に飛んだ。
途端に、エリアスの身体の中の熱が一気にそこに集まり──。
「ふあ、あああぁ……っ」
鈴口からとぷりと白濁とした粘液が吹き出し、エリアスの腹を汚した。
レオナードは震えながら蜜を吐き出すエリアス自身を握り、ゆるく上限に扱く。
「あ、あ、あ……だめぇ……」
声を上擦らせて、エリアスは唇を震わせる。
レオナードはまた上半身を屈ませると、エリアスの唇を舐めながら、金色の瞳に弧を描かせた。
「エリアス……」
名を呼んで、レオナードはその白い首筋に齧りついた。
※
エリアスは、寝台に沈むように横たわっていた。
心地よいとも、苦痛とも言えない、ただ熱の残る体を引きずるように息を整える。
(……最悪だ……こんな……)
逃げようとした罰は、甘く、強く、容赦のないものだった。
否応なく刻み込まれた“レオナードのもの”であるという実感。
「……っ、くそ……」
悔しさに唇を噛みしめるエリアスの頭を、レオナードの手が優しく撫でた。
「無駄なことはするな」
その言葉に、エリアスはただ強く目を閉じた。
逃げることは、許されない。
改めて思い知らされた夜だった。