エリアスの一室では、レオナード、エリアス、カーティスの三人が向かい合う形で座っていた。
「……で、どうやってロベルトに接触します?」
カーティスが腕を組みながら、真剣な表情で問いかける。
軽口を叩く余裕もないらしい。
レオナードは静かに指を組みながら答えた。
「まずは奴の本心を知りたい」
「ですよね」
エリアスも考えながら口を開く。
「でも、ロベルト先輩はこのまま沈黙するつもりはないと思います。何かしらのタイミングがあれば、接触の機会は作れるはず……」
「問題は、その"タイミング"をどう作るか、だな」
レオナードは金の瞳を細める。
「表立って兄上や私が呼び出せば、奴の母親も警戒する。今、こちらの動きを悟られるのは避けたい」
「そうですね……。じゃあ、"自然な形でロベルト先輩を引き出せる場" を作る必要がありますね」
エリアスは思案するように指先をトントンと膝の上で弾く。
「自然な形……かぁ」
カーティスが眉をひそめ、しばし沈黙したあと――
「……あ、じゃあ僕の婚約発表の場なんてどうですかね?」
「――は?」
エリアスは一瞬、思考が停止した。
「お前、自分の婚約発表の場をそんな使い方するのか」
レオナードが半ば呆れたように呟く。
「いやいや、どうせエドワルド陛下は盛大に発表する気満々なんですよね……だったら、それを利用しない手はないかなーって?どのみち、権威を示したいうちもやる気まんまんで用意の協力してくれますよ」
カーティスは肩をすくめる。
「ロベルトも母親も、その場に姿を見せる可能性が高いし、堂々とした社交の場だから"暗殺計画の話なんてできる雰囲気じゃない"。つまり、こっちが優位に話を進められるかもしれないでしょ?」
僕天才すぎる、と呟きながらカーティスは首を傾げた。
「……なるほどな」
レオナードの表情が僅かに和らいだ。
「確かに、エドワルド兄上の婚約発表なら、王族や貴族がこぞって出席するだろう。ロベルトも例外ではない」
エリアスもゆっくりと頷く。
「なら……それで決まりですね」
だが、ふと、レオナードが意味深な視線をエリアスに向けた。
「……それなら、エリアスの親族にも正式に知らせておく」
「――え?」
一瞬、エリアスは自分の耳を疑った。
「ちょ、ちょっと待ってください。それってつまり……」
「お前の親族は"王弟妃の家族"だ。当然、カーティスの婚約発表の場には招待される」
「……っ」
エリアスは言葉を失った。
(父上と母上、兄上……家族が、俺に会いに来る……)
「おそらく、お前の家族は私のところへ詰め寄るだろうな」
レオナードは淡々と続ける。
「"王弟妃になったというのに、一度も家族のもとへ帰っていない"。それどころか"東の宮殿に閉じ込められている"と聞けば、当然怒るだろう」
(確かに……それは……)
自分が逆の立場だったら、やはり納得はできない。
「ま、怒るよね」
カーティスも苦笑しながら言う。
「エリアスが何も言わず、ずっと王宮にいるんだから。"閉じ込められてる"なんて噂になってるし、そりゃあご家族も怒るさ」
「……それは、まあ……」
エリアスはそっと手を握りしめた。
「でも……それでも、私はここにいることを選びました。だから、ちゃんと説明します」
レオナードは満足げに微笑んだ。
「そうか」
カーティスは腕を組みながら、ふっと笑う。
「エリアス、本当に変わったね。昔なら"自分が悪いのかもしれない"って悩んで、うまく言えなかったと思うけど」
「……そうかもしれないね」
エリアスはゆっくりと息を吐いた。
(俺がここに残った理由は──)
王弟妃として。
レオナードの伴侶として。
そして――彼を守る者として。
「よし、それじゃ決まりだね!」
カーティスが軽く手を叩いた。
「ロベルトとは僕の婚約発表の場で話をする。エリアスの親族にもその場で説明する。そして……何より、暗殺を仕掛けようとしてる連中が、そこで何か動くかもしれない」
レオナードが鋭い眼差しを向ける。
「……警戒は怠るな」
「もちろんです」
エリアスもまた、力強く頷いた。
その場に立つ覚悟は、もうできている。
(ああ、でも……皆、怒るだろうなぁ……)
エリアスは窓の外を遠く見つめた。