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14-1

レオナードの執務室にはその部屋の主をはじめ、エリアスとカーティス、そしてロベルトが集まっていた。

エリアスが静かに書類を閉じると、レオナードが腕を組んだまま低く呟いた。


「……いよいよ、だな」


ロベルトの母親――黒幕の正体が明らかになった今、こちら側も次の手を打つ準備を整えなければならない。

勢力が削がれたと言っても、彼女がこのまま大人しく引き下がるとは思えなかった。


「カーティスの調査によると、母上はまだ貴族派の一部と接触を続けているようです」


ロベルトが静かに言う。


「もはや大きな戦力はありませんが……それでも、何かしらの動きを見せる可能性が高い」

「最後の一手、か」

レオナードが目を細める。

「敵に残された手段は限られている。もはや力押しでは勝てぬと悟っているだろうからな」

「おそらく、王家そのものを揺るがせるような策を打ってくるでしょう」


エリアスが静かに言うと、カーティスが肩をすくめる。


「レオナード殿下の王位簒奪説を流すとか?」

「ありえるな」


レオナードが頷く。


「すでにそれらしい噂は少しずつ広められているようだ。王なんて立場は私は御免だが……」

「ならば……その噂を利用しましょう。」


エリアスが落ち着いた声で言った。

全員の視線が彼に集まる。


「エドワルド陛下に貴族の参集をしてもらいましょう」

「ふむ……それは?」


レオナードが興味深げに眉を上げる。


「表向きは新たな政策の発表とその調整という名目ではどうでしょうか?ですが実際は黒幕を引きずり出すための場です」


エリアスは言葉を続ける。


「母上が本当に最後の策を持っているならば、その場を利用して何か仕掛けてくるはずです」

「なるほどねぇ」


カーティスが腕を組む。


「確かに、敵にとって"公の場での発言"は最後のチャンスかもしれない。そこでレオナード殿下を糾弾する可能性は高いかもですね。問題は、どうやって証拠を突きつけるか、ですね」

「そこは……ロベルト先輩に協力していただきます」


エリアスの言葉に、ロベルトが目を見開いた。


「……私が?」

「先輩が"母君の計画を証言する"のです」


エリアスははっきりと言った。


「母君がその場で殿下を糾弾しようとしたとき、先輩が真実を語ることで、彼女の信用を完全に失墜させる」

「……」


ロベルトは拳を握りしめる。

それがどれほどの意味を持つか、理解しているからこそ、即答できないのだろう。

だが、しばらくの沈黙の後、ロベルトはゆっくりと息を吐き、頷いた。


「……わかった、引き受けよう。私がやるしかないだろうからね」


その言葉を聞いたレオナードは静かに微笑んだ。


「よし。では、兄上に報告に行こう。あちらも待ちかねているだろうからな」



エドワルド王の執務室は、王宮の最も奥まった場所にある。

厳重な扉の前で護衛に通されると、中ではすでに王が書類を整理しながら彼らを待っていた。


「よく来たな」


低く響く声に、エリアスたちは一礼する。


「どうやら、作戦が決まったようだな?」


エドワルドが卓上の書類を片付けながら、鋭い視線を向ける。

カーティスはそのまま、エドワルドの横に立った。


「ええ」


レオナードが進み出る。

先ほど話し合った内容を伝えると、


「ふむ……」


エドワルドは静かに目を閉じ、しばし思案するように指を組んだ。


ロベルトは王の前で、静かに拳を握った。


「……陛下」


彼は真剣な表情で王を見上げる。


「私は、この場で正式に母と決別を宣言します。王家に刃を向ける者に、私の名を語らせるつもりはありません」


その言葉に、王は目を細めた。


「お前の決意は固いか?」

「はい」


ロベルトは迷いなく頷いた。

エドワルドは数秒沈黙し、それからゆっくりと微笑んだ。


「……よく言った」


王は席を立ち、彼らを見渡す。


「ならば、その"舞台"を整えよう。私の役目は、場を用意し、公平な裁きを下すことだ」


そして、厳かな声で告げる。


「王の名のもとに、すべての貴族を集めよう。これは、王家の威信をかけた決戦となる」


レオナードとエリアス、そしてロベルトが静かに頷いた。


「──さて、これで決まりだな」


満足げに言ったエドワルドが、ふと隣に立つカーティスへ目を向ける。

次の瞬間、手招きした。


「さあ、可愛い婚約者よ。我が膝の上に来るがいい」

「いやいやいや!?」


カーティスが勢いよく後ずさる。


「なんでその流れになるんですか!? 報告の真っ最中ですよ!? いや、報告じゃなくても無理ですけど!!」

「ふむ、ならば今夜は私の部屋で──」

「却下です!」


カーティスが即座に声を上げると、王は「残念だ」とでも言いたげに肩をすくめる。


「全く、可愛い婚約者が素直に膝に乗る日は来るのだろうか……」


「来ません!!!」


エリアスがそっとため息をついた。


「陛下、そのあたりは……ほどほどに」

「エリアスでもいいぞ?」

「それはないです」


真顔で即答するエリアスに、カーティスがため息をついた。


「ここの王族、癖が強すぎるんだって……」


そんなやり取りが続く中、レオナードだけが冷静に微笑んでいた。


「お前もなかなか大変そうだな、カーティス」

「レオナード殿下が言えたことじゃないですよ……!!」


エリアスは「本当に」と思いながら、次の戦いに向けて意識を切り替えた。

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