王宮の一室。
煌々と輝く月の光が、窓越しに部屋を照らしていた。
エリアスは椅子に腰掛け、カーティスの様子をじっと眺める。
彼は窓辺に立ち、腕を組んで考え込んでいた。
陰謀は片付いた。またどこかで何かが起こるかもしれない。
けれど、平穏がそこにはあった。
「……なあ、エリアス」
「ん?」
「結局、未来は変わったのかな?」
唐突なカーティスの言葉に、エリアスは少し驚き、それから肩をすくめた。
「さあ?どうだろうね。……どう思われます、王妃殿下」
カーティスはフッと笑う。
「それやめてよ。まだ婚約者だよ婚約者。でも最初はさ、お前はレオナード様に捨てられて、僕は断罪される! 下手すりゃ打ち首だ!って本気で思ってた」
エリアスも思わず笑った。
「俺も。どうせ捨てられるんだろうな、ってずっと考えてた」
「で、無駄に悩んでたわけだ」
「お互いに」
二人はふっと笑い合った。
「今思えば、"決めつけてた"ってのが一番の間違いだった」
エリアスは苦笑しながら、窓の外を見つめた。
息を一つ吐き出す。
「けど、レオ様は最初からずっと変わらなかったんだよな」
「エドワルド様もそうだった。……なんであの人たちはあんなに揺るがないんだろうね」
「さあ?そういえば……お前は本当にいいのか?王妃、なんて……」
カーティスがエドワルドの婚約者と言う立場を選んだのは、自分が閉じ込められていたことが大きい。無論それだけではないだろうが、あの時のカーティスがエドワルドを想ってたとはどうしても考えにくかった。
だから、エリアスとしてはカーティスに大きな罪悪感がある。
もし自分のせいで親友が不幸になったら──そう思うと怖かった。
カーティスはきょとん、とエリアスを見つめた後に笑う。
「いいんじゃない?あれでいて、陛下は僕を本気で可愛がるみたいだし。まあ~……嫌いじゃないしね、陛下のこと。それに家族からはとても褒められたし」
「そんな、でも……」
「不義密通とかしない限り、打ち首にはならないと思うしね。万々歳だよ、それで」
カーティスは軽く肩を竦めて、片目を瞑る。
これ以上何を言っても、この飄々とした親友はのらりくらりとかわしそうだ。
ならば、とエリアスは立ち上がりカーティスの前に立った。
「お前が困ったら、俺は絶対に助けるよ。カーティス」
カーティスの手を取って握りしめる。
エリアスの手の暖かさに、カーティスもそれを握りしめた。
「うん。これからもよろしくね、エリアス。何せ僕らはもう、義兄弟だからね。お兄様って呼んでもいいよ!」
「呼ばない」
エリアスは真顔で即答する。
そして、二人はまた笑いあった。
「……でもさ、本当に"これで終わり"なのかな?」
カーティスがぼそりと呟く。
エリアスは片眉を上げた。
「何、また事件が起こるかもしれないって?」
「いや、そうじゃなくて……“小説”はね。きっともう……関係なくなってると思う。けどさ」
カーティスは少し考え込んだ後、笑う。
「僕たちが最初に聞いた"未来"と、今の未来って、全然違うよね?」
「そうだな」
「ってことはさ、"この先の未来"も、僕らの知らないものに変わってるんじゃないかなって」
エリアスは少し考えて、それから肩をすくめた。
「それは誰でもそうだし、普通のことだろ?」
エリアスは軽く笑った。
「それもそっか」
二人は顔を見合わせ、ゆっくりと笑った。