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番外編

1:運命の分岐点

王宮の夜は静かだった。

けれど、その静寂の裏で、一人の内査官が動いていた。

カーティス・ヴェルナー。

彼は"内査官"としての権限をフルに活かし、エリアスが閉じ込められた件について独自に調査を進めていた。

だが、それが"王の目"に留まるのに、そう時間はかからなかった。


「ふむ……エリアスを救おうと、内査官の職務を越えた動きをしていた、と?」


玉座の間。

エドワルド王がカーティスを見下ろしていた。

カーティスは片膝をつきながらも、余裕の笑みを崩さない。


「いーえ。内査官としての調査ですよ。ただ、少し……個人的な関心が強すぎたかもしれません」


エドワルドはくつくつと笑った。


「ほう……個人的な関心、か。そこまでエリアスが大事か?」

「……僕の唯一の親友ですから。てか、エリアスは関係な……くもないですけど!事件の方なんですってば。まあ、エリアスとは話をしたいですけど。陛下の弟君が閉じ込めちゃうから悪いんですけど」


カーティスはさらりと言い放った。

エドワルドはしばらく彼を見つめていたが、やがて顎に手を添えた。


「なるほど。だがな、カーティス・ヴェルナー。お前は少し気が急いているな」

「……どういうことでしょう?」


エドワルドは、まるで戯れのように言う。


「お前がエリアスと会いたいなら、一つだけ方法がある」


カーティスは眉をひそめる。


「……方法?」

「簡単なことだ。お前が私の妃に──婚約者になればいい」


──一瞬、カーティスは言葉を失った。


「お前はヴェルナー侯爵家の子息。元々はレオナードに打診をしていたようだが……なに、兄の私でも問題ないだろう?今なら、まだ唯一、だぞ?」


面白そうに提案をするエドワルド。

その様子は恐らく冗談のつもりなのだろう。要するに、カーティスを揶揄っているのだ。

けれど、カーティスが考えるように首を傾げた。

そして、彼の口から出たのは、予想外の言葉だった。


「……ちょうどいいですね。それなら確かにエリアスと会い放題ですし」


エドワルドの瞳が驚きに細められた。


「本気で言っているのか?」


カーティスは真剣な表情で頷く。


「ええ。今更陛下も冗談でした~とか言いませんよね?」


エドワルドは、しばらくカーティスを見つめていたが、やがて苦笑した。


「……まさか、本気で受け入れるとはな」

「やっぱり冗談だったんですか?」

「半分、いや……四割くらいか?」

「残りの六割は?」

「試しに口にしてみただけだ。2割くらいはお前を可愛いな、と」


カーティスは唖然とした。


「……なんて適当な……」

「だが、気に入った」


エドワルドがふっと微笑む。


「ならば、今日からお前は私の婚約者だ。すぐにヴェルナー侯爵に使いを出そう。これからどうぞよろしく。私の可愛い婚約者殿」

「え、なんですか、その呼び方……絶対に人前では言わないでくださいよ⁈」


──こうして、カーティスは王妃になる道を歩み始めた。

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