エドワルドの私室には、国王と婚約者となったカーティスがいた。
「……で、僕はいつまでここにいればいいの?」
カーティスは、豪奢なソファに座りながら、手元の紅茶をかき混ぜる。
それに対し、エドワルドは書類に目を通しながら、さらりと言った。
「当然、ずっとだ」
「……いや、それは違うでしょ?」
「何が違う?」
「僕はエリアスと話したいからとか……まあ、家的にも色々とあったから受けただけで──」
「政略結婚だから一緒に居なくていいと?」
「そんなことは……」
カーティスが返す言葉に詰まるのを見て、エドワルドは小さく笑った。
「冗談だ。……いや、半分は本気だが」
「半分ってなんなの……」
エドワルドは手を止め、カーティスを見つめる。
「なあ、カーティス。お前は"王妃"になることに、なんの躊躇いもないのか?」
「そりゃあ……最初は驚いたけど」
カーティスは、目を伏せた。
「……悪い話じゃなかったし?」
その瞬間、エドワルドはくつくつと笑い出した。
「……なに?」
「いや、やはりお前は可愛いなと思ってな」
「は? どこが?」
エドワルドはカーティスをじっと見つめる。
「そうやって"王妃"になることに素直になれないところも」
「別に素直じゃないとかじゃなく──」
「"自分を納得させるための理由"を作るのが得意なところも」
「……っ」
「そして"悪い話じゃない"と自分を誤魔化しているところも、全部」
エドワルドは立ち上がると、ソファへと座り、カーティスの顎を軽く持ち上げ微笑む。
「可愛い」
「~~~~っ!!!」
カーティスは顔を真っ赤にして、思い切りエドワルドの手を振り払った。
「ちょっ……やめてよ!そういうの!!」
「私は正直なだけだ」
「どこが!? 完全にからかってるでしょ!!」
「お前が可愛いのは事実だが?」
「もういい!! 僕は帰る!!」
カーティスは立ち上がろうとするが、その手首をエドワルドが軽く掴む。
「どこへ?」
「……え?」
「お前の部屋はここだが?」
カーティスは、ぱちくりと目を瞬かせた。
「……ここ?確かに今日はこっちに、とは聞いたけど……ここ?」
「そうだが?」
「え、僕の部屋、ちゃんと別にあるんじゃないの?」
「用意する必要があるか?」
エドワルドが至極当然のように言うので、カーティスは口を開けたまま固まった。
「……いや、でも、それは、ほら……婚約中だし、普通は別々で──ないなら官舎に……」
「普通とは?」
「普通は普通だよ!!」
カーティスが勢いよく言うと、エドワルドは満足げに笑った。
「では、お前の"普通"を少しずつ教えてもらおうか」
「~~~~っ!!!」
掴んだ手首を引いて、エドワルドはカーティスを腕の中に仕舞い込んだ。
自分よりも年下の婚約者はまるで小動物のようにこちらを睨んでいる。
こうして、カーティスはエドワルドに振り回される日々が始まったのだった。