カーティスがエドワルドの"可愛い"攻撃に悩まされるようになって、数日が経った。
初めは「からかわれている」と思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。
エドワルドは本気で「可愛い」と言っているのだ。
──それが逆に厄介だった。
今日もまた、カーティスはため息をついていた。
「ねえ、どうして僕に"可愛い"って言うの?」
エドワルドの執務室で、カーティスは向かい合って座っていた。
国王は書類を片手にしながら、ちらりと彼を見て微笑む。
「事実だからだ」
「いやいや、そんな単純な理由じゃなくて!」
「単純な理由だが?」
「…………」
真顔で即答されて、カーティスはぐぬぬと唸るしかない。
「僕、別に可愛くないし」
「お前がそう思うなら、それでもいい」
「なら言わないでよ!」
「だが私は可愛いと思う。だから言う。実際、お前の顔は可愛いぞ?皆も言ってるだろ?」
「~~~~っ!!」
カーティスは耳まで真っ赤になって、思わず頭を抱えた。
エドワルドはそんな彼を見て、ますます愉快そうに笑っている。
「それに、お前は"可愛い"と言われて怒るが、"美しい"と言えばどうなのだ?」
「え?」
カーティスは思わず顔を上げた。
エドワルドの瞳が真剣にカーティスを見つめている。
「お前は王妃としての気品もあり、美しさも兼ね備えている」
「…………」
「だが、私は"可愛い"と思うのだ」
「……それ、結局可愛いって言いたいだけじゃん……!」
カーティスは顔を覆った。
エドワルドはクスクスと笑いながら立ち上がると、カーティスの横に行きそっと彼の手を取る。
「まあ、そう拗ねるな」
「拗ねてない……!」
「……そういえば」
エドワルドはふと何かを思い出したように言う。
「お前、最初は打算的な理由から私の婚約者になったのだったな?」
「うん……そうだけど?」
「ならば、今はどうなのだ?」
「え?」
カーティスは一瞬、言葉に詰まった。
「今でも、それが理由なのか?」
エドワルドは静かに問いかける。
カーティスは目を伏せる。
「……そんなの、分からないよ」
「そうか」
エドワルドは、満足げに微笑んだ。
「いや、そうではないな。"分からないふりをしている"が正しいか」
「……っ」
カーティスはわずかに肩を震わせる。
彼の細い腰を引き寄せながら、座り、自分の膝の上に置く。
そして、彼の髪を優しく撫でながら、低く囁く。
「お前が言わなくても、分かるさ」
「……」
「お前がどうして王妃になる決断をしたのか。何を思ってこの場所にいるのか。……そして、何を守りたかったのか」
カーティスの指が、ぎゅっと服の裾を握る。
エドワルドはそれを見て、静かに微笑んだ。
「仕方のない奴だ」
「……っ」
「しかし、私はそんなお前が気に入った」
カーティスは驚いたように顔を上げた。
「え……?」
エドワルドは穏やかに微笑みながら、そっと彼の頬に触れた。
「これからも"お前のままで"いればいいさ」
「……っ」
「私が、お前の"今"も"これから"も、受け止めてやる」
その言葉に、カーティスは何も言えなくなった。
ただ、静かに目を閉じる。
「……もう、好きにすれば?」
「そうさせてもらう」
エドワルドは、カーティスの髪に口づけた。