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3:"可愛い"は止まらない

カーティスがエドワルドの"可愛い"攻撃に悩まされるようになって、数日が経った。

初めは「からかわれている」と思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。

エドワルドは本気で「可愛い」と言っているのだ。

──それが逆に厄介だった。

今日もまた、カーティスはため息をついていた。


「ねえ、どうして僕に"可愛い"って言うの?」


エドワルドの執務室で、カーティスは向かい合って座っていた。

国王は書類を片手にしながら、ちらりと彼を見て微笑む。


「事実だからだ」

「いやいや、そんな単純な理由じゃなくて!」

「単純な理由だが?」

「…………」


真顔で即答されて、カーティスはぐぬぬと唸るしかない。


「僕、別に可愛くないし」

「お前がそう思うなら、それでもいい」

「なら言わないでよ!」

「だが私は可愛いと思う。だから言う。実際、お前の顔は可愛いぞ?皆も言ってるだろ?」

「~~~~っ!!」


カーティスは耳まで真っ赤になって、思わず頭を抱えた。

エドワルドはそんな彼を見て、ますます愉快そうに笑っている。


「それに、お前は"可愛い"と言われて怒るが、"美しい"と言えばどうなのだ?」

「え?」


カーティスは思わず顔を上げた。

エドワルドの瞳が真剣にカーティスを見つめている。


「お前は王妃としての気品もあり、美しさも兼ね備えている」

「…………」

「だが、私は"可愛い"と思うのだ」

「……それ、結局可愛いって言いたいだけじゃん……!」


カーティスは顔を覆った。

エドワルドはクスクスと笑いながら立ち上がると、カーティスの横に行きそっと彼の手を取る。


「まあ、そう拗ねるな」

「拗ねてない……!」

「……そういえば」


エドワルドはふと何かを思い出したように言う。


「お前、最初は打算的な理由から私の婚約者になったのだったな?」

「うん……そうだけど?」

「ならば、今はどうなのだ?」

「え?」


カーティスは一瞬、言葉に詰まった。


「今でも、それが理由なのか?」


エドワルドは静かに問いかける。

カーティスは目を伏せる。


「……そんなの、分からないよ」

「そうか」


エドワルドは、満足げに微笑んだ。


「いや、そうではないな。"分からないふりをしている"が正しいか」

「……っ」


カーティスはわずかに肩を震わせる。

彼の細い腰を引き寄せながら、座り、自分の膝の上に置く。

そして、彼の髪を優しく撫でながら、低く囁く。


「お前が言わなくても、分かるさ」

「……」

「お前がどうして王妃になる決断をしたのか。何を思ってこの場所にいるのか。……そして、何を守りたかったのか」


カーティスの指が、ぎゅっと服の裾を握る。

エドワルドはそれを見て、静かに微笑んだ。


「仕方のない奴だ」

「……っ」

「しかし、私はそんなお前が気に入った」


カーティスは驚いたように顔を上げた。


「え……?」


エドワルドは穏やかに微笑みながら、そっと彼の頬に触れた。


「これからも"お前のままで"いればいいさ」

「……っ」

「私が、お前の"今"も"これから"も、受け止めてやる」


その言葉に、カーティスは何も言えなくなった。

ただ、静かに目を閉じる。


「……もう、好きにすれば?」

「そうさせてもらう」


エドワルドは、カーティスの髪に口づけた。

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