王宮の静寂が、夜の闇に包まれる。
祝宴は終わり、賑やかな笑い声や祝福の言葉も、今は遠い。
カーティスは、侍女に先導されつつ深夜の廊下を歩きながら、ゆっくりと息を吐いた。
(初夜、ね……)
王妃となった以上、避けられないものだと分かっている。
でも、やっぱり落ち着かない。
エドワルドは、いつも余裕そうにしているし、何を考えているのか分からない。
婚約期間中は"可愛い"だの何だのとからかわれるばかりで、"そういう雰囲気"になったことはなかった。
(……いや、本当に?)
思い返してみれば、あの男は確かに"それっぽい"ことを何度も言っていた気がする。
でも、全部"冗談"だと流してしまった。
──果たして、それは本当に冗談だったのか?
(……いや、違うな)
カーティスは額を押さえ、ため息をついた。
(僕が、"冗談"として処理してただけだ……)
王宮の長い廊下を進むと、やがて目の前にエドワルドの私室が見えてきた。
扉の前で、カーティスは立ち止まる。
(……この扉を開けたら、もう後戻りはできないんだよね)
今さら何を考えているんだ、と自分を叱咤する。
カーティス・ヴェルナー。
自分で決めた道だろう?
「失礼します、陛下。王妃様をお連れしました」
侍女がそう言いながら扉を開き、カーティスが通れるように身を引かせる。
カーティスは、軽く拳を握りしめ、意を決して足を踏み入れた。
中では、エドワルドがすでに待っていた。
「それでは失礼いたします。良い夜をお過ごしくださいませ」
侍女は静かに扉を閉めて去った。
「……遅かったな」
ベッドの横に立つ彼は、いつも通りの穏やかな微笑を浮かべていた。
エドワルドの近くまでいったものの、もう少しのところでカーティスは止まっていた。
「……いや、その……心の準備が」
カーティスは咄嗟に適当な言い訳を口にする。
エドワルドはじっとカーティスを見つめる。
「ふむ」
そして、ゆっくりと彼の方へ歩み寄る。
「ならば、今から準備させてやろう」
「えっ、ちょ、待──」
とっさに後ずさろうとした瞬間、エドワルドの腕がカーティスの腰を引き寄せた。
「逃げるのか?」
「べ、別に逃げてない!! ちょっと距離を──」
「ほう? では、お前の言う"準備"とは具体的に何を指す?」
「そ、それは……心構えとか、心の余裕とか……!」
「なるほど」
エドワルドはじっとカーティスを見下ろし、口元に笑みを浮かべた。
「では、お前が"心の余裕"を持てるよう、じっくりと手伝ってやるとしよう」
「……待って、その"じっくり"ってどういう……」
「言葉通りの意味だ」
「っ……!」
カーティスは思わず息を呑む。
エドワルドは、まるで逃げ道を塞ぐように、さらに距離を詰めてくる。
「……やっぱり今日は疲れてるし、明日にしよう……?」
「それは却下だ」
「えっ!? 却下って何!?」
「初夜は今夜だ。これは王宮の決まりだ」
「そ、そんな決まり聞いたことない!!」
「私が決めた」
「王が勝手にルール作るのやめて!!!」
カーティスが必死に抗議するが、エドワルドは楽しそうに微笑むばかりだった。
「……そんなに怖いのか?」
「べ、別に怖くなんか──」
カーティスが言いかけた瞬間、エドワルドが優しく彼の頬に触れた。
「なら、心配するな」
「……っ」
「お前の"可愛い"すべてを、じっくりと味わうだけだ」
「~~~~っ!!!」
※
「む、無理無理無理……!そんなの、はいんない……!」
カーティスはシーツを手繰り寄せながら、エドワルドから後ずさる。
優しい手つきで始まった初夜は、カーティスに知らなかった愉悦を与えて蕩かした。
が、エドワルドの屹立したそれを見た途端に、一気に熱が冷めた。
自分も身体の構造的には同じものを持っている。
だから、今更それを見たところで驚きはない。けれど、エドワルドのものは自分のものと比べてもあまりにも狂暴な様だった。
(そりゃ体格も違うよ!違うけど……!怖い怖い怖い!無理無理無理!)
エドワルドとカーティスは頭一つ一寸の背丈差がある。
体格だって、文官であったカーティスに比べるとエドワルドの体躯はしっかりとしていて、男らしい。
(もうあれ、凶器だよ……!ええ……じゃあエリアスも似たような……いやいやいや、何を考えているんだ僕は)
頭の中は意味が分からないほどに色々と浮かんでは消えた。
エドワルドは小さく笑いながら、カーティスの足首を掴む。
「ひっ、ちょ……!」
「よしよし、わかった……気持ち良いことしかしないから、おいで」
そのままカーティスを引き寄せて、細い腰を持つと、体勢を返させた。
いとも容易くカーティスは四つん這いにさせられる。
「え、あっ……やだっ……この恰好……!」
この格好だと、とにかく丸見えなのだ。
羞恥に声をあげたが、エドワルドは譲る気はないようで、カーティスの腰を強く掴む。
「足を閉じろ、カーティス」
「ふぇ?」
「ほら、足をぴったりと」
片方の手でカーティスを太ももを撫でつつ、背中越しにそうエドワルドが言う。
訳も分からないままカーティスは足を言われるままにぴったりと閉じた。
瞬間、ぬるん、と固いものが菊口から会陰にかけて入り込んできた。
思わぬ感触に、カーティスの身体が大きく飛び跳ねる。
「ひぁ、んっ……やだ、なに……っ」
「いいから。ほら、カーティス……感じてみろ」
更にその屈強な棒がカーティスのものの裏筋をつるりと撫でた。
「ふぁ……っ」
そして、同じ場所を何度も何度も固いもので扱かれて、冷めたはずの熱が上げられていく。
ぱん、と尻肉にエドワルドの身体があたる。
音も耳を犯すもので、思考がどんどんと欲望の海に浸かっていくようだった。
「あ、あ、あ、あっ……やだぁ……」
擦れる部分が、エドワルドの先走りでヌルついている。
カーティスの口からは小さく喘ぎ声が漏れ出していた。
「ああ、可愛いな……お前は本当に……」
エドワルドが腰を揺らしながらも身を屈めて肩や項に繰り返しキスを落とした。
それもカーティスの熱を高めていく材料だ。
そうした中で、不意にエドワルドの親指が先ほどまで、散々と鳴らした入口に触れる。
「んあっ……だめ、へいか……っ」
ぐずるようにカーティスは首を振ったが、そのままエドワルドは指をつぷりと肉の中に埋めた。浅いところでかき混ぜるように動かすと、淡い色の襞が指の動きに従って拡がる。
「あうぅ……やあ、まって、まって……っ」
カーティスはシーツに押し付けるように頭を落す。
すると自然と腰が上がってしまい、まるで強請るような仕草になったが、本人は気付く暇もない。
エドワルドは愛らしく鳴く新妻にほくそ笑むと、指を抜いた。
前後に動かしている腰のタイミングを合わせて、まだ閉じ切っていない入口に自身の切っ先を宛て、勢いでぐぷり、と亀頭までをも突っ込む。
「ひあああっ!」
甘く切なげな叫び声がカーティスから上がり、背中を僅かにしならせた。
(入って、はいって……!)
エドワルドが一度動きを止めて、受け入れている入口を指先で撫でた。
「どこもかしこも……可愛いな……カーティス?」
ぐん、とエドワルドが腰を突き出すとまた剛直が中へと埋まった。
当たり前だが、そんなもの受け入れるのは初めてだ。
凄まじい圧迫感と、違和感。そして──少しの快感。それらが全部入り混じってカーティスの身体を侵食していく。
「かわいくなんか……っ、あんっ……」
さっきまであった恐怖感はとっくになくなっていた。
少しずつ少しずつ、でも確実に、エドワルドのものが入り込んでいく。
(陛下と一つになってる……何これ……)
カーティスは苦しさが混じる中でも不思議な感覚に包まれていた。
エドワルドがカーティスの背中をゆるりと撫でていく。
「夢中になってしまいそうだな……お前には」
そう呟きながら、また中へと進んでいく。
──長い夜が始まった。
※
翌朝。
カーティスは、エドワルドの腕の中で目を覚ました。
(…………あさ……)
身じろぎをすると身体の節々が痛い。
まあ、そうなるだろうとは思っていたが……。
うう、と小さな呻きを上げながら、無意識にカーティスは頭をエドワルドの肩に擦り付ける。
(まさか、あんな……すごかったぁ……)
思い出しただけで、顔が熱くなる。
そんなカーティスを見ながら、エドワルドがクスクスと笑う。
「随分と可愛い仕草をするな?」
「……笑わないで」
「可愛いなと思ってな」
「……も、もうその言葉やめてってば!!」
「では、可愛い以外でどう表現すればいい?」
「そんなの、僕が知るか……!!」
カーティスはむくれて、そっぽを向いた。
「カーティス?起きないのか」
「……身体、きついもん。……寝る。陛下も寝てよ。僕の枕でしょ」
エドワルドは、カーティスを見つめながら、ふっと笑った。
「国王を枕よばわりとは……仕方のない奴だ」
そう呟くと、静かにカーティスを抱き寄せた。
(終)