警備隊本部で教えられたゴブリンの巣の近くに来た。
ここから山を登り十分とかからない場所にあるはずだ。
馬と野営用具は置いて徒歩で移動する。
青く生い茂る木々の中、人が踏みしめたであろう細い道を隊列を組み、歩いていく。
遠くに鳥の鳴き声を聞きながら、一歩一歩進むにつれ、額の汗と緊張感が増す。
途中でゴブリンたちに遭遇するかもしれない中、全員で周りに気を配りながら巣の入口に近づいていく。
アレックスが手で止まれの合図をする。
どうやら洞窟の入口を発見したようだ。二匹のゴブリンと共に。
見張りか。
緑色の肌を持ったおそらく俺の腰ほどの身長のゴブリンはヒマそうに座りこんでいる。
事前の打ち合わせではゴブリンは夜行性で暗闇を好む性質と聞いていた。
おそらく主力は中にいるのだろう。
アレックスが俺、レイティア、ソフィアとレンに準備するように合図を送る。
俺とレンが左、レイティアとソフィアが右を狙い矢を一斉に放つ。
当たったかどうか確認せず、俺は次の矢をセットする。
リタ、ランそしてムサシマルが刺さった矢を抜こうともがくゴブリンとの距離を一気に詰める。
一刀両断。
見張り二匹は声を上げる間もなく絶命する。
俺たちはむやみに洞窟の中に突入せず、入口に一旦集結する。
先頭に立つアレックスが中を覗き、手でOKマークを作った。
アレックスの合図でランとリタが洞窟に入る。
続けてアレックス、ムサシマル。そのあとに俺とソフィアで殿(しんがり)にレンとレイティアが入る。
中に入ると三~四人は一度に入れる広さの通路になっていた。
ところどころ、岩やレンガそれに木材で補強され、自然にできたものに人が拡張したもののようだ。
先行して進むランが手でアレックスを呼ぶ。
通路の脇に穴があいている。その先は部屋になっているようで、何やら声が聞こえる。
ランはアレックスに小指だけを立てて見せる。中に部屋の中に六人いるという合図だ。
アレックスは突入する人員を指さす。
俺とレンが部屋の外で見張りに残り、それ以外が全て部屋に突入する。
「バイブレーション!」
「ストップ!」
「エアスラッシュ!」
「ファイアアロー!」
「サンダー!」
「虎振!」
一、二分もしないうちにアレックスたちは部屋から出てきた。
「どうやら見張り部屋のようだ。奥に急ごう」
奥へと移動する前に部屋の中を覗くと部屋の中は六体の緑の肌の肉塊と血の海がそこにはあった。
「案内役に生け捕りにしないのか?」
「こいつらは基本嘘しか言わない。生かしておいても混乱を招くだけだ」
少し進むと左右の分かれ道に当る。右の通路が大きく開けている。
「分かれるか?」
「いや精鋭隊が逃げ帰ったダンジョンだ。兵力は分散できない」
「アレックス様。右に多数の人間が出入りした痕跡があります」
周りを調べていたランが報告した。
「右に行こう」
アレックスの指示で一同、奥に進む。
また分かれ道が出てきた。同じように人の気配のする方へ進む。
いくつもの分かれ道を奥へ奥へと進む。
かなり広いダンジョンのようだが、さすがは警備隊だ。痕跡を探しながらどんどんと進んでいく。
一人が出入りできる大きさの穴が多くあるところにでた。
その穴は通路の左右に均等に開けられていた。
中をのぞくと床にほこりや食べかすなどの汚れが見え、それを気にすることなくゴブリンが床に転がって眠っていた。
一つの穴に十人ほど眠っており、左右合わせて十以上の穴すべてに同じようにいるとなると、百人以上のゴブリンがここにいることになる。
俺たちはゴブリンを起こさないように慎重に奥へと進む。
さすがにゴブリン一匹一匹がそれほど強くないとはいえこの大軍を相手にしてられない。
そもそもアリシアさん達先行隊はゴブリンの殲滅のはずなのにまだこんなに残っているのか?
俺たちが先を進むと水が流れる音が聞こえてくる。これまでは人が掘り進めたよう所から鍾乳洞のようなところに出た。
通路の右下から水の音が聞こえてくる。その音の大きさからさほど流れは速くなさそうだが、松明で下を照らしても底が見えない。落ちると自力では上ってこれそうにない高さのようだ。
「足元滑るから気を付けて」
レイティアが俺に注意する。
湿気が多く、天井からしたたり落ちる水で足元は濡れ、気を付けないと滑って転びそうだ。
俺は足元を見ながら歩いていると、前の方で声が聞こえた。
「下がれ、ゴブリンだ」
出会い頭だった。岩の陰から四人ほどのゴブリンが出てきた。
既に剣が触れ合える距離。
魔法を使うにしても距離がいる。
アレックスが不意に後ろに下がる。つられて俺も後ろに下がる。
「きゃ!」
後ろを振り向くと俺がぶつかってしまった拍子にレイティアが足を滑らせた。
水の音が聞こえる暗闇の方へ倒れこむ姿がスローモーションのように俺の瞳に映る。
「レイティア!」
反射的に俺は手を伸ばし、レイティアの手をつかんだ。
そして二人とも暗闇の中へ落ちていってしまった。