「レイティア、周りが安全である事を伝えて欲しい。ただしアリシアさんはそれが敵の罠だと勘違いしてしまう可能がある。君とアリシアさんしか知らない話をしてその言葉が真実だと示して欲しい」
「わかったわ」
「ソフィアはレイティアの言葉を振動にしてアリシアに送ってくれ」
「わかりました。ただし少し練習の時間をください」
レイティアがアリシアに伝える言葉を考えている間、俺とソフィアは魔法の練習をする。
他の者は食事を取ったり、休憩をとる。双子はここぞとばかりにアレックスとべったりくっついていた。
「よし、ソフィア。これで大丈夫だ。さすがだ」
練習は思いのほか順調に進み、言葉を振動に変換することが可能になった。
俺はソフィアの頭をなでてやる。
「ひゃ! ありがとうございます」
ソフィアは真っ赤になった顔を両手で隠す。
「レイティアの方は準備はいいか?」
レイティアは心を決めたようにきりりとした顔で大きく頷く。
ソフィアはアリシア像のアゴあたりに片手を当てて、レイティアの口の前にもう片手をかざした。
ソフィアは俺を見て、合図を待つ。
俺はレイティアを見て頷く。
「バイブレーション!」
レイティアは大きく深呼吸をした。
「お姉ちゃん。レイティアです。助けに来たよ。八年前にお母さんとお父さんが亡くなって、お姉ちゃん約束してくれたよね。姉妹助け合って生きて行こうって。いつもわたし、お姉ちゃんに助けてもらってばかりだったけど、約束通り助けに来たよ。リタやアレックス、レン、ラン、ユリさんにお姉ちゃんの知らないムサシマルにソフィアさん。それからわたしの恋人のキヨも一緒に助けに来てくれたわよ。だからお願い! 魔法を解いて!」
どうだ?
どのくらい時間が経っただろうか? 張り詰めた時間が過ぎる。
「お姉ちゃん!」
アリシア像にヒビが入りまぶしい光を放ち、俺たちの目を眩ませる。
光が収まるとアリシアは生身の肉体になっていた。
「レイティア! 本当にレイティアなのね」
「お姉ちゃん」
レイティアはアリシアに抱きついた。大粒の涙を流しながら。
やっと姉妹は再会を果たした。
「アリシア姉さん、動けますか? まだここは敵地です。まずは脱出を最優先に考えたいのですが……」
アレックスはマナ石と回復薬をアリシアに渡す。
レイティアと同じ金髪を後ろ手にまとめながら、アリシアはアレックスに答える。
「ありがとう、アレックス。大丈夫よ。すぐ脱出しましょう。詳しい話はあとから聞くわ。レイティアの恋人の話とかね」
その青い瞳は俺を一瞬見る。
ん、殺気を感じる。
俺たちはアリシアとユリを先頭に出口を急ぐ。要所要所でユリのウンディーネで索敵しながら進む様子は、さすが警備隊のトップチームと感心してしまう。
あっという間にゴブリン達が眠っている部屋に面した通路に差し掛かった。ここを抜けると出口はすぐのはずだ。
ガシャン!
ゴブリンリーダーが盛大に転んだ。
やりやがった!
部屋が騒がしくなる。ゴブリン達が気がついた!
アレックスはゴブリンリーダーを肩に担ぐと叫んだ。
「このまま突っ切るぞ!」
俺たちは外に向かった一目散に走った。
叫び声なのか足音なのかよくわからないが後ろから迫る音に押されながら息を切らせて走る。
外飛び出ると周りはもう暗くなっていた。
俺たちは外に出た勢いのまま、馬を止めているところに急ぐ。
「はぁ、はぁ、このまま馬で走れるのか?」
「やるしかないだろう」
アレックスがウインクしながら答えたが、厳しいとわかっているのだろう。
「レイティア! はぁ、はぁ、ファイアボムは……どれくらい打てる?」
いくらレイティアのファイアボムが強力でもせいぜい一発で十匹程度だろう。
「え、ニ回は打てるけど、そのあとはマナ石使っても時間がかかるわ」
百匹単位のゴブリンを倒すとすると災害級の魔法が必要か?
災害!?
「アレックス!」
俺はアレックスに確認を取った。
「たぶん大丈夫だ。やってみる」