神社を後にして階段を下っていると、瑞樹がつぶやいた。それは、和歌だった。
人知れぬ 因習に囚われし 運命を
誰か嘆かむ 山の奥里
即興にしては、うまくできている。瑞樹の教養の深さが伝わってくる。
「次は噂の見張り台に行くか」
「賛成です。島民の遺体の共通点は謎のブツブツです。もし共通点が見つかれば、儀式を止める手段が見つかるかもしれません」
瑞樹もこくりと頷く。
「それで、見張り台は遠いのか?」
「遠いですね。桟橋の真反対にあるので」
どうやら島をぐるっと半周することになりそうだ。それはそれで、ありだろう。何か新しい発見があるかもしれない。
階段を下り終えると、そこにいたのは
「瑞樹が二人? おい、これはどういうことだ?」
「加賀さん、落ち着いてください。瑞樹は双子なんです」
パニックに陥っていた頭が蓮の言葉で冷静さを取り戻してきた。タネが分かれば、どうってことはない。
「最初に言ってくれよ、瑞樹が双子だって。で、どっちが姉なんだ?」
「私よ。まあ、双子だから、そこまで気にしてないけれど」
「しかし、これじゃあ話さない限り見分けがつかないぞ。島民なら分かるんだろうが」
瑞樹の妹が髪をかきあげると、ピアスが光輝いていた。
「妹の愛は常にピアスをつけてます。だから、見分けがつかないときは耳をみてください」
瑞樹は「それを見なくても、見分けがついて欲しいんですが」と付け加える。
ピアス以外で見分けがつくのは、動作だろう。瑞樹はサッパリとしているのに対して、愛はおっとりと、かつ上品な振る舞いをしている。
「なるほどね。それで、愛さんは何故ここに?」
「少し前に蓮から聞いたんです。『因習を止めてくれる救世主が来る』って」
救世主は盛りすぎだろ。蓮を見るとニヤついている。こいつ、わざと誇張したな。
「実は、加賀さんにお伝えしたいことがあって。過去に調査した人は命を落としました。でも、その方が因習に関わる何かを見つけて、島のどこかに隠したらしいのです」
「本当か!?」
もし事実ならありがたい。島に来てから、手がかりが掴めずにいた。しかし、隠し場所が分からないのには参った。
「噂が確かなら、地蔵に隠されているそうです」
「地蔵? そこまで分かってるなら、問題ないだろ」
蓮は「そう簡単にはいかないんです」と、肩をすくめる。
「どういうことだ? 地蔵のあちこちを調べれば済む話だろ?」
「違います。島には八十八の地蔵があります。四国のように」
愛は申し訳なさそうに告げる。
八十八! そんなにあるとは思いもしなかった。せいぜい二、三体じゃないのか?
「地蔵は海沿いに並んでいます。見張り台を目指しつつ、道沿いの地蔵を回りましょう。何か手がかりが見つかるかもしれません」
蓮の言う通りだな。行動あるのみ。だが、嫌な予感がする。そう、俺も過去に調査した人と同じ運命を辿りそうな予感が。