「それにしても、あの階段に
神社へ向かって竹林抜ける。
「そうなんだ、僕も理由を知らなくて」
蓮が申し訳なさそうに言う。
「まあ、気にすんな。誰にだって知らないことはある」
トントンと肩を叩く。
別名からしてイザナミに関係がある可能性が高い。しかし、なぜ神社へ至る道の名前になったのか。
「そういえば、坂の別名の話になった時、母さんがこんなことを言ったんだ。『私は三人目の子供を産めない』って」
「……? お前の母親は病気がちなのか?」
「いや、逆だよ。元気なタイプ。だから、僕もよく分からないんだ。でも、あの時の顔は深刻だった。なんなら、母さんに会ってみる? 坂に行くだけじゃあ、夜まで時間がもったいないから」
俺は「そうしよう」とだけ言うと、思考の海に沈む。
なぜ、坂の話になった時に、子供の話になるんだ? 二つの共通点は何なんだ? 分からないことだらけだ。
しばらくすると、神社のある小山が見えてくる。
「ここで待っていて。母さん呼んでくるよ」
「その必要はないだろ。あとは階段を上がるだけだ」
「加賀さん、違うの。
俺は瑞樹の補足でますます混乱した。
「もう少し正確に言うなら、母さんは父さんたちの前では喋りにくいんだ。儀式に反対の立場だから」
それなら納得がいく。そうなると、小鳥遊一族は一枚岩ではないことになる。儀式推進派の祖父、父、兄。反対派の母、そして蓮。蓮の母親から新しい情報を引き出せれば、大きく前進する。
「そうだ、僕が戻ってくるまで、そこにある石碑を調べるといいかも」
蓮が階段を上がっていくのを見送ると、石碑の観察を始める。正面から見ると神社の名前が書いてあるだけだが、側面には「黄泉比良坂」と記されている。何かのヒントになるかもしれない。パシャリとカメラで撮影する。
「加賀さん、母さんを連れてきたよ!」
蓮の母親、玲子は色白で上品さが溢れ出ていた。
「こんにちは、加賀さん。息子のわがままに付き合わせてごめんなさいね。でも、私もこの島の因習はなくなるべきだと思うの」
「因習をなくすのが俺の仕事ですから」
そう、因習をなくして経緯を配信する。それによって、視聴者たちが「自分の周りの風習はおかしいのでは?」と気づくきっかけを与えるのが俺の仕事だ。
「さっそく本題に入らせてください。あなたは『三人目の子供は産めない』と言いましたね。何か理由があるんでしょう? ここの因習と」
玲子は少し
もちろん、口外するつもりはない。
「蓮から、ここの階段の別名について聞いたそうね。イザナミと関係があるわ。そして、
イザナミといえば、カグツチを産んだ時に火傷で死んだはずだ。つまり、小鳥遊一族の話はイザナミと密接な関係があることが
「これだけだと、分かりにくいわね。どうして、この話を知ることになったのか、語ってあげましよう」