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第14話 迫り来る影

「しかし、夜になるまで待つって暇だなぁ」


「蓮、そう焦るな。『急いては事を仕損じる』だ。神経を張り詰めてばかりじゃ、おかしくなってしまう。どうだ、ここらで休憩でも」


 実際、俺も前日の疲れと悪夢によって万全とは言えない。夜に見張り台で過ごすのだから、体力は温存すべきだろう。


「あの、一つお願いしてもいいでしょうか」


 玲子がそろそろと手を挙げる。


「俺ができることなら、なんでも」


「記念撮影をしたいの」


 玲子さんの言葉の意味が分からない。記念撮影? このタイミングで?


 俺に意図が伝わっていないと気づいたらしく、慌てて付け加える。


「蓮から聞いたと思うけれど、境内の中では写真を撮ってはならないでしょう? だから、うちにはカメラがないの」


 なるほど、そういう理由か。カメラを持つことさえ禁じるとは、重道・和彦親子は徹底している。


「私も賛成です。せっかく加賀さんが来たのですから、思い出を残したいです。そして、因習がなくなった時は堂々と言いたいんです。『この方が因習をなくしたの』と」


 愛がそんな風に考えていたのは意外だった。


「でも、誰かがシャッターを押す必要がある。どうする?」


「じゃあ、こうしましょう。私と愛が交互にカメラマンになるわ。私たちが一緒じゃ、どっちがどっちか分からないでしょ?」


 思わず「ピアスで分かる」と言いかけたが、瑞樹がそれで見分けるのに不服を示していたのを思い出した。


「まずは私が撮るわ。そうね、みんなは石碑の隣に並んで。それがあれば、どこで撮ったか分かりやすいわ。何かないと、この島らしさがないもの」


 なるほど、いい提案だ。


「もっと近づいてー。ちょっと、蓮! 愛に近づきすぎ! 加賀さん、少しかがんで。背が高いから、はみ出しちゃうわ」


 注文の多いカメラマンだ。


「いくよー、はいチーズ!」


 ……? あれ、カメラからシャッター音が聞こえない。壊れたのか?


「加賀さん、なんかおかしいわ」


「ちょっと待ってろ。……? どこもおかしくないぞ?」


 俺がそう言うと、瑞樹はぺろっと舌を出す。わざと故障したフリをしたな。


「まったく、いたずら好きだな」


 みんなの所に戻りかけると、パシャリと音が響き渡る。くそ、このタイミングで撮るか!


「くすくす、面白い写真になりそうですね」


 愛の言葉に釣られてみんなが笑いだす。


 なるほど、瑞樹の狙いは自然な笑顔を引き出すためか。策士だな。


「さて、本番よ!」


 瑞樹は写真を撮り終えると駆け寄ってきて、「これ、いい写真じゃない?」と自慢げだ。


「撮った本人がそれを言うのか」


 まあ、出来がいいのは認めるけれども。


「この調子でいくわよ!」


~~


「さて、写真は撮り終わったし、そろそろ旅館に戻るぞ」


 気が緩みすぎるのも問題だ。


「そうね、そうしましょ。玲子さん、ありがとうございました」


 瑞樹が一礼すると「お役に立ててなによりよ」と、玲子が返す。


 玲子を見送りながら、ふと思った。みんなの笑顔を守るためにも因習をなくさなくてはならないと。


「それで、見張り台で一夜を過ごすってことですが、どんな対策があるんですか? 聞かせてくださいよ」


 蓮には「まさか、死ぬような事態になるのでは?」という心配があるらしい。


「それを話すわけにはいかない。話すのは簡単だが、それだと意味がない。大丈夫、誰も死にはしない」


 しゃべってしまえば、見張り台で過ごす意味がなくなりかねない。俺だけが知っていればいい。それに、完全に信用するわけにはいかない。特に小鳥遊一族の蓮は。


 俺は他の村でも裏切られてきた。この島でも裏切られないとは限らない。そして、最悪の場合は……裏切られたことに気づかず、あの世に行ってしまうかもしれないのだから。

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