夜風に吹かれて歩いていると、見張り台がすぐそばに見えてきた。あそこが「一夜過ごすと死ぬ」という噂がある場所。大丈夫、俺の考えた作戦ならうまくいく。
「本当に大丈夫なんですか? こんな場所で一夜を過ごして」
「蓮、心配しすぎよ。加賀さんのことだから、ちゃんと考えがあるのよ」
バシーンと音が響く。
「痛いよ、瑞樹!」
「あんたが悪いんでしょ。因習バスターの加賀さんに任せなさい」
変なあだ名をつけられてしまった。
「夜なので厚着をしてきましたが、さすがに冷えますね」
「そうだな。風邪をひくなよ」
横を歩く愛に声をかける。俺たちの中で一番体が弱そうだから心配だ。
「ほら、これ貸すよ」
俺は羽織っていた上着を愛の肩にかける。
「加賀さん、ありがとうございます。優しいんですね」
愛の上目遣いにくらっとしてしまう。
「そうかな。当たり前のことをしただけだ」
実際、誰であろうと同じ行動をとっただろう。
「あの、私思うんです。」
「加賀さん、もしかして愛をたぶらかしてないですか?」と瑞樹。
瑞樹はふと笑うと「冗談ですよ」と言うが、本当のところは分からない。姉として妹を心配するのは当たり前だろう。
「見張り台に到着したんだ、一夜を過ごす準備をしようじゃないか」
そう言って話を逸らす。
「でも、準備することないですよね? 寒さをしのぐために焚火を焚くくらいで」
蓮の言う通りで、考えた作戦では特別なことは必要ない。一夜を過ごす、ただそれだけだ。だが、効果は絶大だ。
四人で手分けして木を集めていると、何かが明るく光っている。ぼんやりとではなく、しっかりとした明かりで何かの形をしている。
それは――頭蓋骨だった。
「きゃああああ」
瑞樹の悲鳴が闇夜に響きわたり、静寂を切り裂く。ドスンという音を立てて蓮は腰を抜かし、愛は手で口をふさいでいる。
驚きのあまり、懐中電灯を落としてしまった。そして、拾い上げようとした時だった。二つ目の頭蓋骨を見つけたのは。
「蓮……。ここは、墓場なのか?」
「いいえ、違います。もしかして、過去の犠牲者では?」
「いや、違うな。これを見ろ」
ライトに照らし出された頭蓋骨の付近には破れた服が落ちている。パッと見は制服のように見える。学生のものではなく、軍隊の。風化の具合からして、最近のものではない。かなり古い。落ちている階級章を観察すると、旧海軍のもののようだ。なぜ、こんなところに?
周りを見ると、蛍光塗料で塗られた頭蓋骨は全体で四個。その時、頭の中で一つの可能性に思い当たった。
「どうしたんですか、加賀さん」
「これだよ、これ」
近くに置かれた地蔵を指さす。この地蔵の前掛けには「我、五人目の犠牲者なり」と書かれていた。ここにあるのは四つの頭蓋骨。もし、俺の考えに間違えがなければ、この二つは関係性があるはずだ。
じっくりと地蔵を観察すると、後ろに重そうな鉄板がはめ込まれている。これが何かのカギなのか?
よく見ると、地蔵についた鉄板の錆び跡と鉄板は微妙にずれている。つまり、誰かが動かしたことになる。それも、そう遠くない時期に。
「手伝ってくれ! さすがに一人では持てそうにない」
蓮の手を借りて鉄板を動かそうとした時だった。
「こら、お前たち! 何をしている!」
それは、
「やはり、来ましたね。三枝さん」
「やはり? 加賀さん、どういうことですか?」
「昼に来た時、彼はすぐに忠告しに来た。ということは、常に見張っていると考えるのが自然だ。だから、あえて一夜を過ごそうとしたんだよ。三枝さんを確実に誘き寄せるために」
三枝さんは「やられた」という悔しげな表情だ。
「なるほど、つまり最初から一夜を過ごすつもりはなかったんですね」
瑞樹の言葉に力強く頷く。
「さて、話してもらいましょうか。なぜ、あなたが見張り台を監視しているのかを」