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第16話 因習の真相

「くそ、まんまとめられたわけか」


「まあ、落ち着いてください。あなたに悪意がないことは分かっています。俺たちがここで過ごすのを放っておかなかったのですから」


 そう、三枝さんはここが危険だと知っている。そして、被害者を増やすまいと日夜見張っていたのだ。


「さて、教えてください。なぜ、ここで一夜過ごすと死に至るのか」


 三枝老人は言うべきか迷った様子だったが、言わなければ俺らが立ち去らないと考えたらしい。渋々といった口調で語りだした。


「この見張り台は、旧日本海軍が使っていたものだ。それも戦時中に」


「え、そうだったんですか!?」


「蓮、話を遮るな。続けてください」


 ごほん、と咳払いすると「お前さんが知らなくて当然だ」と続けた。


「この島には軍事施設があった。そのことを知っている者は、おそらく自分だけだろう。なにせ、古い話だからな。そして、その施設はこの下にある」


 杖で叩くと、金属音がする。おかしい。そこには草が生えているだけだ。金属製のものは見当たらない。もしかして――


「これですね、カギを握るのは」


 トントンと地蔵の頭を叩く。


「そこまで突き止めたか。だが、どうすれば開くかまでは分かるまい」


 推測通りなら、地蔵についている鉄板を外せば扉が現れるに違いない。思い切り蹴とばすと、ガタンという音と共に鉄板が外れる。


「なんと罰当たりな!」


 三枝老人の言葉を無視して観察していると、ゴゴゴゴと音を立てて地面が動き出す。


 重量感知式だったか。鉄板の重さからして、外れると地蔵の重さが人一人分の重さになるのだろう。それなら、「我、五人目の犠牲者なり」という言葉と合致する。


 地面の揺れが落ち着くと、そこには鉄扉が現れた。錆がひどいが、扉に猛毒注意のマークが見て取れる。


「なるほど、毒が漏れ出して死に至る。それが真相ですか」


「でも、おかしくない? 昼も毒が漏れ出ていなくちゃ」


「昼もかすかに漏れてはいる。だが、潮風で分散する。ここの地形は、夜になると風が吹き込まなくなる。だから、一夜を過ごすのが危険なのだ」


「あなたは、この前にさとるさんが一夜を過ごそうとした時も止めようとしたのでしょう?」


 三枝老人のことだ、そうしたに違いない。


「まあな。だが、あの男は去ろうとしなかった。『この施設を壊さなくては、島民が危険だ』と言ってな。あいつは、正義感が強すぎた……」


 その結果、命を落とし、「舟流し」された。だが、何かがおかしい。待てよ、ここまで分かっていて、なんで施設を壊せなかったんだ?


「これだよ、これ」


 どうやら、俺の表情から悟ったらしい。三枝老人は鉄扉の錠を指さす。


「つまり、中に入る手段は分からないわけですか。それもそうか。もし、分かっていれば既にあなたが壊したはずだ」


 しばらくの間、沈黙があたりを支配する。


「……おかしい、ここで亡くなった人は毒が原因だ。だから、奇妙なブツブツが肌に浮き出てきた。それなら、『火送り』の儀式で亡くなった人にも、それがあるということは――誰かが毒殺した、そういうことか」


 この施設を使っている者が今も島のどこかにいる。それは誰なんだ? 儀式の日になれば、瑞樹は殺される。この施設で悪魔によって。それだけは避けなければならない。しかし、タイムリミットは迫っている。儀式当日まで残り一日。

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