「いいか、今後は何があっても見張り台に近寄ってはならん」
三枝老人の別れ際の言葉だった。
そう言われても困ってしまう。密かにあそこを使っている人物がいるのなら、見張って捕まえるのが手っ取り早い。
「加賀さん、お客さんですよ」
「突然来てしまい、すみません。でも、聞きたいことがあって」
「どうぞ、お座りください」
二人は座布団に座ると、困惑したように見つめあう。
何がそうさせているんだ?
「加賀さん、正直に教えてください。明日が儀式当日ですが、因習を止められるのですか? もし、できなければ――瑞樹が死ぬことになります」
隠してもどうにもならない。
「正直に言いますと、あと一歩というところです。儀式当日に死ぬ人と見張り台で死ぬ人の共通点は分かりました。ですが、それから先はまだなんとも。下手人が分からず手詰まりです」
「はあ、やはりそうですか」
「お二人は、見張り台の近くで誰かを見たことはありませんか? 三枝さん以外で」
「いつも、あの人がいるから誰も近寄らないはずだけど……」
やはり、そう簡単にはいかないか。
「
瑠璃さんの頬が赤く染まった。照れているのか?
「それはいつですか? どんな人か分かればそれも」
「そうね、今から一か月くらい前かしら。ねえ、
「そうだったと思う。誰かと言われても、遠くから見たからなぁ。ほら、見張り台の近くに花畑があっただろう。そこから見たんだ」
花畑から見張り台までは数百メートルはある。誰だか分かるはずがない。これでは、儀式までに犯人を突き止めることはできそうにない。くそ、あと一歩まできているのに!
「一つ言えるのは、独特の服装だったことね。和服だったわ」
もし、それが本当なら小鳥遊一族以外に考えられない。島の長の
証言が正しければ、この四人の中に血の通っていない悪魔がいる。
動機から絞ることはできないか? 犯人は、なんとしてでも儀式当日に死者を出したがっている。何か理由があるはずだ。ダメだ、あと一歩なのに!
「この様子だと、今日中に止められそうにないわね。瑞樹には荷造りするように言うわ」
「そうすることをお勧めします。お力になれずすみません」
「いや、加賀さんが謝る必要はない。儀式が終わった後にじっくり犯人を捕まえればいい。我々はこの辺で失礼するよ」
結局、犯人までたどり着けなかった。確かに儀式の後にじっくり調べればいいかもしれない。だが、嫌な予感がした。俺の背後に死神が迫っているような嫌な予感が。