真っ赤に染まった部屋。赤、赤、赤。
俺は異常な光景に身動きがとれなくなった。しかし、一瞬で我に返り瑞樹に近寄る。出血がひどく、このままでは死んでしまう。止血すべく、頸動脈をおさえる。くそ、止まってくれ!
「そんな! 瑞樹が……!」
「蓮、近くにある布を持ってきてくれ! 血を止めるにはハンカチよりも分厚い布が必要だ!」
蓮は勢いよく走り去る。
瑞樹の口元を見ると、必死に何か言おうとしている。
「瑞樹、無理をするな。今助けるからな!」
しかし、俺の励ましは無駄に終わった。
瑞樹の口から息がなくなった。
「そんな……」
命がけで守ると誓ったのに、失敗に終わってしまった。
呆然としていると、次々と人がやってくる。誰がどの順番で来たのかは分からない。いや、そんなのはどうでもいい。瑞樹が死んだ、それだけが事実だ。
「瑞樹!」
瑞樹の母、瑠璃が遺体に抱きつく。
「それは、違う」
それは、弘道のものだった。
「それは、愛だ」
「そんなバカな! お前はやっぱり狂ってる!」
蓮の言うとおり、服からして瑞樹に間違いはない。
だが、弘道を見ると、「自分の考えに間違いはない」という自信を感じる。なぜだ? どうして、そう言いきれる?
次の瞬間、瑞樹の髪がはらりとめくれると、耳が露わになる。そこには、ピアスがあった。ピアス? それが意味することは一つ。この遺体は、愛のものだということだ。
なぜ、愛が瑞樹の服を着ているんだ?
そんな俺の考えは、弘道の叫びによってかき消された。
「そんな……。儀式が失敗した。神託が外れた。そんなことは、あってはならない。これは、何かの間違いだ!」
次の瞬間、勢いよく誰かが部屋に駆け込んできた。それは、瑞樹だった。状況を把握するなり、弘道に一発食らわせる。
弘道は壁にぶつかるが、ぶつぶつと呟くだけで、なんの反応もしない。
愛が弘道によって殺された。それだけが、紛れもない事実だった。