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第19話 登場は派手に

「着いたぞ」


「ふーん。ここがそうなのね」


 ケルベロスもとい、ワトソンたち三人に連れられてリディアムの家から移動してきた私は、ようやく目的地へと辿り着いた。


「ずいぶん、立派な建物ね」


「そりゃあ当然だ。ボスが拘りにこだわり抜いて、俺たちに作らせ…喜んで作ったんだからな。立派じゃないと困る」


 なるほど、作らせられたのね。


 どうやら彼らのボスは、自分の部下を手足のように扱うことのできる実力者のようだ。


「これは、少し警戒したほうがよさそうね」


 ワトソンは貧民街を根城にするゴロツキとはいえ、実力はそれなりのものだった。


 そして、そんな彼を部下にするような者ということは、少なくとも彼よりも上の実力者ということだろう。


「なんだ?もしかしてビビってんのか?」


「私が?」


 入り口を前に足を止めた私を見たワトソンは、それを恐怖に足がすくんでいるとでも思ったのか、馬鹿にするように笑いながらそんなことを言う。


 だから私も、そんな彼に対して微笑みながらこう返す。


「ふふ。まさか。むしろ…どんなおもしろい相手が待っているのか、楽しみなくらいよ」


「チッ。やっぱ狂ってるな」


「あなた、そう言うのはせめて本人がいないところで言ってくれるかしら。さすがに面と向かって言われると、癪に触るわ」


「あー、はいはい。すまなかったな。だからその剣から手を離してくれ」


「次に同じことを言ったら切るから」


「はいよ。はぁ…なんか、この女王のような威圧感…ボスにちょっと似てんだよなぁ……」


 そんなワトソンの最後の呟きは無視して、扉へと近づいた私は、じっと扉のことを見る。


『カルナ、どうやって入るつもりぃ?』


『そうね。ここはひとつ、堂々と行きましょうか』


『堂々とぉ?』


 そんなリアの疑問に答えるように、私は無言でアポクリスを抜き、構えもせずに一太刀する。


 すると、空気が裂ける音と共に、一瞬で厚い木製の扉は紙のように切り裂かれた。


 破片がガラガラと崩れ落ちる音が鳴り響く中、私は建物の中へと踏み込み、中を見渡す。


 一見、酒場のように見えるこの場所は、中はとてもきれいで日当たりも良く、どちらかと言えば商業ギルドのような清潔感があった。


 そして、さらに内側へと目を向けると、そこには椅子から転げ落ちる男や口紅が頬まで行ってる女。


 その他にも、状況が処理しきれないのか、唖然とした表情でこちらを見ている男女が10人ほどいた。


「何のアポもなく、突然のご訪問失礼するわ。ここのボスって人に会いたいのだけれど、その人は今どこにいるのかしら?」


「……………」


 しかし、そんな私の問いには誰一人として言葉を返すことはなく、未だ彼らの間には困惑が広がっていた。


「ふむ。誰一人答えてくれないなんてね。ワトソン」


「なんだ」


「ボスはどこにいるのかしら?」


「この時間なら、多分上にいるんじゃねぇか?」


「ふーん。やけに素直に教えてくれるのね」


「そりゃあ、今さらどうすることもできないからな。扉を壊した時点で、お前がボスに目をつけられるのは確定した。なら、場所を教えたところで何も変わらねぇよ。それに、お前をここに連れてきた時点で、俺たちももう終わりだからな」


「なるほどね」


 初めて戦った時から思っていたのだけれど、ワトソンは筋肉な見た目とは違って頭が回るようだ。


 状況を判断する能力と、その中で何をするのが最善かをちゃんと理解しているのがその証拠だ。


 --ちょっと、彼のことが欲しくなったかもしれないわ。


 もちろん、駒としてだけれど。


「な、なんだよ」


「いいえ。ただ、妹さん以外にも欲しいものが見つかっただけよ」


「なんか、すごく嫌な予感がするんだが……」


「ふふ。気のせいよ。それより、そろそろこっちを何とかする必要がありそうね」


 そんな会話をしている間も、時が止まったわけではないため当然だけれど周りの人たちは動き出していた。


 そして、剣や杖を構えた彼らは、怒りに満ちた瞳で私のことを睨み、声を荒らげる。


「テメェ!どこのもんだ!!」


「ワトソン!あんた、ボスと私たちを裏切るつもり!!?」


「ちげぇよ。ただ、こいつがボスに用があるって言うから連れてきただけだ。俺がボスを裏切るわけねぇだろ」


「だったら、その扉はどう説明するつもりだ!!扉が壊れたことを知ったらボスが……」


「はいはい。一旦落ち着きなさいな」


 話の方向性が段々とおかしな方向に向かい始めたため、私は軽く手を叩くと、一瞬で全員が黙って私の方を見る。


『やっぱり、カルナってすごいなぁ。なんていうか、不思議と人の視線を惹きつける魅力があるみたぁい』


 そんなリアの呟きを聞きながら、私は集まった視線など気にも止めず、ゆっくりと口を開く。


「あなたたちの裏切った裏切ってないは、あとで話し合ってくれるかしら。さっきも言った通り、私の用事はあなたたちのボスに会うことなの。だから、さっさと私の前に連れてきてくれないかしら?」


「ボ、ボスに会いに来たって……」


「このまま連れて行った方がいいんじゃ?」


「いや、でも…襲撃してきたやつをそのまま連れて行くのもどうなんだ?」


 --ああ、ダメね彼らは。


 判断が遅いし、頭も回らない。


 これじゃあ、使い物にならないわね。


「おい!このままボスに、何者かも知れないやつを会わせることはできねぇ!ボスに会いたきゃ、俺たちを倒していけ!!!」


「これはまた、物語でよく目にする展開とセリフね」


 ただ、一つだけ違うところがあるとすれば、彼らのそのセリフはプライドからくるものではなく、何もせずに私という襲撃者をボスの所に連れて行った後、自分たちがどうなるのかを心配してのセリフっていうところかしら。


 その証拠に、彼らの意識は私ではなく、上の階にいるボスに向けられているのが伝わってくるもの。


 とはいえ、彼らが私に武器を向けたことは事実だから、ここは私も受けて立つのが礼儀というもの。


「ふふ。まぁ、元からすんなり行くとは思ってなかったから、むしろ展開が早く進んでよかったわ。ということで、お望み通り、ボスに会うのはあなたたちを倒してからにしましょう」


『はふぅ。カルナのかっこいい姿がまた見れるよぉ!』


 私はそうして優雅に笑うと、リアの楽しそうな声を聞きながら、愛剣であるアポクリスとアルティミアを鞘のまま抜く。


 そして、男たちに向かって音もなく床を蹴ると、鞘に身を隠したアポクリスを一閃……


「ぐぁぁぁあ?!」


 --風切り音と共に、一番近くにいた男の肩口を打ち抜く。


 骨の軋む音と共に、彼は悲痛に満ちた声を上げながら、無様に床へと沈むのであった。






「さて。これで全員が片付いたわね」


 最後の一人を地に付した後、私は倒し残しがいないか周囲を確認する。


「うぅ……」


「いてぇ……」


 すると、綺麗だった屋内には壊れたテーブルや椅子で散らかり、10人の男女の姿が気を失ったりうめき声を漏らしながら倒れていた。


「容赦ねぇなぁ」


「そんなことないでしょ。ちゃんと殺さないよう鞘で殴ったのだから、むしろ感謝してほしいくらいだわ」


「それはそれで、痛いと思うんだけどなぁ」


「私も、叩いてもらおうかしら」


 ポヨンとシースの反応はどうでもいいとして、リアは大丈夫かしら。


『ふへへ…カルナはやっぱり最高だねぇ。見ててゾクゾクが止まらないよ』


 ……うん。彼女もちょっとヤバそうね。


  今は、触れないでおきましょう。


「うっせえぇぇぇぇえ!!!!」


 そんな上階から響いた怒声は、天井を震わせ、埃を舞い上がらせる。


 直後、床板を蹴破る破裂音と共に、一人の少女が目の前に降ってきた。


「うるせぇ!騒々しい!静かにしやがれ!!人のアジトでドタドタと何の騒ぎだ!!!」


 乱れた紫色の髪を掻き上げた少女は、周囲をサッと見渡すと、最後に髪と同じ紫の光を湛えた瞳で、まっすぐ私を射抜く。


 その瞳は、氷のように冷たく、刃のように鋭く、そして…警戒と疑問が入り混じっていた。


「こりゃあ一体、どういう状況だ?なんで、うちの奴らが伸びてやがる。もしかして……あんたがやったのか?」


「そうだと言ったら?」


 少女は戯けたようにそう答える私を見て、さらに威圧感を増すと、吐き捨てるように言い放つ。


「ぶっ殺す」


「ふふ。シンプルでいいわね」


 目の前にいる少女が口にするにはあまりにも物騒な言葉だけれど、彼女の瞳からはそれが本気であることが伝わってくる。


「ふむ。興味深いわね」


 --年齢は、十五歳くらいかしら。


 かなり小柄ではあるけれど、見た感じ私とそう年齢は変わらない少女。


 けれど、彼女が登場したことで場の空気が一気に変わった。


 私に負けた床に転がっていた人たちは、全員が恐怖や期待という畏敬の念を抱き、彼女を見ている。


 そして、後ろにいるワトソンたちもまた、彼女のことを静かに、けれど敬意を持った瞳で見続けていた。


「なるほど。状況から察するに、きっと彼女こそが、彼らのボスなんでしょうね」


 どんな人がボスなのかと思っていたけれど、これは…ちょっと予想外だったわ。


 でも、それと同じくらい楽しみでもある。


 だって、彼女が見に纏うその雰囲気は、ワトソンなんて比べものにならないほど、強者としての威圧感を放っていたのだから。



 --ふふ。これは、面白くなりそうね。



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