そんなこんなで、訓練場の中央で対峙する俺とギルマス。
「普通なら強制招集掛けて職員が出払ってる状況だ、初心者講習なんぞ出直して来い!で終いだが、キサマは中々面白そうな奴だ、ワシが直々に見定めてやるわ!」
「チョット待ってください、初心者の講習でしょ? なんか目的変わって無いですか?」
「ふん、普通の初心者はまずワシを見ただけでチビリそうになってダンマリじゃが、キサマはビビっちゃいるが何処か飄々として、軽口なんぞ叩いてる時点で
そりゃまあ、中身アラフォーだし、一回死んでるし、転生してるし、普通じゃ無いわな。
「それに、その辺の餓鬼とは根本から違う、何処か達観しておる様な……年齢不相応な余裕が見えるしのう」
ギルドマスターが隻眼を、俺の内面まで見透かそうとするかのように細める。俺の精神年齢と見た目の若さのギャップは相当な違和感なのだろう。
「そう言えば……ヨシダさんは文字の読み書きも出来て書類は全て直筆されてました。あ、でも年齢は40歳って間違えてて、その後苦み走ったなんとか言ってました」
「……買い被りですよ。ただ、ちょっと人より
「ほう、言ったな? 面白い。その修羅場で培ったものと、トーマスが見込んだ『面白い魔法』とやらを見せて貰おうじゃないか!」
ギルドマスターはニヤリと口角を上げる。全く……この手の
(やっぱり話がそっちに行くよなぁ。トーマスさんは余計な事を……いや、あの状況じゃ仕方ないか)
俺は内心でため息をつきつつ、どう切り抜けるか思考を巡らせる。女神様のスキルを派手にぶっ放せば、この筋肉ゴリラを黙らせることは可能だろうが、後々のことを考えると得策ではない。かといって、ショボいところを見せれば、それはそれで面倒なことになりそうだ。
「さて、最初はその辺の木偶を相手に面白い魔法とやらの試射でもと思ったが、気が変わった、ワシが直々に相手をしてやるぞ。なーに、時間は取らせやせん、ワシが一瞬で終わらすか、キサマがワシを驚かす事ができれば終いだ!」
煽るようにギルドマスターが言う。やれやれ俺が勝つなどミリとも思ってないらしい。
「分かりました、それじゃあご希望通り驚いて貰いましょうか。腰抜かさない様に気を付けて下さいよ」
「抜かせっ! キサマの軽口がいつまで続くか、試してやるわ!」
ギルドマスターはそう言うと、訓練用の木剣構える。その巨躯から放たれる威圧感は半端ない。
(ここまで来たら、やるしかない。やるしかないが……威嚇射撃であの筋肉ゴリラが納得するか?……いや無理だ。全力で打ち込まなきゃ驚かないだろう……)
「講習を始める前に一つ確認させて欲しいのですが、俺の使う攻撃魔法はトーマスさんが話した様に途轍もない破壊力です。こんな地下でぶっ放して生き埋めはゴメン被りたいので、俺が全力を出してもいいのか確認したいのですが」
「此処に来てハッタリか? まあ良いノノリア、コイツに説明してやれ」
「はい、ギルマス。えー、この地下訓練場には魔法の射砲撃にも耐え得る二重結界が張れるようになっています。後衛職、特にヨシダ様の様な攻撃魔法を得意とされる方が全力を出せる様に配慮されています。因みにですが、この結界はAランクの魔導士が複数同時に集中砲火をしても十分に持ち堪えるだけの耐久力を有しています。」
「と、言う事だ。くだらん心配なんぞ必要ない。キサマの全力……見せてみろ!」
「分かりました、言質取りましたからね? では、全力で行かせて貰います」
俺は覚悟を決め、シューティングゲームでボス戦に挑む時のように集中力を高める。
「ノノリア、ジャッジはお前に任せたからな?」
「了解しました、ギルマス。ではルールの確認を行います。ヨシダ様が戦闘不能となるか、ヨシダ様がギルマスを驚かせる事が出来た時点で講習終了です。初心者講習の一環なので勝敗に関係無く、修了証を発行いたします」
成程な、あくまでも俺がギルマスの胸を借りて、何処まで出来るか見るつもりか。
「では、双方開始線に付いてください」
この訓練場は地下に有るが、四方50m、天井の高さは目の前の筋肉ゴリラの身長の約2倍程、5m近く有り、バスケットコートの2〜2.5倍の広さは有るだろうか? そして、その周りを二重に囲む高さ1m程の壁には、魔法陣がビッシリと書き込まれ所々に魔法石が嵌め込まれている。
その中心を示す✖️印に立つノノリアが双方に移動を促す。前衛のギルマスは✖印から5m離れた前衛ラインに立つ。一方後衛の俺は反対側の前衛ラインから更に5mほど後ろの、後衛ラインに立つ。
「では、二重結界を起動します。双方準備は宜しいですか?」
何やら魔導具らしき物を操作して、二重結界を起動するノノリア。既にトーマスさんは結界の外へ出ており心配そうに此方を見ている。トーマスさんに向かって一つ頷くと、俺は正面のゴリラを見据え、ノノリアの問いに答える様に、得意のアケコン
「オイオイ、その構えでワシとやり合うつもりか? まるで構えがなっておらんでは無いか」
(クッソ、好き放題言いやがる。構えなんざ如何でも良いんだよ。ドラゴンが構え取るかよ? 取らねえだろ? でも最強だろが!)
内心ではそう思いつつも、極めてクールに答えてやる。
「良いんですよ、俺は
そんなやり取りを他所に、中心の印から後退り片手を挙げるノノリア。いよいよ始まるガチンコ勝負……頬を伝う一筋の汗、心臓の鼓動がやけに耳につく……緊張し過ぎてやばい。
「ヨシダ殿、見せ付けてやりましょうぞ!!」
トーマスさんが俺に何か言ってるが良く聞こえない。頭の中は真っ白、喉はカラカラで軽口の一つも出てこない。
こんな緊張感は小学生の夏休みに出場した、ワトソンソフトが主催する夏のシューティングキャラバン地方決勝戦以来だ。
「双方位置に着きましたね? ソレでは…………始めっ!」
掛け声と共に振り下ろされるノノリアの腕……その刹那、まるで瞬間移動の如く目の前に迫るゴリラが一頭。
たった一歩でこちら側の前衛ラインまで迫る瞬発力!完全に見誤った、あの巨体から勝手にパワータイプのウスノロだと思っていたが、その重量を物ともしない膂力は、筋肉ゴリラをマッハで撃ち出す。
……不味い、既に二歩目のモーションに入り、腕を大きく開いて横薙ぎの構えだ。
思考よりも早くバックステップで避ける!
ゴオォォッ!
間一髪、1フレーム前に俺がいた場所は、途轍もない轟音と共に剣尖が走り、大気を劈く。
「くぅ〜〜、っぶねぇー」
途轍もない剣圧に、斬れて無いかと腹をまさぐり確認しつつ、更にバックステップで距離を取る。
「ほう、今のを避けるか。ワシも鈍ったかの?」
(そりゃ避けるでしょ、てか、避けなきゃ真っ二つだったろがっ! いきなり初心者相手に手加減無しかよ、この脳筋は!)
だが、ゴリラレーザーを避けた……反応出来てる……しかもこの新しい体はソレに付いていける。Ah! My Goddess!良い仕事してるぜ!正直、ほぼほぼノープランだったが、これなら避けて射つ、俺のフィールドでヤレる!
「たった一回避けただけで、勝ったつもりか? まだまだ行くぞ? オラオラオラオラァァァー!!」
「疾い、が、全部躱わせば如何と言うことはない!」
ハッハッハァー、こちとら『西方プロジェクト、原住アマゾネス』の様な高軌道弾幕シューティングで鍛えてんだ! そんな
「まだまだぁ! フンフンフンッ!!」
流石ギルマス、S-は伊達じゃねえ、縦横無尽に繰り出される斬撃を、その有り余る膂力で避けた方向へ剣筋を
「痛っ! かすったか?」
「如何した、如何した、逃げてばかりじゃつまらんぞ!」
「ハァハァハァ……フゥー」
(言ってくれるね、丸腰の初心者後衛相手に無双とか、頭に筋肉しか詰まって無いのかよ!)
とは言え此方も攻撃パターンが読めてきた。縦切りは疾くてホーミングしてくるが左右に大きくズレれば避けれる。厄介なのが横薙ぎだ。隻眼で死角が有るのを熟知してるからか、縦切りを死角側に避けるとほぼセットで薙いでくる。これを避けるには大きく後ろに下がる必要が有り体力を消耗する。
「避けるだけで何もしないのか? ソレとも出来ないのか?」
「いえいえ、初心者で後衛の俺がこれだけ攻撃を避けてるんですから、十分驚きに値するのでは?」
「確かに、このワシの攻撃を此処まで躱わす初心者は中々居まいて。だかな、キサマも面白い魔法を披露せずに終わっては、詰まらんだろう?」
(何で脳筋はこんな時だけ頭回るかな? やっぱ見せなきゃ終わらんか? だけどこの筋肉ゴリラ、素早くてターゲットマークを悠長に合わせてる暇が無い……さて、如何したもんか?)
「ぼけっとしてると、真っ二つだぞ!」
「全く、どんなパワーしてたら、10mの距離を一歩で詰めれるんだよ?」
木剣を高く振り上げ此方に飛び込んで来るギルマス。焦れて勝負に出たか? ワンパターンだな、大きく後ろに飛び退る。
数フレーム前に俺のいた場所に叩きつけられる木剣。後ろに飛びながら、その姿を確認してチャンスだ!……そう考えた刹那、
「
そう叫びながら、全身が赤いオーラに包まれたゴリラが再び目の前に迫り来る。
「身体強化スキルか?」
「わっはは! チョコマカチョコマカ逃げくさりよって、じゃが、
流石は元熟練冒険者! 完全に嵌められた。如何する?
(どうする?どうする?)
「キサマは良くやった、じゃが観念せい、ワシが最強じゃぁー!!」
(コイツ負けたく無いだけじゃねーか。クッソ頭来た、もう我慢はやめだ、やってやんぜ!!)
体を横に捻り空中の不自然な体勢で『ノーマルショット』を地面に向けてぶっ放す!
ドッゴォォォォォーーーン!!
訓練場の地面で炸裂したノーマルショットは、地面を穿ち爆風を巻き上げ、俺の空中軌道を捻じ曲げる。爆風に煽られ土塊と共に投げ出された俺は地面を転がる。
強かに打ち付けた体が痛み、キーンとした耳鳴りが平衡感覚を狂わす……それでもすぐさま体制を整え、ブレる視界に敵を収める……土煙の中に巨体の影が揺れている。
「スピーーダァーーーーープッ!!」
雄叫びと共に、虎の子のゲージを消費しギアを一段上げる。瞬間、俺の体が青白く光り輝くオーラに包まれる。音速の速さを手に入れた俺は全力でヤツの後ろへ回り込む。
走りながらスキルをぶっ放す為に辺りを確認する、トーマスさんとノノリアは離れた場所にいる。強制招集のお陰かギャラリーはその二人だけで射線上はオールクリアだ。
「よっし、ターゲットロックオン」
お望み通り見せてやるぜ『ノーマルショット』、ファイヤー!
「アタタタタタタタタッーーーーーー!!!!」
アケコン
ドドドドドドドドドドドドゴォーーーーン!!
「ヨシダどのー、やり過ぎですぞー!」
「キャーーー、そんな……結界が……ギルドが誇る二重結果が……破られたの?」
連続する着弾音、ガラスが割れた様な硬質な音、トーマスさんの雄叫びとノノリアの悲鳴……視界に入る全ての物を、打ち抜き、穿ち、破壊する。ギルド自慢の強固な二重結界すら、圧倒的な
……………………
………………
…………
……
「ハハハッ…………キレ散らかして、ついやっちまった」