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第11話 「毒の兆候」

美豚びとんを消滅させ封印する為に、白龍パイロンの正妃として迎えられる為にも、ダイエットをせざるを得ない状況となった神美かみは、上流階級の妃達が暮らす、五つの後宮の内の一つ───「麒麟宮」で暮らす事となった。


「先ずは、 度量衡医士どりょうこういし達に頼んで健康診断ねっ」


「どりょうこういし?」


「身体に異常がないか…と、長さ・体積・重さを測る専門の医官の事よ。アタシのような上級な妃は、定期的に診てもらうのが決まりなの。生まれも育ちも恵まれた妃候補は心配いらないけど、稀に妓女から妃候補として引き抜かれる娘も居るからねぇ…。」


自分の身体を売っていた女性を「妓女」と言うらしい。何処の馬の骨かも分からない男性と交わる事で、病気を移されて死んでしまった人も居たとか……。


「妓女出身の子は、色んな殿方と性接待を交わしているから、性病を持っている事も少なくはないの…。」


「どんなに美しい容姿をしていても、身体が寄生されてるなら意味がないのよねぇ……。だーかーらー、アンタも万が一って事がないように…診てもらうのよ」


「あ、あ、あたしそんな病気なんて持ってないよ!?。ファ、ファーストキスだって…ま、まだしてないしぃ~……ごにょごにょ…」


「あーそうよねぇ~♪、まだ知らないものねぇ~?。ぷぷぷ……お子ちゃまねぇ~」


「な、な、な、なによーーー怒」


「そういえば、 度量衡医士どりょうこういしに新しい方が入ったらしいわよ。しかも、動物まで診れるとか……」


「ほら、動物ですって~、豚だから丁度良かったんじゃないの?」


「あら、黄杏ファンシィだって立派な動物じゃないの~笑。最近短気が目立つから、診て戴いたら?」


「怒!!柘榴シィーリオッ!!あんた喧嘩売ってんのッ!!?」


柘榴シィーリオちゃん!もっと言ってやって!!」


夜も更けたというのに、麒麟宮は賑わい、今まで静寂に包まれていた後宮に明るい兆しが見えていた。





ガラガラガラガラ─────


白梨国はくりこくに馬車が一台、深夜の都を通過する───

馬車の中では年老いた医官三名と、蒼く長い髪の毛を左右に二つ、輪っかに結った、口許を白い布で覆った青年が一人……。落ち着いた様子で瞳を閉じながら、老医達の話に耳を傾けていた。


「いや~、 度量衡医士どりょうこういしにこんな優秀な人材が居たとは……」


「それに、動物まで診れるとは……、藍猿ランホウ先生は凄いですな……」


「そしてこの中性的な美しさ……、妃達も嘸かし御喜びになるでしょう。」


藍猿ランホウと呼ばれた青年は、老医達の言葉に喜色満面となった。


「いえ…、先生方には敵いませんよ」


「はっはっは…──その上、謙虚と来ましたか……」


度量衡医士どりょうこういしとしては、まだまだ未熟者なので……、御教授戴けますと幸いです。」


「そう言えば…、白梨国はくりこくの麒麟宮に新しい妃が入ったとか……」


「ええ!?、麒麟宮はあの気の強い妃しか居らぬ筈では……」


「それが……何やら訳ありらしく……。」


「噂によれば、陛下の正妃として決まっているとか……いないとか」


「そうだとしたら一大事ですな」


「しかし……、またが起こらぬといのですが……」


「?……とは?」


「嗚呼…、藍猿ランホウ先生は初めてでしたな。」


白龍帝はくりゅうていの正妃候補として選ばれた者が、毒殺されるという……悲惨な事件が勃発した時期がございましてな……」


「毒殺……?」


「正妃として選ばれる前夜に、何者かが妃に毒を盛ると言う……」


「毒味役もお手上げな難関事件……と言うより、呪いですな。」


「だとしたら……、その麒麟宮の…正妃として決まっているかもしれない妃は……」


「……殺されるかもしれませぬ」



藍猿ランホウの閉じていた瞳が、ゆっくりと開眼する。

その瞳は、深みがかかった真紅色だった。



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