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第13話 「胸騒ぎ」

宮殿にて─────


「───この香り……」


鼻をすんすんとさせ、白龍パイロンは室内の匂いを嗅ぎ始める。

何処か懐かしいような……、しかし嗅ぎ慣れないの香りが混ざっている事に違和感を覚え始める。

その様子に周りに居た家臣達も白龍パイロンと同じ様に鼻をすんとさせると、直ぐ様鼻を抑え、中には嘔吐えずく者も居た。


「へ……陛下!!…嗅いではなりませぬ!!───ヴヴ……ッ!」


バタン!────と、家臣が一人…二人と、次々と倒れていく。白龍パイロンが家臣の一人を抱き起こすと、眼が♡マークに変形していた。


「これは…!───媚薬?」


「キキッ!」


「…お前は……────」


「キィーイ?」


首を傾げながら、白龍パイロンの目の前に現れた青い小猿は、何とも愛らしい表情を浮かべていた。

白龍パイロンは、この小猿に見覚えがあった。そう……それは───まだ完全に白龍パイロンロンであった時代。五龍ウーロンの内の一匹・青龍チーロンが世話をして、手懐けていた蒼猿だ。


「うへ……うへへ……藍猿ランホウ様……」


抱き起こした家臣の口から聞き慣れない名前。

白龍パイロンは胸騒ぎを覚える。虫の知らせならぬ"猿の知らせ"というやつなのか───


「…藍猿ランホウ?───」


「キィ!キキキキッ!キィーキッ!」


「……着いて来いと……申すのか?」


「キィ!」


「まさか……青龍チーロンが?───」






「覚悟────」


「ひえぇぇぇぇ!?」


どうしよう……、黄龍ファンロンは完全に気絶しちゃってるし……────あたしには何が出来るの?……


「……」


おばあちゃん……こんな時、おばあちゃんだったら────


《冷静な相手程、隙がねぇ……───だからこそ、油断させるんじゃ……、それも……突拍子もない事でな》


(突拍子もない……───そうだ!!)


神美かみは大きく息を吸い込む。


「…お猿のお尻は赤いのよ~♪なんてプリプリ桃のケツ~♪ずる賢いのは親猿がぁ~♪しっかり教育したからよぉ~♪あーらよいさモンモンキッキッ♪みんなお尻を出しましょいっ♪喧嘩した相手ともぉ~盃交わせば仲直りぃ~♪お友達ぃになりましょ~♪」


少し頬を紅潮させ、歌い切った神美かみは恐る恐る藍猿ランホウを見ると、何故か俯いて、肩を小刻みに震わせていた。


「あ……あれ?」


「プッ────…あははははっ!!ははははっ!はははっ!!ああ……ッ!!腹部が……腹部がっ!!」


「笑って……る?(え……意外に笑い上戸?とゆーか…笑いのツボが浅め?)」


「……ったく、笑い上戸なのは昔から変わってないわね」


「あ!黄龍ファンロン~!!涙 大丈夫!?」


「なんとかね…───あんたは……大丈夫そうね」


「えっへん!この通りっV」


「なぁーに威張ってんだか……。それより…───随分と手荒な真似するじゃないの?。どっかの馬鹿なの影響かしら?───青龍チーロン


「フフフ……──彼等と一緒にされては、少々困りますかね」


「東を放棄してまで、此処に来た理由は何?。白龍パイロン龍仙女ロンシィェンニュ様の約束を忘れた訳じゃないわよね?」


「いや…黄龍ファンロン……人の事言えないよね?」


「何ですってぇ!?どの口がそういう事言ってんのかしらぁ~!?怒」


「いででででで!?ひょっほぉー!!ほおひっはははひへほ~!!(ちょっとぉー!!頬引っ張らないでよ~!!)」


「驚きました……、黄龍ファンロンが人間に懐くなんて…」


「はあ!?懐くぅぅ!?」


「これの何処が懐いてるの!?」


「ふふ、今は気付かなくても大丈夫ですよ」


「なんか……不思議な人だね……」


「此奴だけは、なーんか喰えないのよねぇ…。ああ……猿を手懐けてるだけでも恐ろしいって言うのに────ん?」


「キキッ?」


黄龍ファンロンの肩に。かなり小さい、青い小猿がいつの間にか乗っていた。


「わあ~、小猿だ~!可愛いっ」


「キィ~♪」


「ぎゃあああああああああ!?ちょ、ちょちょちょちょちょっと!!!この小猿なんなのよーーーーッ!!!!?」


「!…、お師匠!」


「おししょう?」


「キィーイ!キキッ!」


小猿が藍猿ランホウの肩に飛び乗ると何かを必死に訴えかけ、藍猿ランホウ神美かみを凝視する。


「───何をしている」


肩に置かれた力強く優しい手─────

庇うように、高貴な衣の袖で顔を隠された。風で靡く、美しい艶のある黒い髪───

そっと鼻腔に運ばれた、脳内に浸透するような白檀香の香りに神美かみは胸がときめいた。


自然と紅潮する頬────そのときめいた人物の胸に、自然と顔を埋める体勢となっていた。


「……小龍シャオロン…!」


「大丈夫か?神美かみ……」


「あ、あ、あ、あたしはだ、だ、だ、だ、大丈夫!!!!」


「そうか……、ならい。……百官含め、妃達に媚薬をかけたのは……───青龍チーロン…そなただな?」


青龍チーロン────

そう呼ばれた藍猿ランホウは、白龍パイロンに頭を垂れて蹲う。


「…お久しぶりです、白龍パイロン……──数々の無礼をお許しください……。龍仙女ロンシィェンニュ様から戴いたお告げ……──そして、この後宮内に立て続けに起きた毒殺事件について……。」


「……あの悲惨な……事件の事か───」


「今まで、正妃として迎えられようとしてきた妃達だけが、必ず毒を盛られて死んで行ったと……老医達に聞かされました。……もしそれが必然であるとならば……、そちらの妃は殺されます。」


神美かみを一瞥する藍猿ランホウ


「え…!?」


「しかし、妃達に毒を盛った下手人は捕らえた……。もうあの様な事は…起きない筈だ──」


「……それが偽物で、また別に指揮している者が居たとしたら?」


「何──!?」


藍猿ランホウがゆっくりと開眼すると───媚薬が切れたのか、柘榴シィーリオを始め老医や妃達が頭を押えながら起き上がる。

すると───白龍パイロンの顔を見た妃や老医達は甲高い悲鳴を上げた。



(毒殺事件……?)


「……」


「ねぇ、黄龍ファンロン……そんな物騒な事件があったの?───って、黄龍ファンロン…?」


黄龍ファンロンが憂いに満ちた表情で胸を抑えていた。

そして蚊の鳴くような声で


「ごめんなさい…………」


そう呟いた

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