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第15話 「病に冒された心」

黄龍ファンロンの体調が芳しくないと…?」


「……はい」


「そうか……、昨日まではあんなに元気そうにしておったが……」


謁見の間にて───

度量衡医士どりょうこういしこと──五龍ウーロンの内の一匹・青龍チーロンを招き、数年前に起きた『妃・毒殺事件』の真相についてと龍仙女ロンシィェンニュのお告げが美豚ビトンに関連している事が判明したので、その事について話を進めようとしたのも束の間、黄龍ファンロンの体調が芳しくないと───謎の宦官・翠麟スイリンと名乗る者が白龍パイロンに告げたのだった。


コソコソ

「ねぇねぇ先生……」


「はい?」


「あの宦官さん……黄龍ファンロンに似てない?」


「……中々鋭いところを突きますね……、私も同じ事を思っていました。」


翠麟スイリンって言ってたよね……──黄龍ファンロンのお兄さんか弟くん?」


「…いえ、もっと身近な者でしょう」


「え……それって────」


「どうでしょうか?、黄龍ファンロンの代わりに、わたくしが此方の妃の教育係というのは」


翠麟スイリンは満面の笑みで背後から神美かみの両肩を掴む。掴んだ手には物凄い力が込められ、ぎゅむ!っと肩の肉を思い切り掴まれる音が耳許に響いた。


「いでぇぇぇぇぇッ!?」


「何故、神美かみは痛がっておるのだ…?」


「いえ、喜んでいるの間違いです。」


「────喜んでないよ!!!」


「……この僕に面倒見て貰えるって言うのに……───贅沢な女だね」


「こっちから頼んでないってーの!!怒」


「……白龍パイロン───私が神美かみさんの教育係として側仕えになるというのはどうですか?」


「先生が!?」


「然し…、後宮は男子禁制。 度量衡医士どりょうこういしは、妃達の身体を診る為に一時的に特別に許可をされているだけであって……」


「なら、男でなければ良い話ですよ」


青龍チーロンが身体から青い煙を撒き散らした。

すると───煙の中から、美しい美女が現れ、たわわな胸に艶かしい雰囲気に誰もが魅了されたであろう。


「これなら文句はありませんよね?」


「せ、先生ーーーー!?どっからそんな爆乳ダイナマイト出てきたのーーー!?触っていい?触ってもいいよね?!」


神美かみ…、はしたないぞ」


「はっ………───つ、つい……」


「どうです?」


「そうだな…、そなたが傍に居れば………神美かみも安心して過ごせるであろう……」


「僕は反対です!!!、なんでこんな変態医師なんかに……!!」


青龍チーロンは優秀なロンだ。心配せずとも良い」


「っ…ですが!」


神美かみの事もそうだが、……数年前に起きた毒殺事件………、青龍チーロン…本当に別に犯人が居ると……?」


「はい───これは間違い無いと思われます。……他の医士達からの話によると、当時捕らえられた罪人は捨て駒にされたに過ぎないと……──そして、事件当時に流行病が流行っていたのです。」


「流行病?」


乳癌ルーアイです。……女性の乳房が病に犯され、高確率で命を落とす……、今の現時点では治療法が見つかっていないと言われている病……。しかし、乳房を切り落とせば生存率は上昇すると言われています。」


「その病と毒殺事件が関係しているのか?」


「…当時、陛下の妃として選ばれた者達の殆どは乳癌ルーアイの病にかかり、万死の床に臥していました。そして、その中で病にかからなかった妃が、正妃候補として選ばれた……──でも、それは仕組まれた物でした」


「仕組まれた物だと?」


「正妃候補として選ばれた妃達は、わざと生かされていたのです。自分の手で、殺す為に。」


「そんな……!流行病なのに……それじゃまるで、その犯人が広めたみたいな……」


神美かみは何かに気付き、青龍チーロンの顔を凝視した。

すると、青龍チーロンはこくりと頷く。


「その通りです。これは憶測に過ぎませんが……、その犯人は、きっと自身も病にかかっていたのでしょう……。病にかかっているからと言って、後宮を追い出される訳にはいかない……───なら、全員にかけてしまえば良いと…」


「そんな事が可能なのか?」


乳癌ルーアイは、勿論生まれ持った体質にもよりますが、肥満の女性に多い傾向が見られます。過剰な脂の摂取や、酒と煙管……──しかし、妃は美しさを保つ為、食事制限を設け──酒と煙管の摂取は禁じられていました。でも……その者はきっと、妃の食事に肥えさせる為に油や酒……──香の中に忘れ草を細かく刻んだ物を少量……忍ばせて吸わせていたのでしょう。」


そうして、下級妃・中級妃の順に……──

上級妃の正妃候補は残して……


「最後は一騎討ち……と、言ったところでしょうか……。きっとその方は、どの妃にも慕われ、寄り添うフリをしていて油断させていた……」


「なんで……そんな……───病気だったからって……、皆を巻き込むなんて酷いよ!!」


やるせない思いに神美かみは涙を零した。溢れ出る涙は、巻き込まれて死んで行った妃達に対するもの……


「───……陛下を、誰よりも愛していたから……」


翠麟スイリンは自分の胸に手を当て、瞳を潤ませていた。

それはまるで、罪を誰かに背負わせてしまったかのような……、自分は何故、今を生きてしまっているのか?……その様に問うような瞳に、神美かみは少し罪悪感を抱いた。


「…鋭いですね、その通りです。乳房は女性の象徴とも言えますからね……。その方はきっと、自分に価値が無いと卑下したのでしょう…。そして、自分以外の者が正妃になるくらいなら………」


「自分の手で、何もかも……という訳なのか───」


白龍パイロンは拳を硬く握り締める。

自分が原因で引き寄せてしまった自責の念であろう……


「…神美かみさんは確実に狙われます。」


「いいよ!、あたしは狙われてもいい!!。あたし……、許せないよ!!。そんな事した奴、一発ぶん殴らないと気が済まない!!………それに病気だからって……自分に価値が無いとか決めつけるなって!!」


神美かみ……」


「ふふ…、流石は龍仙女ロンシィェンニュ様の孫娘様ですね。」


小龍シャオロン!!あたし頑張って正妃になる!!。あたしが正妃になれば……その犯人はきっと姿を現す筈よ。」


「…そなたを危険な目に合わせる訳にはいかない。それとこれとは話が別になる」


「あたしはおばあちゃんの……──龍仙女ロンシィェンニュの孫だよ。そんな簡単に死なない」


神美かみの凛とした表情に、その場に居た誰もが息を呑んだ。

そう、それは───嘗て仕えていた

龍仙女ロンシィェンニュと同じ表情をしていたからだ。


「……青龍チーロン、護衛をしっかりと頼むぞ」


小龍シャオロン…!」


「ふふ、承知しました…陛下」


「ふん……、変態医師に、その豚を守れるわけ?」


「ちょっと凄い失礼なんですけどっ!!?」


「勿論、貴方にも協力してもらいますよ……───翠麟スイリン様?」


不敵に笑う青龍チーロンに、翠麟スイリンは背筋を凍らせたのだった。

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