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第9話

しかし、この子がさっきの女の子なのか。

ついさっきまで、傷や汚れでよれよれだったから良く分からなかったけど、かなりレベルが高い。

超絶美少女のネールには劣るけど、家庭的って言うか純真って言うか、なんとも男受けする容姿をしている。

いわゆる、お嫁さんにしたい女の子ってやつだ。

そして何より目を惹くのが、頭の獣耳だ。

二次元でしかお目にかかった事のないケモ耳美少女が、今俺の目の前に居る。

「おお、感動のない人間なハヤトさんが、珍しく感動している」

別に、感動くらいある。

ただ表情に出にくいだけだ。

ツッコミながらも、俺の視線は目の前の女の子に釘付けだった。

「……はぅ」

そうやって見つめていると、女の子は怯えた表情でネールの後ろに完全に隠れてしまった。

「おや、嫌われましたね」

「……マジで止めてくれ」

ショックで膝から崩れそうだ。

あと、こころなしかネールの視線が厳しい気がする。

「なにか、気に障ることでもあったのか?」

「別に。ただ、主様もそうなのかなって」

……そうって、なんだ?

「そう言えば、ハヤトさんの居た世界には獣人は居なかったから知らないんですね。この世界では、獣人の扱いは低いんですよ」

「迫害、されているのか?」

「迫害なんてもんじゃないわ。ほとんど家畜みたいな扱いをしている国だってあるくらいよ」

ネールは憤りを隠そうともしないで吐き捨てる。

「見た目がちょっと違うからって、魔物と交配したとか堕落した人類とか、言いたい放題よ」

本気で怒っているのか、聞いてもいないのに説明までしてくれる。

分かったから、俺に殺気を向けるのをやめてくれ。

しかしそうなると。

「君も、そんな扱いをされていたのか?」

「ッ!?」

話しかけると、ビクッと身体を震わせて固まってしまう。

どうやら、そうだったらしい。

だとすれば俺に怯えて当然だろう。

今まで自分を迫害していた人間の、それも男なんだから。

「まぁ、それでなくてもハヤトさんって見た目暗くて怖いですからね」

今、真剣な話をしてるから黙っていてくれないか。

リゼルを睨むと、肩を竦めて口角を上げられた。

それでも、俺の願いを聞き入れてくれたリゼルは後ろに下がる。

それに視線で礼を言いながら、俺は女の子に視線を合わせるように屈み込んだ。

そうすると、より近くで可愛い顔を見る事ができる。

怯える女の子に、俺は慣れない笑顔を浮かべながら尋ねた。

「君、名前は?」

「……ミリィ、です」

ぎこちない笑顔が功を奏したのか、ネールの後ろから少しだけ出てきてくれた。

うん、良い名前だ。

「主様は、獣人差別とかしないの?」

「しない」

ネールの質問に即答すると、なんだか意外そうな顔をされてしまった。

だから、お前はいったい俺を何だと思ってるんだ。

そんな俺の後ろにいつの間にかやって来ていたリゼルが援護射撃をしてくれる。

「ハヤトさんが差別なんてする訳ないですよ。ハヤトさんはどっちかっていうと被差別者ですから」

どうやら、コイツは俺を貶す事しか頭にないらしい。

もうリゼルに期待するのはやめよう。

「コイツの言ってる事はともかく、ここには君を虐める人間は誰も居ない。安心していい」

俺の言葉を証明するように、リゼルとネールが深く頷く。

そんな俺たち三人をしばらく眺めた後、ミリィはゆっくりとネールの後ろから出て来てくれた。

「ホントに、信用していいんです?」

「ああ、約束するよ」

しっかりと頷いて、俺はミリィの頭を優しく撫でる。

最初に触れる時にはビクッと怯えられたが、やがて安心したように俺の手に身を任せてきた。

少しだけ調子に乗って耳を触ってみると、くすぐったそうに身を捩る。

それでも撫でるのをやめようとすると擦り寄ってくるから、嫌がられてはいないみたいだ。

「まさか、ハヤトさんが女の子に懐かれるなんて……」

「ええ、意外ね」

背後で二人がひそひそ話をしているけど、ミリィが可愛いから良しとしよう。

と言うか、内緒話はせめて聞こえないようにしろよ。

「それでハヤトさん。この子はどうするおつもりですか?」

気を取り直して、リゼルが俺に問いかけてくる。

その言葉に、この場にいる全員の視線が俺に向いたのを感じる。

「私としては、ここで保護したいんだけど」

よほどミリィの事が気に入ったのか、ネールは視線で俺に訴えかけてくる。

「私はハヤトさんの決定に従いますよ」

リゼルは、俺の考えを尊重してくれるようだ。

となると。

「ミリィは、どうしたい?」

そう、大事なのはミリィの意思だ。

彼女が帰りたいと言えば、安全な所まで送り届けるべきだろう。

「……私は、ここに残りたいです」

俺の質問に俯いていたミリィは、やがて意を決したように俺を見つめ返してきた。

「ダメ、ですか?」

「まさか。君がそれで良いなら、俺は歓迎するよ」

そう答えると、ミリィは花が咲いたような笑顔を浮かべる。

そしてそのまま、思いっきり俺の胸に飛び込んできた。

「嬉しいですっ! ご主人様、大好きです!!」

ちょっと待って。

今、俺の事をなんて呼んだ?

「おやおや。年端もいかない女の子にご主人様と呼ばせるとは、いい感じにクズ野郎ですね」

「待ってくれ。俺が呼ばせた訳じゃない」

そもそも、どうして突然ご主人様になるんだ?

「だって、私は今まで奴隷だったです。だから、アナタは私の新しいご主人様です!」

質問してみても、返ってくるのはトンデモ理論だけ。

正直、理解できないんだが。

「まぁまぁ。獣人とダンジョンマスター、迫害される人種同士仲良くしたらいいじゃないですか」

えっ?

ダンジョンマスターって迫害されてるのか?

「いや、普通に考えてくださいよ。何もない所に突然ダンジョンを作ってモンスターを放ち、あげく冒険者たちを屠るなんて悪以外の何物でもないでしょう」

……そう言われればそうか。

だけど、だからってミリィが俺の奴隷になる説明にはならないぞ。

「いや、その説明をする気はないですし」

そもそも、もうなってると思いますよ。

そう言われて慌ててスマホを確認してみると、確かに奴隷の欄にミリィの名前が増えていた。

「どうせだから、ついでにステータスでも見たらどうですか?」

「恥ずかしいです……」

そう言って頬を押さえながら照れてはいるけど、別に嫌がってはいないようだ。

それなら、大丈夫か。

ミリィのそんな様子を確認してから、俺はミリィのステータスを開いた。


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